お隣さんに探りを入れる
「主殿、我は暇だ」
「そうか」
今日も今日とて俺は小説の執筆活動に勤しんでいる。
うーん、今いいところなんだ。
こっちの展開の方がいいか……それとも、あっちの展開のほうが良いか……
「そうか、とはなんだ! それだけか!?」
「そうか」
いや、だが実はこの登場人物がここで出てくるというのも悪くないのでは?
うーむ、どうやったら物語は面白くなるか……
「主殿! 我の言葉を聞いておらぬであろう!」
「こら、ムーン! マスターのお仕事の邪魔をしては悪いですよ」
「ジオ、そういうお主こそ、本当は暇で暇で仕方ないんだろう? だから、我が代わりに主殿にアプローチをかけているというわけだ」
あー、だめだ。
どの展開が良いのか思いつかない!
「あー!!!!」
「わっ、びっくりした。なんだ、いきなり!」
「あ、いや、すまない。ちょっと小説を書くのに行き詰まってな」
「それはちょうどよかった。息抜きに街に買い物にでも行くというのはどうだ」
街に買い物か……
街まではだいたい徒歩で一時間ほど。
体力があまりないので滅多なことでは俺は街まで行かないが、どちらにしても小説が行き詰まっているんだ。
何かのアイディアが得られるかもしれない。
街に行くのも悪くないかもしれないな。
「分かったよ……。じゃあ、まだ昼頃だし、街に行ってみるか?」
「さすがはマスター! 私、早速準備してきます」
「んむ。我はいつでも行けるから、主殿は早く準備をするのだ」
俺はムーンに急かされて街へ行く準備を整える。
といっても、お金をいくらか持てばそれで十分だろう。
「ジオ、準備はできたか?」
「はい、準備万端です!」
それにしても、ジオとムーンは自然な感じで居着いてしまったな。
やはり本当に剣と盾であるらしく、ご飯等は食べても食べなくてもいいらしい。
それでも、俺はご飯を出さないというのも悪い気がして、ジオとムーンは人間と同等の扱いをして一緒に生活を送っていた。
娘を持ったことはないが、娘が居たらこんな感じなのだろうか……
「じゃ、行くか」
そう言って、俺が玄関のドアを開けると……
「あれ、ラウズさん?」
そこにはアンさんが立っていた。
「えっ!? ラウズさんって、娘さんがいらっしゃったんですか!?」
アンさんは口に手を当てて驚いた表情をしている。
まずいまずい。
誤解されてしまう。
アンさんはそうこう考えている間にも「もしかして結婚してたのかしら……? どうしよう……そんな……。それにしても一体誰と!?」とぶつぶつと呟いている。
「違いますよ! えーっと、その、この子たちは……」
と、言ったところで、そもそもアンさんが贈ってくれた魔剣だの破魔の盾だののせいでこんなことになっていると思い出した。
そうだ、まず俺はアンさんにこの魔剣たちのことを確認しないと。
「アンさんから以前頂いた魔剣と破魔の盾ってあったじゃないですか」
「ええ……エタニティフルムーンとウィッチクラフトアルペジオですよね」
「えーと……その……二人はその剣と盾なんですよ」
アンさんがそれを聞いて首をかしげる。
「ラウズさん、からかってるんですか?」
いや、からかってるのはどっちだよ!
引っ越しの粗品とおすそ分けで伝説の剣と盾を渡す人の方がよほど意味不明でしょ!?
と、突っ込みたくなるが、ここはこらえる。
美人の前では良いカッコしたいし。
「いや、本当にそうなんですよ。ジオ、ムーン、剣と盾に戻ってくれよ」
「仕方ない。別に隠すことでもあるまいしな」
そう言ってムーンとジオは剣と盾の姿に戻った。
「ほら、見たでしょう?」
「あ、本当だったんですね。疑ってしまってすみません! それにしても、この武具が人にまでなれるとは知りませんでした。それだけラウズさんがすごいってことですね!」
「いや、というか、こいつらが本物の伝説の剣と盾だとしたら、それをひょいと渡せるアンさんの方がすごいですよ! 一体何者なんですか!?」
アンさんはまっすぐに俺を見つめると、純粋無垢な……曇り一つない眼差しでこう答えた。
「ただの一般人です!」
そんなわけあるかい!
「いやいや、伝説の剣と盾を持ってるだけで一般人じゃないですよ」
「じゃあ、伝説の剣と盾を持っていた一般人です!」
「ええ……」
いや、アンさん一体何者だよ。
「とにかく、わたしはどこにでもいる一般の人間ですから!」
「伝説の剣と盾もらっても困りますって」
「大丈夫ですよ。ほんと、ウチに余ってるくらいなんですから」
「いや、そんなわけないでしょ!」
伝説の武具がウチに余ってる一般人が居てたまるか!
俺は、無性にアンさんの正体が気になり始めていた。
「とにかく、ラウズさんが使ってくれるとわたしとしては嬉しいです」
「でもなぁ……」
伝説の剣と盾など手に余る。
俺は冒険者を目指して諦めた男なんだぞ!?
魔剣と破魔の盾が本物だと言うのならなおさらだ。
豚に真珠とはまさにこのことだろう。
「主殿、どういう経緯でお主の手に我らが渡ったのかは知らぬが、どちらにしても我らはもはや魔力で繋がっているのだ。このリンクはお主が死ぬまで続く。捨てられたら困るのだ!」
「そうですよ、マスター! 私はもっとマスターと一緒に居たいです」
「そう言われると……」
ジオとムーンにそう迫られると、俺としても手放しづらい。
だって、剣と盾の姿である間はまだしも、今は人型に戻っている。
少女たちにそんな事言われたら、誰だって捨てられないだろ。
もしジオとムーンを捨てようものなら、犯罪でも犯しているような気分になるだろうな。
「魔剣たちもこう言っていることですし、大事に使ってあげてくださいね!」
「いや、それについては分かりました。大事にしますよ。だけど、アンさんは一体どういう人なんですか!?」
「あ、わたし、ちょっと用事を思い出したのでここらへんで失礼しますね! ラウズさんもお出かけみたいですし、邪魔しちゃ悪いですからー」
「あっ、ちょっと!」
アンさんは小走りでどこかへと走り去っていった。
いや、明らかに逃げただろこの人!
本当に……一体何者なんだよ……
「マスター、早く街に行きましょうよ! 私、スイーツというのを食べてみたいです!」
「我もそれは興味あるな。さぁ主殿、早く行こう」
アンさんのことは気になるが、今はどうしようもないな。
話してくれそうになかったし、ジオとムーンは早く街へ行きたい様子だ。
俺は娘に急かされる父親のように、ジオとムーンを連れて街へと出発した。
というか、こいつら本当に伝説の武具なのか!?
普通に人になったの楽しんでない!?
続きが気になった方は評価とブックマークをお願いします!




