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第十六話 延長戦、やるか?

第十六話です。宜しくお願いします。

「ヨシシさん、ここまでくれば俺にもわかります。ここからが本題、俺にだけ話したいことがあるんじゃないんですか?」

「やっぱりわかるかい?」

「ちょっと露骨だったかしらねー」


 ヨシシと鳴海は苦笑している。本間は自己紹介以後ずっと口を閉じ、こちらを観察するように腕を組んでじっと見ている。筋肉質のごつい人にじっと見られているとちょっと怖いな。そう思っていると本間は初めて会った時の様に、にやりと笑った。


「まぁ、その話は後だ。まずはお前さんの能力を見せてくれ」

「僕の能力ですか…」

「ああ、お前さんの話を聞く限り、かなり使える能力らしいからな。直に見て確かめたい」


 俺は頷いて立ち上がり椅子から少し離れる。そして、右手を前に向けて俺とダブル優子が座っていた椅子を能力で掴み持ち上げる。

 右手で掴んだ椅子のうち一つを左手掴み、壁際まで移動させてそっと置く。残りも同じようにして、壁際に三脚の椅子を綺麗に並べた。


「こんな感じですかね」


 腕を組みじっと見ていた本間が椅子から立ち上がった。


「なるほどな、それでは少し移動しよう。付いて来てくれ」


 言うなり扉を開けて、振り向きもせずに出て行く。


「本間さんは俺に何をさせようとしているんですか?」

「後のお楽しみよー、付いて行けばすぐ分かるわー」


 鳴海はクスクスと笑っていながら立ち上がる。ヨシシも苦笑しながら本間の後を追う様だ。二人に促され、俺も扉を出て本間を追いかける。

 本間に追いついてしばらく廊下を歩く。進んだ先にある扉を抜けると、その先にもまた廊下が続いている。いくつかの扉を開け、続く廊下を進んだ先、今度の扉を開けると、学校の体育館くらいの広い空間があった。ちらほらと人がいる。

 数人ごとのグループに固まってそれぞれ何かをやっている様だ。奥の方では、空手の組手のようなものをやっている人達がいる。その横の方では、両手を上にあげて何かに集中している人がいる。バレーボールのコートがあり、一対一でお互いにボールを打ち合っている人達がいる。

 広間の隅にはボールが詰まれていたり、平均台や、跳び箱、木刀などが置かれた箱が並べられている。まるで学校体育館か運動場の様だが、よく見ると何に使うのかわからない、消波ブロックが詰まれていたり、金属パイプが転がっていたりする。


「ここは…?」

「訓練所、と呼んでいる。俺たちは政府に追われているからな、能力の有無や違いで異なるが、各々に合った身を守る術を身に着けるために…、訓練しているんだよ」

「ここで俺の能力を見せる、ということですか?」

「いや、ここじゃない。もう少し付いて来てくれ」


 説明してくれたヨシシに質問した俺に、今度は本間が答えてくれる。そして訓練所の向こう側の壁際の扉を抜けると、先ほどの半分くらいの広さの部屋に出た。ここには誰もいないが訓練所と同じく、色々な道具が壁際に並べられている。


「ここは第二訓練所だ。普段は使っていないから人がいない。やるには好都合だろ?」


 最後の部分はにやりと笑いながら言う。今俺と本間は訓練所の中央に二人で向かい合って立っている。ヨシシと鳴海は少し離れたところで立って、俺たちを見ている。

 本間はファイティングポーズを取った。やっぱり格闘技やってる人なんだな。


「周りにあるものは好きに使っていい。お前さんの能力で俺を攻撃して見ろ。俺から手出しはしない。一発でも俺に攻撃を当てたら合格だ」


 能力を見たいってそういうことね。いつの間にかテストになっているみたいだが、そういうことなら合格目指して頑張ってみようか。

 俺は両手を左右に広げ、壁際に積まれている木刀をまとめて使み、本間に向けて投げつけた。左右合わせて六本の木刀が、剣先を本間に向けてバラバラに飛んでいく。

 木刀が当たるぎりぎりで本間は後ろにステップして躱した。


「まっすぐ投げるだけでは当たらんぞ。手加減はいらん。俺に当ててみろ」


 言われるまでもない。木刀はまだまだ詰まれている。俺は両手で木刀を掴み投げる。今度は左右のタイミングを少しずらすとともに片方は少し後ろを狙うように調整した。

 先ほどと同じく、本間はギリギリまで動かない。そして木刀が当たる瞬間、バックステップする。狙い通りだ。

 しかし、バックステップするとともに体をひねり飛んできた木刀を手刀で叩き落した。


「その程度か? まだまだ工夫が足りないな」


 さらに本間は挑発してくる。俺は両手を左右に広げ、まだまだたくさん積まれている木刀を掴むと腕を振り本間に投げる。それも一度ではなく何度も、本間に向け、避けられることも考えて、彼の周りにばら撒くようにして投げ続ける。本間は飛んでくる木刀を躱し、叩き落す。積まれていた木刀は尽きてしまい、叩き落された木刀はすべて本間の周りに落ちて転がった。

 木刀が無くなってもまだ攻撃手段はある。今度はボールが入った鉄製の大きなかごを両手で掴み、大量のボールごと、本間にぶつけようとで振り回した。大量にばらまかれたボールに隠れて、かごが飛んでくるのは避けられないはずだ。怪我をするかもしれないが、飛んでくる木刀を叩き落すような人だ、多分大丈夫だろう…。


 ガッキィィン!


