第十三話 いい働きをしてくれそうな気がするわ
投稿時間に遅れてしまいました…すみません。
「やっほ、ヨシシ、ユイちんは帰ってるー?」
扉の前に立つバンダナの男に鳴海が話しかけると、呼ばれた男はこちらを向いて手を上げて答えた。
「おう、鳴海か。ユイはまだ帰ってないぜ。今回は時間がかかりそうだ」
「そっかー、紹介したかったんだけどなー」
「ん?そっちの三人はお客さんか?」
「そだよー。ユイちんいないし…どうしよっかなー。うーん、ヨシシ時間取れるー?」
男は左手の腕時計をチラ見してから、答えた。
「ああ、かまわないぜ。ここで立ったままもなんだし、あっちで座って話そうぜ」
「そうだねー、君達に説明もしなきゃだしー、行こうかー」
ヨシシと呼ばれたバンダナの男に相槌を打つ鳴海に連れられて、俺たちは来た道を戻り、先ほど通り過ぎた広い部屋に入る。
部屋の中にはテーブルがいくつかと椅子がある。鳴海は空いているテーブルを見つけると、俺たちを並んで座らせて、その向かいに男と並んで座った。
「と、そのまえにヨシシの紹介しなきゃねー」
「俺は吉田由和、ヨシシって呼んでくれていいぜ。宜しくな」
バンダナを巻いて無精ひげを生やした野武士のような顔をしたヨシシと握手し、こちらも自己紹介をし、事情を説明する。誘拐されたアナザー圭祐を救出したいことを話したとき、一瞬ヨシシが鳴海と目を合わせていたが、口をはさむことはなく黙って聞いていた。
しかし、「アナザー」の部分については、やっぱり気になったらしく、鳴海と同じ疑問を口にしていたが、アナザー優子は鳴海に答えたのと同じく、単なる呼び名だと返していた。
一通りの事情を話し終わったので、俺は気になっていたことを二人に訪ねた。
「それで、鳴海さん、吉田さん。ここは一体? それに『テリトリー』って?」
「俺のことはヨシシでいいぜ。ここはな、簡単に言えば…秘密基地、だな」
「じゃあ、お言葉に甘えてヨシシさん、秘密基地ってどういうこと?」
「ここにいるのは超能力が発現した人とそれに近しい人達だ。政府に見つかって捕まらないように、ここに隠れて住んでいる」
「なるほど…それなら秘密基地、って言ってもおかしくないですね。だけど、こんな石造りの地下基地なんて、かなり大がかりなんですね」
「ああ、ここは俺たちが作ったんじゃない。住みやすいように改造はしたけどな」
ヨシシによると、ここは旧日本軍が本土決戦に備えて、物資を蓄える設備や兵員の宿舎、司令部などを作った地下施設だったらしい。
出入口は崩落し埋まっていて、完全に外から切り離されていたのを、仲間の能力者が偶然発見したそうだ。基地への出入りは移動系の能力を使うことで、外界とは直接つながらない安全な場所として確保したと彼は教えてくれた。
ここ以外にも、独自に拠点を作って集まり、政府から身を隠している人たちが全国にいるそうだ。そして、それらの拠点を領域と呼ぶとともに、拠点に住むグループの名称としても使われているとのこと。どのグループかを区別するために、各テリトリーはリーダーの名前をつけて呼ぶそうだ。
「じゃあ、『ユイの領域』って…」
「そゆことねー、ここのリーダーはユイちんって言うのよー」
「ま、そういうことだ」
「じゃあ、私たちに合わせたい人って言うのは、リーダーのユイさん?」
「そうよー、お留守だったけどねー」
「なんでリーダーが留守なの?」
「テリトリーは全国にあるって話しただろ。この地域にはユイ・テリトリー以外にもあと二つテリトリーがあるんだが………」
「…テリトリー間の話し合いでねー、ユイちんが向こうに出向いてるのよー」
途中で言いよどんだ様に見えるヨシシの後に続けて、鳴海が説明してくれる。
「リーダーが直接出向くなんて、相当重要な案件なんでしょうね」
「…まあねー。内容はユイちんが帰ってからじゃないと話せないけど、あなた達にも関係あるとだけ、言っておくわね」
重要なことなんだろう、鳴海の間延びした口調が揺らいでいる。…俺たちに関係があって重要なこと、ね。
