謎の女性
鬱蒼とした森の中を、レイはひたすら目的の場所を目指して歩いていた。
「はぁ、はぁ…。まだ着かないのかよ!魔法が使えたら、瞬間移動か飛行魔法ですぐ着くのに…」
かれこれレイは、もう三時間も歩き続けている。こんな森の中、人に出会うわけもなく、黙々と歩きつ続けている。
こんなことになったのは、全部あの子供のせいだ。あの市場でぶつかってそれから俺は魔法が使えなくなった。それにぶつかったときに渡された、住所が書かれた紙。
(「なにか変だと感じたらここに来い」)
あの子供の言葉を思い出される。
あの子供は何か知っている。俺に起きていることを説明できるはずだ。そうじゃないと困る。俺は妹を探しに来たんだ。こんなところで道草を食ってるわけにはいかない。
「くっそー!どこにあるんだよーーーー!」
なかなか着かない苛立ちとどんどん増していく疲労感でレイは叫んでしまう。
―――。
レイは右を見る。
「何かいた気がしたんだけど…」
そう、何か動いたと思ったんだ。
レイは歩くのを止めて、辺りを見渡す。
ガサガサッ
「うわっ!ってこいつかよ!!」
木々の間から出てきたのは、体長五メートルはある獣だった。鋭い爪にレイを狙う眼光。ついでに、口からはよだれが垂れている。
「おいおい、この森こんな奴がいるとか聞いてねえよ!」
この程度の獣、いつもなら倒せない相手じゃない。そう、いつもなら。
どうするっ!今の俺は魔法は使えない。生身の人間VS巨大な獣。どっちが勝つかなんて目に見えてる!一旦逃げるのが得策だが……絶対逃げられねえ!!こんな距離でしかも獲物をロックオンしてる相手に自分の足でどうにかできる相手じゃない。じゃあどうする?このまま何もしないと食べられるだけ。どうしたら……。
必死に思考をフル回転していたレイは、突然の獣の攻撃に反応しきれない。
「うっ」
レイは獣の鋭い爪で右の太ももを裂かれてしまう。血が飛び散る。そのまま立っていることができず倒れこんだ。
俺、このまま…死ぬ…?
(みーつっけたっ!!)
レイが死を覚悟したとき、女性の声と共に獣の呻き声がした。見ると、レイの前に一人の女性が立っている。
(ッ!獣人!?)
レイを守るように立っている女性の爪は鋭く、耳と尻尾が生えていた。
女性は、さっきの攻撃のときに喰らったであろう切り傷から血が出ている。それをひと舐めして、「美味しい」と呟いた。
(お、美味しい?!)
女性は高く飛び上がり、右手を振り上げる。爪はより一層鋭くなり、それを獣の頭に突き刺した。
「1、2、3、4、5、おーわりっと」
女性は爪を抜いて、レイに近寄る。
「終わったよ。って、大丈夫?!」
レイは突然現れた女性の奇怪な戦闘を気にする余裕がないほどに出血し意識が朦朧としていた。
「あ~死んじゃダメだよ。先生が悲しむから!」
(先生…?)
レイはそこで意識が途絶えた。
「おーい!意識なくしちゃった?あーもう!」
レイを助けた女性、ミーシャは仲間にテレパシーを送る。
『どうしよう、意識なくなっちゃった!』
『ええ!!じゃあ早く連れてきてください!』
『でも、あたし魔法使えないよ?』
『そそうでした!じゃあどうすれば…』
『…あっ!そういえば!移動型の魔法陣の印刷持ってるっ!』
『えっ。でもそれまだ試作品のやつですよね…』
『…まさか試作品のやつかッ?!絶対使うなよ!なんで一番持ってちゃいけないやつが持ってんだよ!』
『じゃあ、瞬間移動いっきまーす!!』
『待て!人の話を』
次の瞬間、二つの地点で大爆発が起きました。