第1話
カラン
一人の老人が、ここユバル国首都ユーヘンの冒険者ギルドに入ってくる。
その老人は周囲の目を集めるだけの風貌をしていた。
歳は50歳後半に見え、身長は170センチ前半、白髪まじりの黒髪に見たこともない可笑しな服装、何より目を引いたのは腰に差している大小二本の刀である。
あまりにも時代遅れ。
200年前に魔法の無詠唱が体系化され、今や剣が廃れた時代。ほぼ全ての人間に魔力があり、その全ての人間が大なり小なり無詠唱魔法を使える時代。戦いは近距離戦から長距離戦へと変わった時代。
そんな時代に刀を差した老人が注目されるのは当然である。
「すみません。冒険者になりたいのですが、、、、。」
そして、ありえない一言を発した瞬間にギルド内は笑いに包まれた。
ごく一部の人間を除いて。
「ぎゃはははは、じいさん笑わせてくれる
でも辞めときな、そんな歳じゃあすぐ死ぬぜ」
大柄な男がそう言いながら近づいてきた。
「大丈夫です。
これでも自分の力は把握しているつもりです。
ご心配ありがとうございます。」
「ちっ、調子狂うな、、、、、ま、無理はしないこったな」
そう言いながら男は立ち去るが、周囲はまだ好奇な目で老人を見ている。
老人は周囲の視線を気にすること無く、受付嬢に冒険者登録をしたい旨を伝える。
「では、氏名・年齢・武器・使用魔法の種類を記入欄に記入して下さい。」
そして、老人が書いた記入用紙を受付嬢が確認していく。
「氏名はヤギュウ、年齢は65歳、武器は刀!?、使用魔法はなし!?!?!?」
またしても老人に好奇の目に晒された。
「はい、何せ魔力が無いもので、、、、」
周囲の目が驚愕に変わる。
今時魔力量の多さはそれぞれ違いはあれど、ほぼ全ての人間に生まれつき魔力が備わっている。
魔力のない人間なんてごく稀である。それこそ1万人に1人ほどの確率である。
「心配いりません、旅のついでに登録するまで。
積極的に魔獣を倒そうなんて思ってもいませんよ。」
そう朗らかに話す老人を見て、受付嬢や周囲の冒険者は少し安心した。
なにせ、魔法の使えない人間が魔獣を倒すなんてほぼ無理に等しいからである。
そして魔法の使えない人間はパーティーを組むことはできない。それは単純に対魔獣戦において無力だからである。
「、、、、冒険者は常に危険と隣り合わせですが、本当に大丈夫ですか?」
「はい、登録をお願いします。」
「かしこまりました。では、説明をさせていただきます。」
受付嬢から、冒険者のランクは・白・黄・緑・赤・茶・黒があり、例外なく白からスタートすること。自分のランク以上の依頼は受けられないこと。ランクを上げるには依頼の一定数達成が必要であること。依頼の失敗が続くとランクが下がることがあること。ランクが上がるごとにギルドカードが更新され、カードの色は自分のランクの色と同じであること。狩った魔獣は持ち帰ると換金して貰えること。冒険者同士の争いにギルドは一切関わらないが、殺しとギルド内での喧嘩は禁止事項であること。などの簡単な説明を受けた。
「これで説明は以上となります。なにか質問はございますか?」
「いえ、十分に理解させて頂きました。ありがとうございます。」
「では、これがあなたのカードです。これをもちまして、登録は完了です。
あちらの掲示板から白の依頼を受けられるようになりましたので、ご自由にお受けになって下さい。」
ありがとうございます。と一言発した老人は早速薬草採取の依頼を受け、ギルドを後にした。
老人がいなくなった後のギルドは何やら微妙な雰囲気に包まれていた。
これより、異界新陰流五代目師範 柳生宗忠の後継者探しの旅が始まろうとしていた。