お隣さんからのおすそ分けがマンドラゴラだった
コンコン。
「ラウズさん、いらっしゃいますかー?」
「はい、アンさんですか?」
それから一週間くらいして、アンさんが俺の家を訪ねてきた。
ドアを開けると、アンさんは珍しく作業着のような服を着ていて泥だらけだ。
しかし……美人というのは泥だらけでも映えるものなのだな。
「実は裏の畑で色々取れたのでおすそ分けと思いまして」
「それは、どうも、ありがとうございます」
見れば、足元にはなにやら箱が置かれていた。
その箱の中には見たことのない野菜のようなものが詰まっている。
「これなんですけど、ご迷惑じゃないですか?」
「いえいえ、助かりますよ! あ、そうだ。ちょうど昼食の準備をしようと思っていたところなので、俺がアンさんの分も作りますよ!」
「そんな、悪いですよ」
アンさんは申し訳無さそうな顔をしているが、俺こそこれまで色々と貰ったのにお返しができていなくて申し訳ない。
幸い一人で暮らしていることもあって料理はそれなりに得意なので、アンさんが届けてくれた食材を使って料理を作るのは良い考えだろう。
「それに、実はわたしはもうご飯を食べちゃったんです。ラウズさんがぜひ使ってください」
「そうですか。ありがとうございます」
それならば仕方がない。
それにしても、箱の中に入ってる野菜は見たことないものばかりだけど、なんだろう。
「この野菜、なんですかね? ニンジンみたいだけど、なんか側面に顔みたいなくぼみがあるような」
「あ、それはマンドラゴラですね!」
……ん?
マンドラゴラ?
マンドラゴラといえばニンジンのような見た目をしているが、土から引き抜くと魔力のこもった悲鳴を上げて周囲の生き物を殺し尽くしてしまうという恐ろしい野菜だ。
ただ、その分その身に含まれた魔力は尋常ではなく、魔術を使えない人でも一口食べれば魔力が溢れて魔術を使えるようになるとさえ言われている。
危険性と希少性が高すぎるが故に歴史上でもマンドラゴラが確認されているのは数例だけで、空想上のものなのではないかという話もあるほどだ。
アンさんはやっぱりジョークが好きらしい。
よく考えたら、アンさんが越してきてから二週間も経ってないのだ。
裏の畑で取れたというのはおかしいだろう。
せっかくだからこのジョークに付き合ってあげよう。
「ほー、それはすごいですね! じゃあ、こっちの葉っぱのようなものはなんですか?」
「それは世界樹の新芽です。おひたしにすると美味しいですよ!」
ほほー、世界樹の新芽と来たか。
世界樹と言えばおとぎ話に語られる世界を覆うほどの大樹である。
おとぎ話によれば、かつて世界は世界樹の枝と葉によって覆われ、地上は日が当たらない暗い土地だったという。
しかし、太陽を求めた巨人の英雄が世界樹を斧で切り倒し、世界は太陽を取り戻したというのだ。
そんなものの新芽となれば、きっとものすごい力を秘めているに違いない。
「世界樹の種なんて持ってたんですね」
「ええ、前に住んでいたウチにたくさんあったので持ってきたんですよー」
世界樹の種がたくさんある家があってたまるか!
と、心の中でツッコミを入れつつも俺は会話を続ける。
「こっちにあるリンゴみたいなのはなんですかね。あ、もしかして、百薬リンゴですか?」
「よく分かりましたね!」
百薬リンゴもまたおとぎ話の果物だ。
その実を食べた人はあらゆる病気が治り、病気にかからなくなるという代物だ。
もちろん、そんなものがあるわけもない。
「はは、こんな良い物を頂いちゃっても良いんですか?」
「ええ、数日で取れますから全然大丈夫ですよー」
「じゃあ、ありがたく食べさせてもらいます」
俺はアンさんにお礼を言うと箱を抱えた。
「また今度お礼はしますね」
「お気遣いなくー」
やはりアンさんはなかなか愉快な人なようだ。
しかし、実際に野菜をもらっているのは事実。
ありがたく食べさせてもらおう。
俺は箱を家に運び込むと、早速昼食の準備に取り掛かる。
ここはシンプルに野菜炒めが良いだろうな。
多分普通の食材なのだろうが、あんな会話のあとだと少し良い物に思えてくる。
作る料理は『マンドラゴラと世界樹の新芽の野菜炒め~百薬リンゴのスライスを添えて~』とでも言ったところか。
俺はウキウキ気分で野菜炒めを作ると、それを盛り付けて机に置く。
――いただきます。
一口食べたそれは想像よりも美味しく、思わず舌鼓を打ってしまった。
「うーん、これ、本当に良い食材なのかもな。いつもの野菜炒めより美味しい気がする。今度アンさんに何かしてあげないとな」
余談だが、この日から妙に身体の調子が良くなった。
やっぱり人と会話するのは大事だな!
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