出会い
これは、突然いなくなった妹を探す俺が年の割に容姿が幼い主とその仲間たちに出会う話だ。この人間も獣人も魔法も魔術もなんでもありな世界なら、壮大で危険な冒険も笑って泣ける絆も友情も愛情も、たくさんの物語が生まれるはず。そんな、物語を書いていきたいな。
「うわっ、人すごっ」
レイは感じる人の多さに引いていた。
(こんなに人がいるんだな。肩とかばんばん当たってるし。…なんかここまで来ると気持ち悪いな)
レイが今いるのは、この国の都市、それも中心部。毎日世界中から人が集まる、そんなところの市場にレイはいる。まぁ、人と言っても体中が毛で覆われた獣人や背中から羽が生えたフェアリー、魔法や魔術が使えるものや逆にただの人間まで、この世界にはいろいろいる。その中で言葉を発し会話ができるものをまとめて「人」と表している。
「はぁー。どこに行けばいいんだよ。…ああやばい。なんか本格的に気持ち悪くなってきた…」
どこに行ったんだよ、リリー。妹のリリーがいなくなってもう三年。やっとまとまった金ができて妹を探す旅に出た。…のはいいんだが、手掛かりが全くない。この三年の間に、リリーの部屋を片っ端から探したし、リリーの友達にもあたったけど、手掛かりなし。リリーからの手紙も来なかった。たった一人の家族なのに…。
「ああクソッ!どこに行ったんだよ!」
レイの叫びは周りの雑音にかき消される。大切だからこんなに心配しているんだ。どこかでひどい目遭っていないか、泣いていないか。
「お兄ちゃん」
そうそう今みたいに俺を呼んで…。って
(リリー!?)
そう思って声のしたほうを向く。小さい女の子と男の子がいた。「お兄ちゃん、待ってよー」「遅いんだよ。絶対に手離すなよ」そんな風に話しているのが聞こえた。
なんだ、と少し肩を落としていると、脚に衝撃を感じる。と同時に「悪い」と声がした。声がした方を見ると、頭をすっぽりフードで覆った小さい女の子がいた。レイが180㎝くらいだが、その子は150㎝あるかないかぐらいだ。この世界、身長3mは余裕で見かけるのでそう考えるとだいぶ小さい。
女の子は振り返り、レイと目が合う。と、女の子は紙に何かを走り書きし、レイに差し出してきた。
「な、なんだ?」
「これは私の家の住所だ。なにか変だなと感じたらここに来い」
「…は?」
女の子は住所を書いた紙をレイに渡し、行ってしまった。
「え?どゆこと?」
レイは今起きたことを考える。女の子と体がぶつかって、振り返ったら目が合って、そしたら住所を書いた紙を渡された…。これってつまり
「逆ナンパ…」
って、ないない。あんな幼い子供だしナンパって言葉も知らないだろうし。それによく考えたらなんか怪しいよね。すごい上から目線で「ここに来い」とか、なんかの宗教の勧誘なのかな。まぁ、俺は興味ないし、燃やすか。
レイは一旦市場から出て、道の端に移動する。魔法を使うためだ。発展している国や都市は魔法や魔術の使用ルールが厳しい。建物内外関わらず、施設の敷地内での魔法や魔術の使用は禁止なこともルールの一つだ。
レイは近くに物も人もいないこと確かめて、指先に意識を集中させる。一秒、二秒、三秒…あれ?おかしい、いつもなら一秒とかからずに火を出せるのに…。もう一回指先に意識を集中させる。火、出ろ、火出ろ、火出ろ、火出ろ火出ろ火出ろ…火っ!出ろっ!レイの願いも虚しく、指先は一瞬赤くなったかと思うとすぐに消えてしまった。
「なん…で…」
思考を巡らす。数分前の出来事が思い出される。「なにか変だと感じたらここに来い」一人の女の子の言葉。あの子が何か知っているなら。レイは今初めて、ちゃんと住所を見た。そこは、この国の一番端にある住むには不便なところだった。