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ラウズと猫ちゃん / 魔王城にて

 それから数日して、俺の生活はようやく落ち着いてきた。

 窓から差し込む朝日を浴びながら俺は伸びをする。


 いくら新聞に載っていたからって、民衆の心はすぐに移り変わるものだ。

 その上、今回の事件を実際に見た人物もそこまでは多くない。

 最近は特に何かを言われたりすることもなくなった。


 ……それにしても、俺の小説の売れ行きはどうなってるのかなぁ。

 そっちまで忘れられてないと良いけれど。


「さて、朝食を作るか」


 俺は朝食の準備に取り掛かる。

 まだジオとムーンは起きていないが、そろそろ起きてくる頃だろう。

 自分を含めて三人分の朝食を作らないといけない。


 一人の時と比べると手間は増えるが、そこまででもない。

 料理ってのは”作る” と”作らない”の間には大きな差があるのだが、”一人分作る”と”三人分作る”の間にはそこまで差がないと思っている。


 それにしても、こうして自分以外のご飯を作るというのは懐かしいな。

 俺は卵をときながら、ふと過去を思い出していた。


「あのときはまだ冒険者をやっていたときのことか」


 十年くらいは前だろうか。

 俺には実力もないのに魔王を倒すと息巻いて冒険者をやっていた時期がある。

 明らかにダメダメだったわけだが、それでも俺は続けようとしたわけだ。


 そんなある日、一匹の猫が魔物に襲われているのを見つけた。


 その魔物は一般的な冒険者なら簡単に倒せる程度の魔物だろう。

 しかし、俺は激戦の果てに魔物を倒し、なんとか猫を救出した。


 その一件で猫に懐かれた俺は、猫と一緒に冒険者活動をすることになる。


「だいぶ俺も猫に愛着を持っていたからな。ご飯を自分の分以外に作っていたのはあの時くらいだ」


 実を言えば、俺が小説になった原点はあの猫にある。


 一人旅で寂しかった俺はいつしか猫にいろいろな作り話をするようになっていたんだ。

 今思えばそれは俺自身を主人公にした無双小説のような代物で、大変恥ずかしいものだが、猫はそれを楽しそうに聞いていた……と思う。


 俺はそのときに自身に物語を作る才能があるんじゃないかと気づいた。

 今こうして小説家をやれているのはあの猫のおかげと言って良いかもしれない。


「そのあとあの猫は……」


 えーと、どうなったんだっけ?


 思い出せずに考えていると……


「んー、ごはんか?」

「おはようございます!」


 ジオとムーンが起きてきてしまった。

 今作っている料理ももう完成間近だし、ちょうど良いタイミングだろう。


 俺は頭を切り替えて、皿に料理を盛り付ける。

 うむ、普通の出来だが失敗はしていない。


「よし、食べるぞ」

「いただきまーす!」


*


 ――魔王城にて。


「ら、ラヴズアンセム様! アビスブラックがやられているのですぞ。何か手を打たなくてよろしいのですか?」


 頭の大きい紫の肌をした小人のような魔物がそう声を上げた。


 その魔物の前方には少し高くなっている場所があり、そこには魔王の座る玉座が置かれている。

 ただし、魔物と魔王の間は薄いカーテンで区切られており、その魔物から魔王の姿を直接見ることはできない。


「構いはせん。戻った魔物たちの証言が確かであれば、一人でアビスブラックや魔物の軍勢を倒したのだろう? 下手に動くのは得策とは言えない」


 その魔王、ラヴズアンセムの声は美しかった。

 女性のものだろう。

 それでいて、歴戦の強者であることを感じさせる貫禄も含んでいた。


「し、しかし! 魔王様が中々姿を見せないから、四天王たちの制御も難しくなっております!」


 その魔物は焦っていた。

 なにせ、先代のときには魔王の補佐として活躍していたのだ。

 魔物たちを導く立場としての責任は大きい。

 ときには、魔王の過ちを正すのも側近としての仕事だ。


 今の魔王は中々自らの責務を果たそうとしていない。

 戦いにより魔王が交代したこと自体は良いが、新たな魔王は中々統治を行わないのだ。

 それどころか、姿すら中々見せようとしなかった。


 そのせいでアビスブラックのように功を焦って失敗する者が出てきてしまったに違いない。

 もっと魔王として魔物たちを導いてくれなくては。


「魔王様、なぜ姿を見せようとしないのです! 先代魔王と戦い魔王の座を勝ち取ったのであれば、その力を我らのために振るうべきでしょう!」

「黙れ」


 魔王の凍てついた一声にその魔物は思わず口をつぐむ。


「その先代魔王を倒した力、お前の身で体験させてやってもいいんだぞ?」

「ヒッ……」


 魔王の姿は直接見えないが、その身から放たれた殺気は凄まじい。


 側近の魔物は決して強いわけではないが、魔王との差を一瞬にして理解する。

 同時に、先代が負けたということも納得できてしまうほどだった。


「私は忙しいのだ。そうずっと魔王城に居るわけにはいかぬ。お前がなんとかせよ」

「か……かしこまり、ました」


 それだけ言うと魔王は立ち上がり、後方にある部屋へと入っていった。

 心臓を刺すような殺気は霧散し、側近の魔物はどうにか顔を上げる。


「新たな魔王様は一体何をお考えなのだ……」


 アビスブラックがやられたというのは決して小さな出来事ではない。

 にも関わらず、それが当然であるかのような振る舞いをする。

 不信感を抱いても仕方がないだろう。


 しかし、それを黙らせるだけの実力があるというのもまた事実であり、そこがまたたちが悪い。


「ううむ……一体どうするべきか」


 頭を悩ませながら、側近の魔物もまた部屋を後にするのであった。


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