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お隣さんからのおすそ分けが盾だった

 数日後、俺はいつもの通り仕事をしていた。

 真剣に机に向かって筆を走らせていく。


 ……実を言えば、俺の仕事は小説家だった。

 物語を書いて出版社からお金を貰って生活しているのだ。


 昔は「魔王を倒して英雄になる!」なんて俺も言っていたもので、トップ冒険者を目指して冒険者をやったりもしたものだが、俺にはてんで才能がなかった。


 剣を振っても空振りばかりで半分当たれば上出来という有様。

 弓に至っては的に当たったら奇跡というレベル。

 加えて魔術はセンスが無いのか使うことすら出来ない。


 これでは魔王を倒すどころか、そこらへんの雑魚と言われるような魔物にすら勝てるか怪しかった。


 そんなわけで、俺は英雄になるのは諦めて英雄の物語を書くことにしたというわけである。

 誰にだって向き不向きはある。

 俺は幸い物語を書く才能は並程度にはあったらしく、お世辞にも儲かっているとは言いづらいが、一応はこれで食いつないでいる。


「よし、今日はこんなところでいいか」


 窓の外を見れば、すでに夕日が沈みかけていた。

 そろそろ夕食の準備でもしないとな、と思ったその時……


 コンコン。


 俺の家のドアがまたノックされた。


「すみませーん。ラウズさん、居ませんか?」

「ちょっと待ってください」


 俺がドアを開けると、そこにはアンさんが立っていた。

 うーむ、相変わらず可愛らしい。


「一体どうしたって言うんでしょうか」

「実は……ちょっと作りすぎちゃって……おすそ分けに、と」


 おや……?

 これはお隣さんが夕食を作りすぎちゃっておすそ分けっていうシチュエーションか!?

 あこがれてはいたものの俺には一生縁がないと思っていたぞ。


 そう言えば、アンさんは両手で鍋のような物を持って……


「そういうことならありがたく頂きますよ!」

「良かった……! これ、破魔の盾ウィッチクラフトアルペジオです!」


 ……ん?


 アンさんが両手で持ったものをスッと俺の前に差し出してきた。

 それは金属で出来ていて、中がへこんでいて……鍋に見えたんだが……

 こうしてよく見れば、鍋ではないな。


 そもそも中に何も入ってないし、鍋にしては浅い。


 というかなんて言った?

 ハマノタテ?

 なんたらかんたらアルペジオ?

 一体なんだそれは。


 都会で流行りの料理か?

 いや、どう見ても可食部分は……ないな。


「あ、あれ、ご飯とかじゃないんですね。ど、どうも」

「もしかして、ご飯のほうが良かったですか?」


 俺は頂きますよと言った手前、その何かを受け取るしかなかった。

 ズシリとした重みが俺の両手にかかる。


 そういえば、アンさんは引っ越しの粗品に変な剣を渡してくるような人だった。

 忘れていたわけではないが、顔に見とれていたせいで持っているものが盾だとは気づかなかった……


 それに、作りすぎちゃっておすそ分けって言われたら、普通食べ物だと思うでしょ!!


「いえいえ、ご飯も食べたかったですけど、ありがたくいただきます」

「それなら良かったです! それでは失礼しますねー」


 アンさんは穏やかな笑顔を浮かべて手を振ると帰っていった。

 俺は両手がこの何かによって塞がれているので手を振り返すことも出来ず、ただ作り笑顔でアンさんを見送った。


 俺は視線を落とし、今貰った物が何かを確かめる。


「……盾……? あ……破魔の盾、か?」


 いや、おかしいでしょ!

 どこから突っ込んで良いのかわからない。


 まず「作りすぎちゃって……」で盾っていうのはおかしいだろ!

 魔剣に引き続いて意味が分からないよ!


 それに、破魔の盾っていうのは何の冗談なのか。

 ……破魔の盾ウィッチクラフトアルペジオと言えば、伝説に語り継がれる勇者が使っていたとされる盾のことだった気がする。

 あらゆる魔術を弾き、所持者に力をもたらすという神器だ。


「あなたが新しい私のマスターですか? 私の名はウィッチクラフトアルペジオ。マスターの身に降りかかるあらゆる災厄を弾いて見せましょう」


 なんか変な声が頭の中で響いた。

 うーむ、最近疲れているのかもしれない。


「かつて私と共に魔王と戦った者は、魔王の力を前にして惜しくも敗れました。それ以来、私は永き眠りについたのです。しかし、あれから私は力を溜め込み続けてきました。絶対に、マスターの身に傷一つつけさせません」


 随分と意味不明な幻聴だな。

 ここ数日仕事が忙しかったからご飯を抜き気味だったのが良くなかったのかも。


 それとも、アンさんが来るまで一人の時間が長かったから、寂しさのあまり無生物に人格を見出してしまったのだろうか。


「私はマスターの意志に呼応して大きさを自在に変えることが出来ます」


 ふーん、じゃあもうちょっとコンパクトになってくれた方がいいな……


 そんなことを思うと、手に持っていた盾が軽くなった気がする。


「あれ? こんなに小さかったっけ? まぁいいや」

「マスター、それはマスターの意志に呼応して――」


 俺は家に戻って押入れのドアを開ける。


「マスター? 一体私をどうしようというのですか? マスター? マスター?」

「我が、我が悪かった……頼む……頼むから(あるじ)殿……我をここから出してくれぇ。魔剣として使ってくれとは言わないから、せめて押入れで放置するのだけは。なんか変な虫がい――」


 頭の中に同時に二人分くらい変な声が聞こえた気がするが、無視して俺はアンさんから貰った盾を押入れに放り込むと、押し入れのドアを閉めた。


「ヨシ!」


 ちょっとアンさんの手料理が食べられるかもと期待したのだが、そんな上手い話はなかったな。


 と言うか、おすそ分けで盾を渡してくるってどんなセンスをしてるんだ!?


 ここから導き出される結論は一つだろう。


 ――これは手の混んだジョークだ!


 前回の魔剣といい、アンさんはかなり愉快な人のようだ。


 わざわざ剣と盾を用意するのはかなりのものだろう。

 ジョークを言うにしても、普通ここまで手を込んだことするか……?


 ……だが、嫌いじゃない。

 アンさんはなかなか面白い人だな。


 まぁ、とはいえ、盾があっても仕方がないので押入れにしまうしかないんだけど。


「それにしても最近疲れてるのかもしれないな。今日はしっかりご飯を食べよう」


 幻聴はきっとお腹が空いているせいだろう。

 とりあえず夕食を作ろう。

 今日はたっぷり食べることにする。


 俺は気持ちを切り替えて夕食の準備に取り掛かるのだった。


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