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第十二話 ようこそ

第十二話です。よろしくお願いします。

「なるほどねー」


 アナザー圭祐が連れ去られた話とアナザー優子の能力、黒づくめ男に追い詰められて、逃げてきたことなどを一通り、俺たちは鳴海に話した。


「捕まった彼氏を助けたいと…。こういう言い方すると…悪いけど、ここ最近では…まぁ…よく聞く話ね」


 鳴海の口ぶりは語尾が伸びるしゃべり方ではなくなっている。言いにくいのだろうが、そう言うしかない、そんな素振りだ。

 アナザー優子は何か言い返したそうな表情をしつつも、両手をぐっと握りしめて黙っている。当事者にとっては大事でも、第三者にとっては良くある話、と言われれば確かにそうだ。ここで言い返しても意味はない。彼女も当然わかっているんだろう。


「で、あなたの能力、『世界を渡る力』が私が助けになる人だって言ってるのね?」

「そう、です」

「うーん…」


 鳴海は両腕を組んで目を瞑り唸っている。何か迷っている様だ…。突然助けて欲しいと言われても困る、といった感じだろうか? だがそれだけでも無いように見える。俺たちは彼女が再び口を開くのを待った。


「ところで、ちょっと気になるのだけどー、あなたの通りなら、今はそっちの優子さんと圭祐さんがアナザーじゃないの、かなーって思うんだけど?」


 目を開いた彼女はそう言う。やっぱそう思うか。それに関しては、俺も思わなくもないんだけど、俺たちの主観では、今でもここがアナザー宇宙なんだよなあ。けど、こっちの人にそれを言ってもなぁ…。


「そこは、一度そう決めてますから、状況で呼び名を変えたらややこしいですし」


 アナザー優子は、呼び名として割り切っている様だ。


「アハハ。あなた割り切った考え方してるのねー」


 しゃべり方が戻った鳴海は、微笑みながら両手をパンと叩き、続けてこう言った。


「よし、決めたわー、あなた達に会わせたい人がいるからー、ついてきてー」

「会わせたい人? どこに行くの?」

「まーまー、何も聞かずについてきてー、きっと、あなた達の助けになると思うからー」


 戸惑う俺たち。事情を話したとは言え、出会ったばかりだ。突然ついてこいと言われても…どこに何しに行くのかも分からない。優子が当然の疑問を口にするが、詳細は教えてくれない様だ。

 彼女は、首だけこちらを向いて手招きしながら、すたすたと向こうに歩いていく。俺たちは顔を見合わせて相談する。


「どうする?」

「何もかもお話ししたうえで、助けになる人に会わせたい言うんですから…。私は行きたいです」

「私も! あの人、話してみたら良い人そうだし」


 話した感じ悪い人ではなさそう、って言うのは同意するけど、安易に信用していいものか…。しかし、彼女も能力者の様だし、協力してくれそうではある。


「じゃ、行ってみるか」

「はいはいー、こっち来てねー」


 俺たちは腹を決めて彼女についていくことにした。足を止めて待っていた鳴海は俺たちが向かうとまた歩き出す。そして、建設中のマンションの中に入っていくと、鳴海は立ち止まった。


「はいはいー、この辺でかたまってー」

「こんな感じでいいか?」

「うんうん、じゃあちょっと移動しますー、一瞬だけふわっとするけど大丈夫だからねー」


 鳴海がそう言うと、足元の地面が無くったような感覚がしたかと思うと一瞬で元に戻った。例えるなら階段を上るときにもう一段あると思ったらなかった時のガクっとした感覚。そして同時に周りの景色が変化していた。

 建設中で資材などがむき出しで置かれているマンションの中に居たはずが、どこかの部屋の中に居た。

 これは瞬間移動というやつか? 同じ移動でもアナザー優子の能力とはまた違った体験だ。

 事務机がきれいに並んでいる。机の上にはパソコンがある。部屋の雰囲気からすると何かの事務所の様だ。机は壁際から列を作るように向かい合って並んでいて、中央のみ机の島が無く、少し広めのスペースが作られている。


「これが鳴海さんの能力なの?」

「そうそうー、『転送』っていうんだよー」

「それで、ここはどこだ?」

「まだ秘密だよー、ここでちょっと待っててねー」


 そういうと彼女は目の前から掻き消え、しばらくすると戻ってきた。


「お待たせ、ちょっとこっちに固まって寄ってくれるかなー」


 俺たちは彼女に言われるまま、部屋の隅に寄り、中央を向くように立たされる。すると、そのスペースに青白い楕円形の光が現れた。

 よく見ると中心は真っ黒で、全体が渦を巻くように動いている、外側の光が中心に吸い込まれていき、吸い込まれた分、渦の外周から光が出てくる。

 まるで、銀河系の渦のようだ。いや、中心が真っ黒だからブラックホールか?


「これは?」

「一言で言えばゲートだね。はいはいー、順番にこの中に入ってねー」


 ゲート…。ここに入るということは、どこかに出口があるんだろう。これも移動系の超能力なのかな。彼女の『転送』で跳べばいいと思うんだが、何か制限があるのかもしれないな。

 彼女は俺たちに促すと、真っ先にゲートに入り消えた。それに続いて俺たちもゲートに足を踏み入れる。今度は浮遊感もなく、扉をくぐり抜けたように、石造りの壁に囲まれた通路のようなところに出てきた。

 振り向くと、入ったときと同じ、渦巻きのゲートがある。見ていると渦の動きが早くなり中心に吸い込まれるようにゲートが掻き消えた。

 消えたゲートのそばには、ランニングシャツを着てジーンズを履いた筋肉質の男性が立っていた。年齢は四十代くらいに見える。


「ようこそ、ユイの領域(ユイ・テリトリー)へ」


 彼はそういうと、右手を差し出してきた。


「俺は本間譲二(ほんまじょうじ)。ここの門番をやってる」


 俺たちは順番に自己紹介をし、彼に質問する。


「このゲート、あなたの能力なんですか?」

「ああ、『トランスポーター』って呼んでる。君たちが経験した通り、空間を移動する能力だ。このゲートさえくぐれば、超能力を持たない人でも移動できる。便利だろ?」


 そう言って、譲二はにやりと笑った。


「ところで、『テリトリー』って?」


 優子が聞くと、譲二は鳴海をちらっと見た。話しにくいことなのか?


「はいはいー、それは後で説明するねー、ここで立ち話していても時間を潰すだけだからねー、移動するから、ついてきてねー」


 鳴海に話を打ち切られ、俺たちは彼女に連れられて石壁の通路をしばらく歩く。

 通路にはところどころ分かれ道があり、出入り口のように区切られたところからは大きな部屋も見える。部屋の中には何人か居て会話している。何かものを運んでいる人と通路で何度かすれ違った。

 そして、通路の一角にある閉まっている扉の前につく。扉の前にはバンダナをした男性が立っていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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