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ケルプ

隠されたものがどうして隠されたのか、考えてみましょう。

 それは夏の終わりの明晩のことであるが、海の中で所狭しと揺れるケルプたちに隠されていたものが月光に暴かれ、偶然、泳いでいたナイトダイバーたちに発見されたのだ。それはゆっくりと引き揚げられ、船上に置かれたが、全体を成長して分厚くなったケルプに覆われていて、何か判然としなかった。印象だけで言えば、ミイラに似ていた。

 それは最寄りの港でナイトダイバーたちから漁師に引き渡されたのだが、その後の消息が曖昧だった。漁師曰く、博物館の学芸員たちに渡したとのことだった。

 ナイトダイバーたちは、それが人間だったと主張し、警察も呼んだが、それの到着以前に漁師が引き渡してしまったので、結局、行方はわからなくなってしまった。正体が判然としない上に、地元の警察が怠慢だったため、その話はそれっきりになってしまった。

 だが、ナイトダイバーたちは諦めず、専門家に話をした。ナイトダイバーたちのリーダーを芦川(あしかわ)と言い、彼が昔からオカルティックな話を大好物としていたためだ。専門家というのは、民俗学者の浅幾(あさき)という人物で、ケルプの港から数キロ離れた山奥に住んでいる、風変わりな老人だった。ナイトダイバーたちが何故、浅幾を尋ねたかというと、漁師が「浅幾さんなら……」と頻りに呟くのを聞いたからだ。

「知っている」と浅幾は開口一番に言った。独特な響きのある声だった。浅幾はナイトダイバーたちが持ってきたカステラをつまみながら、ケルプに覆われたものについて語った。

「あれは(まさ)に隠されたものだ。いやはや、あれを見つけるとは大したものだが、月光の調べだろうか。しかし、それはいいとして、あれは簡単に言えば禁忌(タブー)なのだよ。まだ人々が精霊の類いに従順だった頃、いや、今も禁忌なのは従順だからかもしれないが、何にせ、その頃に隠されたもので、何故かと言えば、あれは暗澹たる歴史そのものだからだ」

 その歴史を教えてくれ、と芦川は言った。

「構わないが、それを知ってどうするのかね? 知らないものは多い方がいいのだぞ」と言って浅幾は笑った。

「まぁ、教えるが……あれは隠されて当然の存在で、手短に言えば、あの中には双子の片割れの亡骸が入っている。かつてはよくあったことで、あの港の近辺でも、双子という存在を忌み嫌っていたのだ。生まれた瞬間に片割れを殺す程度にはね。しかし、ある時、生んだ子供が双子だということを隠して育てた夫婦がいて、子供たちは7歳まで成長したそうだ。だが、そこまでいくと隠すのが厄介になり、ついに人々に知れ渡ってしまい、双子は共々殺害され、雑に梱包されて沈められたのだ。そして、時間が経って海草が絡み付いたようだ」

 ならば、それはふたつあるのか、と芦川が訊ねた。

「そうとも。今もそうだろうな。恐らく、漁師は引き渡しなどせず、また、元のように沈めたに違いない」

 浅幾の言葉を聞いて、ナイトダイバーたちは芦川を筆頭に再び捜索することにした。三日三晩探して、ついに発見した。最初のポイントから四十メートルほど離れたケルプの底にあった。そして、浅幾の発言から、もうひとつを探したが、それは何処にも見つからなかった。

 仕方がないので、引き揚げられたひとつを開くことにした。船の上で、リーダーの芦川がナイフでケルプに包まれたそれを開いた。

 濃い海水の臭いとともに、亡骸が現れた。それは人間の形を何とか保っているようで、とても忌々しい姿をしていた。

 驚くべきは亡骸の下にあった。そこにはもうひとつの亡骸が入っていた。そちらはしっかりと人間の特徴を保っているようで、その状態の差にナイトダイバーたちは首を傾げた。そして、さらに驚くべきことは、状態のいい亡骸の顔を見た時にあった。

 それはリーダーの芦川と同じ顔をしていた。

 そう、よく見れば、大きさだって、もうひとつの亡骸よりも圧倒的に、7歳児の亡骸だとは思えないくらいに大きいのだ。

 ナイトダイバーたちはリーダーの姿を探したが、芦川は既に何処にもいなかった。もしや、とは思ったが、海中で揺らめく長く伸びたケルプの群れを見て怖じ気付いたため、帰港したのだ。

 結局、芦川は何処にも見つからなかったし、亡骸のひとつも、いつの間にか消えていた。残った大きな、芦川にそっくりなものを調べたが、DNAも何もない、言うなればレプリカのようなものだった。

 ナイトダイバーたちは、あのケルプの中に芦川が呪われて隠されていると信じているが、誰ひとり探しに行こうとはしない。何故なら、全員の消息がわからなくなってしまったからだ。

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