第十四話 邪魔なんですけど?
登場人物の名前を書き間違えている箇所があった為、修正しました。中村→本間
疲れていたんだろう、夕食を食べたあと、俺はベッドに横になるなりすぐに眠りに落ちた。ダブル優子も同じらしかった。
ふと目が覚め、スマホの時計を見ると朝の六時過ぎだった。二度寝する気分でもないので、ベッドから出る。二人はまだ寝ている様だ。
俺はそっと扉を開け外に出た。
廊下を歩き、昨日話し合っていた大部屋に入る。テーブルにはぽつぽつと人がいて、お茶を飲んでいたり、サンドイッチを食べている人がいる。昨日は気にしていなかったが、ここは食堂の様だ。壁際の棚にカップが並べられ、その横にポットが置かれている。その奥には流し台があり、席を立った人が食器を洗って乾燥用のラックに置いて立ち去っていく。
しばらく見ていると俺の後から入ってきた人がカップにお茶らしきものを注いで行った。セルフなんだな。俺も勝手に入れていいのか? 棚からカップを取ろうとしてちょっと迷った。
「ちょっと、そこで止まられると、邪魔なんですけど?」
振り返ると、中学生くらいの少女が立っていた。
「あ、ごめん」
俺は手を引っ込め、場所を譲る。少女はカップを二つ手に取り一つを俺に渡すと、自分のカップにお茶を注いだ。
「お兄さん、新人なの? 適当に飲んでいいって言われませんでした? 迷うのは勝手だけど、他人の邪魔になるようなことはしないでくださいね?」
彼女はそのままカップを持って向こうのテーブルに座った。少女のキツい言い方に軽いショックを覚えながら、俺もお茶を注ぎ適当に空いているテーブルを見つけ座る。
あ、これお茶じゃなくて、コンソメスープだ。美味い。なんてことを考えながら昨日のことを思い出す。
突然の超能力の発動、朝から驚いたなあ。それが始まりだったな。突然現れた黒づくめの男、優子に電話してなかったら、今頃はどうなってたことやら…。別の宇宙からもう一人の優子が現れて、追い詰められて…、気が付いたら、旧日本軍の秘密基地跡に居る。そしてしばらくはここで暮らすことになりそうだ。
怒涛の展開すぎて、未だ実感がない。だけど、この先どうしていくか考えないとな。テリトリー間の話し合い…、その内容が予想通りだとすれば、俺たちにも関係ありそう…。
はっと目が覚めて「実は夢でした」なんてオチになってもおかしくない話だな。
「…けど、これが現実なんだよなあ」
「そうねー、まぎれもない現実よー」
振り向くと、スープの入ったカップとサンドイッチが並んだ皿を持った鳴海が立っていた。
「おはようー、早いのねー」
彼女は俺の隣に座ると、サンドイッチを勧めてくれた。礼を言い一つ取る。
「あ、美味い」
「でしょー、ここの食事はおいしいのよー、こんな地下に居ちゃ気が滅入るからねー、美味しいもの食べて気分よく過ごさないとねー」
確かに食は大事って意見は賛成だな、美味いカレーも食べたことで、落ち着いて眠れたのかもしれないな。そんなことを考えながら、サンドイッチをもう一つ貰いに口に運ぶ。
「今朝は一人なのねー」
「優子達はまだ寝てるよ」
「そうー、あなたはちゃんと眠れたのかしらー?」
「ああ、十分寝させてもらったよ」
「それならよかったわー。じゃ、彼女達によろしくねー。後で会いましょうー」
鳴海は最後の一切れを食べ終わると、皿とカップを持って席を立って行った。
俺はもう一杯スープを飲んでから、流しで洗って食堂を出る。
「…部屋に戻るか」
食堂にきてから時間も経ったし、優子達も起きているかもしれない。特に当てもないのであてがわれた部屋に戻ることにした。
扉を開けると、ダブル優子は起きていて、ちゃぶ台の前に座って黙々とサンドイッチを食べていた。朝食も持って来てもらってたのか…。さっき鳴海から貰って食べたけど、美味かったしもう少し食べたい。
「………」
ちゃぶ台の上には皿が三つ。しかし、サンドイッチはどこにもなかった。
…一つは俺のだと思うんだが。なんで空なのかな? 君達、全部食べちゃった? なんで目をそらすのかな?
