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第十話 足元がお留守になってますよ

「で、だ。予想通り、不意を突けばなんとかなるみたいだな」

「そうだね」


 俺の言葉に優子は同意し、アナザー優子も無言で頷く。気づかれないように不意打ちすれば奴を叩きのめせることは、これで確定した。しかし…。


「…人数増えてましたね」


 アナザー優子の言う通りだ。必死になって黒づくめの男を倒したってのに、三人も増えて、さらに倒した奴が復活、合計四人の黒づくめ男に取り囲まれることになった。

 状況は悪化するばかりだ。さすがに四人を相手に不意打ちは難しい。各個撃破するしか手はないが、同時に来られたらどうしようもない。


「四人同時に奇襲攻撃すると言ってもなあ…。俺の能力でできることは何か掴んで直接攻撃することだし、何とかする方法が思いつかない」

「困ったねー」

「ですねえ」


 どうしたもんかと思案する俺たち。俺は能力で冷蔵庫からお茶ペットボトルを出して優子達に放り投げ、自分のお茶のキャップを開けて一口飲む。彼女たちもお茶を飲みながら、優子が言う。


「器用になったねー」

「ああ、追い詰められて使っているうちに、これくらいは簡単にできるようになった」

「ちょっと思いついたんだけどさ、そんだけ器用ならロープを使ってぐるぐる巻きにするのはどう?」


 優子に言われて、ちょっと想像してみる。追いかけてくる奴にいきなりロープを巻きつけるのは難しそうだけど、足に引っ掛けるとかしてコカしてから、その隙に拘束することはできるかもしれない。

 そう考えていると、今度はアナザー優子が話し出した。


「…あの、聞きたいことがあるんですが…、駅のホームで黒づくめの男を転がしてましたよね? あれはどうやったんですか?」

「ああ、あれは…あいつが乗ってたスクーターを横にスライドさせてバランスを崩したんだよ。で、コケさせた。転がってったのはその勢いだな」

「なるほど…、さらに質問なんですけど、圭祐さんって直接攻撃しませんよね…? 何か理由があるんですか?」

「あぁ、それね。能力の使い方はなんとなく分かるって、アナザー優子さん、言ってたでしょ? 俺もなんとなく分かるんだけど、どうやら、俺の能力って生き物には弱いみたいなんだよね。たとえば…」


 そういって俺はアナザー優子を能力で持ち上げる。優子のときと同じくセンチ以上は上がらない。この状態で維持するのも辛いので、彼女を離す。アナザー優子はストンと落ちる。


「これ以上は、持ち上げられないんだよ。多分、能力の限界。だからあいつらを直接能力で吹き飛ばすとかはできそうにないんだ。少しは持ち上げられるから、いざとなったら足を滑らせるくらいはできるかもしれないけど…」

「そうなんですね…」


 アナザー優子と話していると、優子が俺の手を引っ張ってきた。


「どうした、優子?」

「圭祐、あれ…!」


 優子が窓の外を見ながら指を指している。その方向を見ると、黒づくめの男が二人、歩いて来るのが見えた。もう追い付いてきたのか…。

 急いで靴を履いて外に飛び出す俺たち。やつらが来たとは反対方向に駆け出す。しかし、角を曲がったとたん、黒づくめの男と鉢合わせた。


「…こっちからも来てたか!」


 だが、こちらは一人だけだ。まだ後ろの黒づくめの男たちとは距離が離れているし、こいつを何とかすれば 回避できるそうだ。


「圭祐、これ!」


 優子が金属バットを放り投げる。部屋から持って来てたのか。 俺は能力で金属バットを掴むと、思いっきり振り回し、黒づくめの男に打ち付ける。男は片腕を挙げてガードする。何度もバットで攻撃するが黒づくめの男に全部防がれていた。


「…効かないか、けど、これならどうだ!」


 俺はバットから左手を離し、右手だけでバットを打ち付けながら、左手を前に向け男の足首のあたりを思いっきり振り払った。

 アナザー優子に話した通り、直接攻撃では大したことは出来ない。だが、足元を払うことくらいなら…できるかも!


「足元がお留守になってますよ、ってね!」


 案の定、黒づくめの男はバランスを崩してくれた。しかし、足を踏ん張ってなんとか踏みとどまっている。俺はバットを両手で掴み直すと後頭部に向けて力の限り振りぬく。黒づくめの男は踏みとどまることが出来ず、地面に倒れた。


「今だ!」


 倒れた男の脇を抜け逃げだす俺たち。しかし、倒れながらも腕を伸ばした男に優子の足が掴まれてしまった。


「きゃあ!」

「優子!」

「優子さん!」


 俺は優子の足を掴んでいる黒づくめ男の腕を金属バットで殴り続ける。優子はパニック状態で足を抜こうと必死だ。アナザー優子が彼女の腕を引っ張るようにしながら支えている。


「こいつ! 優子を離せ!」


 必死に殴りつづけると優子を掴んでいた手が緩み、優子は離れることができた。勢いで転びそうになるが、アナザー優子に支えられて倒れずに男から離れることができた。


「ありがと!」

「ああ、行こう!」


 黒づくめの男が起き上がる前にその場を離れるべく俺たちは駆けだしたが、数メートル走ったところで、立ち止まらざるを得なかった。


「げ、これは…」

「ちょっと、ずるくない…!?」


 前方から新たな黒づくめの男がやってくるのが見えた。それも三人、横幅一杯に道を塞ぐように並んでいる。また増えやがった…。振り返ると、倒れた男が立ち上がり、その後ろから二人の男が追いついてきていた。

 前後合わせて六人、逃げ場はなさそうだ…。

 じりじりと包囲を狭めてくる黒づくめの男達。こんな状況だと、空を飛ぶとか、瞬間移動でもしないとここから逃げられそうにない…。

 俺は決心し、アナザー優子のほうを見る。俺の視線に気づいた彼女はこくんと頷くと、両手を胸の前で合わせて目を閉じた。


 黒づくめの男たちが歩いている姿勢のまま不自然にピタリと止まる。まるで時間が止まったかのような…。そして、景色が波打つように左右に歪みだした。黒づくめの男達も同様に歪んでいる。歪んでいないのは俺たち三人だけだ。そして、だんだんと暗くなっていく。

 周囲が真っ暗になった中に、俺たち三人だけが立っていた。


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