ジオ、それ以上は煽るんじゃない
「ふーむ、なかなか賑わっておるな」
俺はジオとムーンとともに街にある市場に来ていた。
ここでは露天商がたくさん並んでおり、屋台もいくつかある。
ジオとムーンもここなら満足するだろう。
ちなみに、ジオとムーンには人前では剣や盾に戻らないように言ってある。
そんなことをされたら、一気に注目を集めてしまうしな……
面倒ごとは嫌いだ。
「見てください、マスター! ゴミみたいな盾がすごい値段で売ってますよ! ぼったくりです!」
ジオが露天商の売っている盾を指差しながらはしゃいでいた。
店主は当然、それを怖い顔をして見ている。
いや、注目集めちゃってますけど!!
「ああん? なんだぁ、てめぇ。これは正真正銘ミスリルの盾だぞ!?」
怖そうな店主は額に青筋を浮かべながら立ち上がり……
「マスターってお前か!? てめぇ、オレの商品にケチつけてたたですむと思ってんのか!?」
オレの前に立った。
……あ、俺に来るの!?
ちょっとまって、めちゃくちゃ店主怖いんですけど!!
「あ、その……すみません。ウチのジオが……」
「困るんだよねぇ……商売の邪魔されたらよぉ!」
「でも、この盾ミスリルどころかただの磨いた鉄ですよ?」
「ジオ!!」
店主が額に浮かべている青筋が見るからに増えた。
ひぃぃ、ジオ、余計なこと言わなくて良いんだよ!
「なんだぁ……文句があるってんなら、この腕で聞いてやっても良いんだぜぇ? それか、別に商品を買ってくれるならそれでもいいけどよぉ……」
店主は腕まくりをすると、筋肉で膨れたその腕をもう片方の手でパンパンと叩く。
そして、俺のことをめちゃくちゃ睨んできている。
もう今にも殴りかかってきそうだ……怖すぎる。
「いや、あの……文句は少しもありません!」
「じゃあ、買えよ! お前のせいでこっちは看板に泥を塗られたんだぞ!?」
「マスター、でもどう見てもぼったくりですよ。どこからどう見ても鉄じゃないですか」
「テメェぇぇぇ!! 営業妨害だろうが!! 一発食らっとけ!!」
うわ!
店主はジオの発言でついにブチギレたのか、その逞しい右腕を振り上げて俺に殴りかかろうとしてきた!
クソ、どうしてこうなるんだよ!
俺はぎゅっと目をつぶり、来る衝撃に備えた……
…………
……あれ?
恐る恐る目を開けると、俺と店主の間にはジオが立っていた。
「マスターの身には指一本触れさせませんよ」
見れば、ジオが左手で店主の拳を止めていた。
「あ……? お嬢ちゃんにも、お仕置きが必要なようだなぁ!」
そう言って、男は再度右腕で全力のパンチを繰り出してくる。
今度はジオを狙った一撃だ。
ジオが危ない……!
「その程度で私は傷一つつきません!」
「嘘だろ……!?」
と思ったが、そんなことはなかった。
店主の渾身のパンチは、またも軽々とジオの左手によって止められている。
体格差を考えれば少しくらいジオが押されても良いはずだが、ジオは壁であるかのように少しも動じていなかった。
よく考えたらジオって伝説の盾だもんな。
人の拳で傷つくわけないよね……
それでも、一応見た目は少女なのでジオに怪我がないか確認しておく。
「ジオ、大丈夫か?」
「全然大丈夫です! こんなへなちょこ威力のパンチ、何発来たって平気ですよ」
「ああああぁぁぁ!? ふざけんじゃねぇぞテメェェェェ!!!!」
店主はジオの挑発的な発言にいよいよなりふり構わないという様子。
ジオは、見た目は少女だと言うのに両手でブンブンと殴りかかっていく。
しかし……
「なんでこんな少女に、オレの拳が止められるんだよ!!」
一発たりともジオに当たらず、すべてがジオによって止められている。
いつの間にか、野次馬も集まってきていた。
「おい、あいつドゥランじゃねぇか?」
「ああ、あの迷惑なチンピラ露天商か。客を脅して商品を買わせてるっていう。あいつ、なにやってんだ?」
「どうやら、少女に喧嘩ふっかけて負けてるらしいぜ?」
「嘘だろ? ざまぁねぇな!」
どうやら、あの店主の名前はドゥランと言うらしい。
チンピラ露天商と言われていることから、こうやって客に絡んでいって商品を買わせているのだろうな。
おそらく、ジオの言う通りあの盾もミスリルではないのだろう。