黙って二人を見つめながら、かろうじて残っていたスープを飲む。沈黙の中スープをすする音だけが部屋に鳴っていた。
コンコン
沈黙を破るようにノックの音がした。優子が立ち上がり扉を開けると女性が立っていて、これから話をしたいから来て欲しいと言われついていく。
彼女に案内された部屋は狭くもなく、かといって広いわけでもない、十畳ほどの大きさの部屋だった。中央にある大きいテーブルの片側には男女五人が並んで座っており、その向かいに椅子が三脚あった。
そのうちの四人は俺が知ってる顔だった。昨日話したヨシシと鳴海、出入り口のゲートを出してくれた本間さん、そして食堂で注意してきた少女だった。少女が頭を下げるので、俺も会釈する。
ヨシシが意外そうな顔をしていた。
「おや? 桜子ちゃんは、圭祐君のとお知り合いかい?」
「今朝、食堂でちょっと、ね」
「そんなところです」
俺は苦笑いで、桜子と呼ばれた少女は無表情で答える。
「お話はとりあえずー、座ってからにしましょうかー」
鳴海に促され俺たちも座る。
「さて、昨日の話の続きをしたいんだが、一晩休んで、少しは落ち着いたかい?」
主にアナザー優子に向けての言葉だろう。ヨシシは彼女を見ながら様子を伺うように言った。
「落ち着いているわけではありませんが…まぁ、なんとか」
「そうか、その件についても今日は話すつもりでいるので聞いてほしい」
「わかりました」
「そちらの方々は、そのために…?」
「ま、そんなところだ。まずは紹介だけさせてもらって詳しい話は順番にいこう。俺と鳴海は今更なんで、お三方、お願いします」
ヨシシが話を振ると、それぞれが自己紹介をする。
「本間だ。昨日会ったときにも言ったが、ここの門番をしている」
昨日も思ったが筋肉がすごい。背も高いので、革ジャケットと革パンを履いたら黒づくめの男そっくりになるんじゃなかろうか。それにしてもすごい筋肉だなあ。格闘技でもやってたのかもしれない。
「私は木下裕也と言います。テリトリーに必要な物資の調達を取り仕切っています」
この人は二十代後半から三十代くらいに見える。某劇画の殺し屋みたいな太い眉毛が目立つが、穏やかそうな雰囲気の人だ。
「宮内桜子です」
髪は三つ編みで、中学生くらいの少女だ。朝一番に注意されたことを思いだすと少し気まずい。あのときと違って、なぜかセーラー服を着ている、制服か?
「そちらの事情は、リーダーが帰ってくるまではここで過ごしてもらいたいことも併せて、全員に伝えてある、名前だけ俺から紹介させてもらう」
「はい」
ヨシシが順番に俺たちを紹介してくれる。
「それじゃ、始めようか。まずは昨日、俺たちを信じて欲しいと言った根拠を話そうと思う」
アナザー優子が目を見開く。ヨシシはそれに構わず続ける。
「桜子ちゃんは、お姉さんが超査室に捕まっている」
ヨシシの言葉に、俺と優子も目を見開く。目で合図するヨシシにこくんと頷いた桜子が話を続ける。
「私と姉が超査室の人たちに捕まって連れ去られるところをここの方々に助けてもらいました。一週間前のことです。ですが…私は助けてもらいましたが…姉は間に合わず、連れ去られてしまったんです…」
悲痛な表情で絞り出すように話す桜子。彼らはなぜ子供に辛い経験を話させるんだ? そんな疑問を覚え大人達見ると、皆、悲しげな表情をしている。
「私と姉は双子です。私たちは二人で一つの能力を発現しました。能力は『絆』といいます」
彼女はさらに話続ける。『絆』の力で、互いの精神状態や健康状態がわかるんだそうだ。その能力で、一週間前に捕らえられた姉の無事が今もわかると言う。残念なことに意志を疎通する力はないため、完全な状況はわからないのだが、少なくとも捕らえられた人が、精神的にも肉体的にも無事ということがわかるので、今は姉を取り戻す方法を探すことに集中していると言う。
「そして、『絆』にはもう一つの能力があって…」
「あ、それは今はなさなくても良いわー、桜子ちゃん」
更に話を続けようとする桜子に鳴海がストップをかけた。
「捕まった人が少なくとも一週間は無事でいるっていうことがわかっている。これが根拠だ。だから、君の恋人は無事だと信じて欲しい」
ヨシシが話をまとめた。桜子は口を閉じてアナザー優子を見つめている。
そんな能力があるのなら、大丈夫と言い切るのもわからなくはない。しかし、鳴海はなぜ桜子の話を遮った? 何か都合が悪いことでもあるのか…?
アナザー優子は桜子とヨシシを見つめ返している。彼女も俺と同じ疑問を持っていると思うが、口には出さず黙ったままだ。
「桜子ちゃん、辛い話をさせてすまなかった。この先は俺たちで話をするよ」
俺たちを案内してくれた女性に連れられ、桜子はぺこりと頭を下げると、部屋を出て行った。
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