領主様に呼ばれた結果
「ほう、そなたがラウズか」
俺は領主邸に呼ばれて領主様と一対一で食事をすることになっていた。
目の前には豪勢な料理が並び、正面には領主様が座っている。
「此度はこの街に侵攻してきたアビスブラックを止めてくれて感謝する」
「いえ、滅相もございません。偶然です」
「ははは、そう謙遜するな。偶然で魔王軍の四天王をああも完膚なきまでに倒せるものか」
楽しそうな笑う領主様を尻目に、俺は緊張しまくりだ。
領主様は俺の活躍をどんな風に聞いているやら。
領主邸なんて一生縁がないはずの場所だし、いくらアビスブラックを倒したとは言え一体何の用で呼ばれたのかも分かっていない。
何を言われるのかヒヤヒヤだ。
「新聞で読んだぞ。あのアビスブラックを一撃で倒し、霧の魔術を退け、引き連れていた魔物の軍勢を一瞬にして地に下したそうじゃないか。その上アビスブラックが土下座していたとも聞く」
「いえいえ、それは言いすぎですよ」
ここのところ新聞をしっかり読めてなかったけど、そんなこと書かれてたの!?
アビスブラックが土下座したこと以外はほとんど脚色じゃないか!
霧の魔術はアビスブラックが自分で解除しただけだ。
魔物の軍勢を倒したのに至っては俺じゃない。
噂に尾ひれがつくとは言うが、当事者になると困ったもんだな。
「魔王軍の四天王が倒されたのは十年ぶりにもなる快挙……それで、わしはこの件を国王様に報告させてもらった」
国王様と言えば当たり前だがこの国で一番偉い人である。
え……?
そんなところまで話が行ってるの?
「そしたら、ラウズ……そなたにぜひとも魔王軍の前線拠点攻略に加わってほしいと言われてな!」
「はい?」
魔王軍の前線拠点攻略?
何を言っているんだ?
「魔王軍の前線拠点は四天王のグレイシャルブルーが守っているらしくてな。ラウズの力を借りたいということみたいなんだ」
「わ、わたくしでは力不足ではないかと……」
もしかしたらジオとムーンが強くて倒せるということもあるかもしれない。
だが、アビスブラックとの戦いでは謎の人物が外の魔物の軍勢を倒していた。
もし軍勢と真っ向から戦えばいくらジオでも攻撃が防ぎきれないかもしれない。
攻撃を的確にかわすような躰術は持ち合わせていないし、危険だ。
というか、そもそも俺は小説家であって戦士ではないんだぞ!
「詳細は追って連絡するとのことだ。前線攻略のような一大計画の実行はすぐにとはいかないだろうから気長に待っていてほしい」
「断ったりとかは……」
「ははは、冗談を言うな。国王様からの直々の指名を断るなどとは恐れ多いぞ」
これはダメそうだ。
俺はもはや諦めモードに入る。
「そうですよね。分かりました。連絡を待ちます」
「頼んだぞ! さ、料理もどんどん食べてくれ。君は街の英雄だ!」
こうして俺は考えることをやめて、いつもは口にしないような豪華な料理を口に運んだ。
多分、美味しいのだろうが、今後のことを考えると素直に楽しめない。
うーむ、前線基地攻略なんて行きたくないんだが……
*
俺は領主邸を出て帰路へとついた。
その途中、偶然にもプルシェラと出会う。
「あ、プルシェラさん」
「ラウズせんせ! こんなところで奇遇ッスね! 街まで何しに来たんスか?」
「いや、実はこの前の件で領主様に呼ばれまして……」
「あー!」
プルシェラはポンと手を叩く。
「ふふーん、あたしのおかげッスね!」
「……?」
あたしのおかげ?
一体どういうことだ?
「あれ、見てないんスか? 新聞でラウズせんせの活躍をバッチリ書いておいたッスから! アビスブラックを華麗な剣技で仕留め、魔物の大群を一刀のもとに斬り伏せた勇姿を!」
「お前かーーーーー!!!!!」
すっかり忘れていた。
プルシェラは編集者だが、所属する組織は印刷業全般を手掛けている。
小説はもちろん、新聞も取り扱っていたはずだ。
つまり、妙に誇張された噂が出回っていたのは全部コイツのせいじゃないか!
「プルシェラさん見てなかったじゃないですか!!」
「多少の脚色は仕方ないッスよ。民衆が求めているのは正確な情報じゃなくてドラマティックさッスから」
いや、民衆が新聞に求めているのは正確な情報だよ!
小説の編集やってるからってちょっと混ざってしまってないか?
「いやー、でもほんと驚いたんスから! ラウズせんせがアビスブラックに勝っちゃうなんて。しかも、被害が出る前にいち早く家を飛び出して向かっていくなんて、よほど強くないとできないッスよ」
「むぅ……」
「しかも、ジオちゃんとムーンちゃんと一緒に出ていったはずなのにいつの間にかラウズせんせ一人しか居ないし……ある程度何があったのか想像するのは仕方ないッス!!」
くそー、おかげさまで領主様どころか国王様から前線基地攻略の任務を与えられそうなんだぞ。
「ラウズせんせはお気に召さなかったみたいッスね。でも、このおかげでラウズせんせの小説の売れ行きは抜群に良くなったッスよ」
……なんと言った?
「当然あたしはラウズせんせの小説についても新聞に盛り込んだッス。結果、売れ行きはこれまでの十倍以上。ラウズせんせもこれは嬉しいんじゃないッスか?」
「……それは、嬉しいですね」
俺は小説家という仕事が好きだ。
稼ぎは結構カツカツだからもうちょっとお金がほしいと思ったこと自体はある。
だが、英雄を目指すだの背伸びするよりはずっと身の丈にあっていた。
自分の作った小説で誰かが笑顔になってくれるのなら、これ以上嬉しいことはない。
それに加えて、もうちょっとばかしお金が入るのなら言うことはなかった。
「ラウズせんせ、次の原稿料は期待してくれて良いッスよ~」
「それはありがたいですね」
よっしゃ!
俺は自分の小説が多くの人に読まれている嬉しさと、次回の原稿料のことですっかり気分が良くなっていた。
前線基地攻略は気がかりではあったが、今だけは忘れておこう。
俺はプルシェラと別れると、ウキウキ気分で帰路へとついたのであった。
これからラウズはどうなるのか?
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