危ない……圧に負けて買っちゃうところだった……
「やれやれ、ちょっと懲らしめてやるとするか」
「え、ムーン、なにするの?」
突然、俺の後ろに立っていたムーンが歩き始めた。
ドゥランの猛攻を涼しい顔をして受け止めているジオの横から、ムーンがドゥランに向かっていく。
「チッ、今度はなんだ!?」
「いやなに、こんな市場のど真ん中で騒いでは他の者に迷惑だと思ってな」
「はぁ? お前らが先に難癖つけてきたんだろうが!!」
「事実を言っただけではないか。そんなことでキレるとは器が小さい男だ」
ドゥランはムーンの言葉を聞いて、今度はムーンを攻撃の対象に決めたようだ。
「そんな口聞いたこと、後悔すんなよ!! 子供だって容赦はしねぇからな!!」
振り上げた右腕でムーンに向かっての全力のパンチ。
野次馬たちもさすがに少女の顔面に拳が突き刺さることを想像して、顔をしかめた。
しかし……
「……は?」
気づけば、ムーンはドゥランの後ろに立っていた。
「なんでテメェが後ろに……!」
「そんなことより、いいのか? 群衆の中で器の小ささだけじゃなく、アソコの小ささも晒すことになるぞ?」
「あぁ!?」
そのとき、ドゥランの着ていた服が刃物で何回も切り刻まれたかのように粉々になって地面に落ちる。
その一瞬で、ドゥランはパンツだけの姿になっていた。
「は!? どうなってんだ!?」
「ぎゃははははははは」
野次馬たちはパンツ姿のドゥランの姿を見て大爆笑。
これにはさすがのドゥランは大慌てで退散する他なかった。
「クソ! 覚えてろよ!」
「二度と主殿の前に姿を現すな! 次に見かけたらパンツも斬ってやるぞ」
彼を迷惑に思っていた者は多かったのだろう。
ドゥランが走り去る様子を、野次馬たちは楽しそうに満喫していた。
そして、今回のヒーローであるジオとムーンに話しかけ始める。
「お嬢さんたちすごいじゃないか! ドゥランには俺たちも困ってたんだよ」
「なに、主殿の方がもっとすごいぞ。我の力は主殿のおかげだ」
「そうです! 私の力もマスターのおかげです」
群衆の目が一斉に俺の方を向いた。
……いや、なんでそんなことを言うんだよ!
めちゃくちゃ面倒事に巻き込まれてるじゃないか!!
野次馬がこそこそと話しているのが聞こえる。
「おい、見たこともないけど、あいつもしかしてすごいやつなのか?」
「そうなのか? でも、少女にマスターだの主だの呼ばせているのはなんでなんだ?」
「もしかして、どっかの流派の師範とかなんじゃ?」
「ああ、なるほどな」
いや、違うんだよ!
俺はただの小説家で師範とかそんな立場じゃないんだよ!!
ただ、この空気……めちゃくちゃそうとは言い出しづらい。
「いや、ほんと助かったよ。ドゥランが居ると客も寄り付きづらくてな」
「ありがとよ、知らない師範さん!」
「あ、ああ……お役に立てたなら良かったです……」
全然師範でもなんでもないんだが、俺は話がややこしくなるので訂正はしない。
「アンタたち、すごいじゃないか。これはウチのハチミツクレープなんだけどね、お礼にあげるよ」
近くの屋台の女将さんがジオとムーン、そして俺にハチミツクレープを手渡してくれた。
ありがたくもらっておこう。
いや、俺は何もしてないんだけどね。
「んー、あまーい!! これですよこれ! これが食べたかったんです!」
「ふむ……悪くないな」
とはいえ、ジオとムーンはご満悦なようなのでヨシとしよう。
あれ?
というか、君たち食べ物は不要じゃなかったのか!?
どんどん人間らしくなってきてない!?
……まぁでも、人間にとって娯楽は生きる上で不要でも、あれば人生が豊かになるからな。
二人にとっての食事というのは人間にとっての娯楽のようなものかもしれない。
満足しているなら、それでいいか。
そんなことを考えていると、いつの間にか野次馬たちも解散している。
こうして、俺のドタバタとした一日はだいたい終わったのだった。
なお、今書いている小説のアイディアは結局浮かばなかった。
ま、それでもたまにはこういう日があってもいいだろう。
やはり、人と一緒に過ごすというのは楽しいものだ。
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