 しかし、予想に反して金属がぶつかりあるものすごい音がしたかと思うと、大きく重い鉄製のかごが、弾かれた様に吹き飛んだ。


 何が起こった!?


 ボールが転がる中心で、本間は拳をまっすぐに突き出していた。膝を少し曲げて足を左右に開き、左手をわきの下に引き付け、右手を前に突き出したその姿勢は見たことがある。空手の正拳突きだ。そして、彼の突き出した右腕は金属製のグローブをつけていた。

 突きの構えを解いた本間は、目が釘付けになったの俺のほうを向く。


「あの重いかごを跳ね返されるとは、思ってませんでしたよ」

「悪くなかったぜ。俺にこれを使わせるとはな…。さすがにあれは素手じゃ叩き落せそうにないからな」

「そのグローブはなんですか?」

「これか? 俺の武器、だな。お前さんも知っての通り俺の能力は攻撃向きじゃない。やつらに抵抗するための、俺なりの工夫だ」

「工夫、ですか」

「そうだ。能力を使える者は使い方を工夫する。使えない者は使えないなりの工夫をする。そうやって皆、己の身を守っている」


 本間は左手で右手のグローブを触りながらそういうと、にやりと笑った。


「かごは跳ね返したが、ボールは避けていない。ダメージは皆無だが当たったのは確かだ、合格だよ」

「そうですか」

「試験はここで終わりだが、…延長戦、やるか?」


 当然だ。これで終わりだなんて、俺は納得していない。意地でも攻撃を当ててやる。


「お願いします」

「そう言うと思ったぜ、ここからは俺も手を出すぞ」


 本間はそういうと右手を前に出し構える。俺は腕を下ろしたまま地面に散らばった木刀を右手で掴む。本間に掴んだことを悟られないように、木刀は動かさない。左手はボールを掴み、注意を向けさせるためにこちらは持ち上げる。

 左手を振り、掴んだボールを一斉に叩きつけると、本間は回し蹴りを放ちボールを叩き落した。

 蹴りを放ち終わった直後の本間に向けて右手を振る。すべての木刀が地面から浮き上がり、本間に襲い掛かる。

 飛んでくる木刀を最小限の動きで躱す本間。俺は空いた左手で躱された木刀を掴むと、反転させて本間に向かわせた。

 本間の右手が動き木刀が次々とへし折られ、叩き落されていく。

 すべての木刀を叩き落した本間の体がぶれた様に見えたと思った次の瞬間、俺の目の前には金属製のグローブが迫っていた。

 ピタリと目の前で止まる右手。寸止めだ。俺は動けなかった。この拳が俺に当たっていたらと思うと、冷や汗が流れ、声も出なかった。

 本間は右手を引き、固まっている俺に声を掛けた。


「試験はこれで終わりだ」


 パチパチパチと拍手の音がする。


「すごいわー、本間さん相手になかなかやるじゃないー」


振り返ると、ヨシシと鳴海がすぐそばまで来ていた。


「会議室に戻って、話の続きをしようか」


ーーーーーー


 部屋に戻るなり、ヨシシが話を切り出した。


「まだ確定事項ではないが…、俺たちは近々、捕らわれた人を奪還する計画を立てている」

「奪還、ですか…」

「ああ、そこで君の力を借りたい」

「アナザー優子ちゃんの彼氏も、一緒に取り戻せるかもしれないわ。だから協力してほしいのよ」

「…この話は優子達には?」

「まだよ。あの子たちに話すのはリーダーのユイちんが帰ってからになるわね。計画がどうなるかは、話し合い次第だから…。あなたもまだ、この件は彼女達には話さないでね」


 悪いことにはならないから数日まっていて欲しい、と言われていたのは、やはりそういうことか…。そういえば、リーダーが不在だから今は話せない、とも言っていたな。


「俺にだけ先に話すのは、戦いになるから、ですか?」

「そういうことだ」


 俺がここに来た目的は、アナザー優子に頼まれて、アナザー圭祐を助け出すためだ。そのために必要であるなら、戦うだけだ。


「わかりました。俺たちの目的と一致しますし、協力します」


 俺がそう言うと、本間が話し出した。


「今は一人でも戦える人手が欲しい。お前さんが了承してくれて助かるよ、だが…」


 奪還作戦では激しい戦闘になることが予想される。俺の能力は強力で戦闘向きだが、まだ使いこなせていない。少しでも戦う力を向上させるために、能力を上手く使える工夫が必要だ。そのためには奪還作戦の実行まで、訓練を行いたい、と本間は言う。


「訓練、ですか。それは本間さんの指導で?」

「まぁ、俺の立場的にそうなるな」

「立場?」

「本間さんはねー、門番兼戦闘班の副隊長なのよー」


 さきほどの試験というか手合わせで、この人は尋常じゃないことは俺でもわかる。そんな人が隊長じゃなく、副隊長なんだ。


「隊長じゃないんですか?」 

「まぁ、俺は門番が本職だからな。それに、隊長は俺よりもやるぜ? つってもまあ、あいつは誰かを訓練できるような性格じゃないからな」

「それでこの場にも居ないんですか」

「ま、そういうことだ。そのうち会うことになるがな」


 ここで、パチンと手を叩いた鳴海が言った。


「それじゃー、圭祐君は本間さんと訓練するってことで決まりでいいわよねー?」

「はい、お願いします」


 黒づくめの男との追いかけっこでも感じていたが、俺はまだ、能力を使いこなせていない気がする。訓練して強くなれるなら、ありがたい。


 話し合いがすべて終わり、ダブル優子は調達班のお手伝い。俺は奪還作戦に向けての訓練をすることが決まった。


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