「あの、リーダーの方はいつ頃に帰られるのでしょうか?」
アナザー優子が聞く。彼女も察している様子で、リーダーに会えるのかいつになるのか気になるのだろう。
「今回は長引くかもなあ。早くて明日…、もしかしたら二、三日は帰ってこないかもな」
ヨシシが答えるのを聞いて、アナザー優子の顔がこわばる。
「え、じゃあ…それまでは…?」
「待っていてもらうしかないわねー」
「………」
アナザー優子は明らかに動揺した表情で黙ってしまった。黒づくめの男に捕まってしまったアナザー圭祐を一刻も早く助け出したいと願っている彼女に「ニ、三日待て」は、相当ショックだろう。
「あなた達の事情はわかってる。決して悪いことにはならないから、だから信じて待っていて欲しいの」
「僕たちが信じて良い、根拠があるんですね?」
「詳しいことは話せないが、時間の猶予はある。俺たちに助けを求めるのなら、俺たちの言うことを、信じて欲しい」
鳴海の言うことを、確認した俺の目をジッと見ながら言うヨシシ。他に頼る方法が無い俺たちだ、そう言われれば信じるしか道はなさそうだ。
「優子ちゃん、ここまで言ってくれてるんだから、信じて待とう?」
優子がアナザー優子の肩を叩き、慰めるように言う。アナザー優子は黙ったままだが時間の猶予があると聞いて、少しだけ硬さがとれたように見える。
「待っている間、俺たちに何か出来ることはありますか?」
「うーん…。直接的には、ないわねー」
「とにかく、今日はいろいろあって疲れたろう? 君達には部屋を用意するからとりあえず休むといい。明日、また話の続きをしよう」
俺たちは鳴海に案内されて、用意してもらった部屋に入った。4畳半くらいの部屋の壁に二段ベッドが二つあった。部屋の中央には小さなちゃぶ台が置かれている。
「個室を用意できるほどの広さは無いのー。三人一緒で我慢してねー。夕食は部屋に持って来させるわー」
そういうとバタンと扉が閉めて鳴海は戻っていった。
部屋の隅に積んであった座布団をちゃぶ台の前に敷き座る。
今日一日、黒づくめ男に追われ続けて逃げるのに必死だった状態から、ここに来て、安全な場所で数日の待機状態になり時間ができてしまったことが不安を駆り立てるのだろうか。アナザー優子はずっと不安げな表情のままで口を閉じてしゃべらない。
俺と優子は目線で頷きあう。
「とりあえず、今日は言われた通りに休もう。不安だろうけど、信じるしかないんだ。それに、明日もう一度話し合ったら、いい方法が浮かぶかもしれない」
アナザー優子は何も言わずに俺たちを見るが、何もしゃべらないままだ。沈黙の時間だけが過ぎていく。
沈黙が場を包んだまま、体感では数十分、実際には数十秒くらいたった時だろうか、扉がコンコンとノックされた。夕食を持って来てくれたみたいだ。
夕食のチキンカレーライスは美味かった。ただ黙々とカレーを食べ続け、スプーンと皿が当たるカチャカチャという音が部屋になっていた。
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「やっぱ絶品だわ。これで店出してもおかしくないぜ」
「そうねー」
ヨシシと鳴海は、先ほど圭祐達と話し合ったテーブルで、今度は向かいあって座り、カレーライスを食べていた。他のテーブルにもぼちぼちと人が座っていてカレーライスを食べている。
「で、おめーは、あの三人を参加させたいんだろ? 戦力になりそうなのか?」
「そうねー、彼の能力は応用が利きそうだし、あとの二人と息ピッタシだったからね、いい働きをしてくれそうな気がするわー」
「それなりの理由もあるし、な」
最後の一口を食べ終わったヨシシはコップの水を一気に飲み干し、トンとテーブルに置いた。
「じゃ、ま、明日からは仮メンバーとして、慣れてもらいますかね」
ようやく、長かった一日が終わりそうです。
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