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どうして俺は少女と部屋の片付けをしているのか

「って、死んでたまるかぁぁぁ!!!」


 ガバっと上体を起こして俺は起き上がった。

 気づけば、俺はベッドに寝ていたようだ。


「はぁはぁ……み、水……」


 ふと横を見れば、グラスに水がついである。

 俺は水をごくごくと飲み干すと、ふーっと息をつく。


「し……死ぬかと思った……」


 アンさんの手料理はヤバイ。

 というか料理と形容すべきではないかもしれない。

 あれは……”破壊兵器”だ……


 そんなことを考えていると、寝室のドアがガチャリと開いた。


 ……俺は一人暮らしのはずだが?


「おや、マスター! 目を覚ましたのですね!」


 そこに居たのは白い鎧を身にまとった白髪の少女であった。

 あどけなさの残る顔ではあるが、清純な雰囲気をまとっていて、どこか聖騎士のような風格も感じられる。


 え?一体誰だ?


「大丈夫ですか? まだ体調が優れませんか?」

「いや、大丈夫だけど……君は?」

「えっ、私ですよ。ウィッチクラフトアルペジオです」

「……?」


 最近その名前を聞いたな。

 伝説に出てくる破魔の盾だ。


 アンさんが渡してきたものを押入れに入れてあったはずだが……


「おや、(あるじ)殿は無事だったか」


 さらにもう一人、少女がドアの奥から現れた。

 こちらは先程の少女とはうってかわって禍々しい雰囲気をまとっている。


 紫の髪に鋭い目つき、ビキニアーマーのような露出の多い鎧を身に着けていた。

 年齢は二人とも同じくらいだろうか。


 いや、だから誰だよ!


 ……しかし、二人が並ぶと不思議と絵になっていると言うか、光と闇が合わさり最強に見えるというか……とにかく、悪い光景ではない。


「主殿、元気なら我を手伝え」

「えっ、何を?」

「片付けに決まっている。整理整頓ができていないから押し入れに虫が出たりするのだ! あんな屈辱を味わったのは初めてだぞ!」


 紫髪の少女は腕を組んで仁王立ちをして怒っていた。

 一方、それを見た白髪の少女が紫髪の少女に怒りをあらわす。


「エタニティフルムーン、まだマスターは起きたばかりなのですよ。働かせるのは酷というものです!」

「じゃあなんだ、ウィッチクラフトアルペジオ。お主はこの散らかった部屋を片付けられるというのか? 主殿の物ばかりで我々の手には負えんぞ!」

「う……一理ありますね。マスターの家に秩序をもたらす必要はあるでしょう」

「ほれ、我のほうが正しかったな」

「いえ、しかし、それが今すぐである必要はないはずです!」

「ウソつけ! お主だって押し入れの中で虫に怯えていたくせに! 一刻も早く片付けをしないといけないと言っていたのはお主の方だ」

「そ、それは……私だってあんなところに入れられたのは初めてなんですから、仕方ないでしょうが!」


 二人は俺をそっちのけで話し合っていた。

 いや、口論か……?


 だが、何にしても俺の疑問はただ一つ。

 目の前の二人の少女は誰なのか。

 そして、なぜ俺のことをマスターだの主殿だのと呼ぶのか。


 少なくとも二人の少女は俺の記憶にない。


「あ、あのー」


 俺が二人に声をかけると、二人は「なんだ!」「なんですか!?」と同時に振り向いた。


「いや、まずここ俺の家なんだけど、二人は誰なのさ」

「さっき言ったじゃないですか! ウィッチクラフトアルペジオですよ!」

「いや、確かにこの姿になるのは我も初めてのことじゃ。主殿には説明しておかなくてはなるまい」


 そう言って、紫髪の少女は手を差し出してきた。


「え?」

「手を取れ。早く」


 仕方がないので少女の手を握る。


 すると、次の瞬間……


 俺の手には押入れにしまったはずのあの魔剣が握られていた……!


「どうなってるんだ!?」

「我は魔剣エタニティフルムーン。我らのように魔力が蓄えられた武具は使い手の魔力とリンクする力を持っている。本来は人型になるなど我らの力でも不可能なはずだが――押入れから脱出したいという強い思いと――主殿の強い魔力のおかげで人型になるのに成功したというわけだ」


 また次の瞬間には、俺の手に握られているのが少女の手に戻っていた。


「我らのような魔術武具は使い手と一蓮托生の存在。押し入れに入れられたのは大変不本意ではあるが、主殿の力となろう」


 紫髪の少女は小さく「また押し入れに戻されるのも嫌だし……」と付け加える。


「私もマスターを守る盾として、全力でご奉仕させていただきます!」


 白髪の少女も小さく「ですから今度は押入れなんかに入れないでくださいね」と付け加えた。


「えーっと……つまり……その……本物の魔剣に本物の破魔の盾だったということか?」

「そこから疑っていたのか!? 魔剣としての矜持がズタボロだ……」

「正真正銘、私たちは魔術武具ですよ」


 魔術武具とは、伝説に語り継がれる魔剣とか盾とかの総称である。

 例外なく強い力を秘めていて、神話に出てくるような武具。

 それが魔術武具だ。

 一応、国の宝物庫には魔術武具があるとか噂自体はあるのだが、実際に見たことは一度もなかった。


 はっきり言ってそんなものが目の前にあるとは信じられないことだが、先程の魔剣への変身を見た後では信じるしかない。

 となれば、あのときの幻聴も実は二人の声だったのかもしれない。

 ようやく俺はその事実に思い至った。


「そうか……本物だったのか……。それで、名前はなんて言ったっけ」

「エタニティフルムーンだ」

「ウィッチクラフトアルペジオです」


 ……いや、長い!

 これでは二人を呼ぶのもままならない。


「うん、長いからムーンとジオって呼ばせてもらいたいんだけど」

「なっ、我の高貴なる名前が長いと!? しかし、押入れに逆戻りだけは……仕方がない、ムーンと呼ぶことを許そう」

「はい、ジオで結構です!」


 紫髪で鋭い雰囲気の少女がムーン。

 白髪で清純な雰囲気の少女がジオ。


 これでだいぶ呼びやすくなったな。


 ぶっちゃけ意味不明なことばかりだが、人間ってのは不思議なもので、俺は逆に落ち着いていた。

 受け入れがたいことが起こると、いっそ諦めてすべてを受け入れるようになるようだ。


「それで、ムーンとジオは部屋の片付けがしたいと」

「そうだ。混沌は我の求めるものの一つではあるが、部屋が混沌としているのは我にふさわしいとは思えない」

「私たちも手伝いますから、一緒にお部屋に秩序をもたらしましょう!」


 確かに、言われてみれば俺の家は汚い。

 なにぶん一人暮らしな上に友人が居なかったので注意されることもなく、なんだかんだ最低限の生活スペース以外は散らかり放題になっていた。

 いらない物とかを何も考えずに押入れとかにしまってしまうのも、きっと良くないのだろう。


「分かった。じゃあまずこの部屋から片付けようか」


 こうして、何故か俺は二人の少女……エタニティフルムーンとウィッチクラフトアルペジオと共に家中の掃除を行うことになった。

 何もかもが意味不明な時、人間はとりあえず目の前の分かりやすいことから片付けるしかないんだなと身を持って体験することになったわけだ。


 なんで片付けをしているのか全くわからないが、とりあえず、片付けをしている間はそれ以外のことは忘れていられる。


 ……なお、二人とも片付けが上手で俺の家は見違えるように綺麗になったとさ。

 「伝説の武具は片付けもできるんだなぁ」と感心した。


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