庭園
鍵があるなら、それは開けるべき場所があるということなのです。
庭園はそこにある。僕らが認識した瞬間からそこにある。庭園があるのなら僕らがいる。そこに咲く色とりどりの花々を僕らは見ることでトランスすることができる。
赤い花は宇宙への鍵。先に広がるのは空虚が有り余る世界。僕らはあまりにも小さく、そして、大きい。影がない世界なら、僕らの大きさは無限大になるのだ。
青い花は密林への鍵。獰猛さを隠しきれない愚鈍なジャングルには自慢の牙を試したい猛獣たちがいくらでもいる。でも、もっと危険なのはモスキート。次に危険なのは僕らだってことは自明だけれど。
黄色の花は海底への鍵。石と夢で造られた巨大な塒が僕らを驚かせる。そこには、あの夢の小説で見たような巨体が浮上の時を待ち侘びているが、その機会は今のところはあり得ない。
緑の花は戦場への鍵。僕らは確かに、君の頭蓋を銃弾が通り抜けるのを見たのだ。君が手に持っていたのは銀色の鍵。つまり、君は銀色の花を見たということだ。
黒い花は偽りへの鍵。先に広がる図書館には嘘だけしか書かれていない本ばかり。唯一信じられるのは天井の蛍光灯だけ。君は銀色の鍵で通過を試みたけれど失敗したようだ。
白い花は摩天楼への鍵。何人もの人々が高層ビルからジャンプするが、それは天界を目指したかったわけではなくて、単に乖離を望んだだけであり、僕らが止める理由はないのだ。
紫の花は真秀場への鍵。でも、そこがいつだって正しいなんてのは錯覚でしかないわけだろう?
銀色の花は午後2時への鍵。君は廃工場の黒くなった白い貯水タンクに腰掛けて昼の星を探す。しかし、窓が割れている以外に見えるものはない。いつから天が上にあると思っていたの? いつから僕らが上を見ていると思っていたの?
金色の花は門への鍵。薔薇の香りの王国の水門を越えたら、遠くにぼんやりと浮かぶ大扉へ。屈強な兵士には甘いクッキーかロリポップを。恐ろしい犬には甘くなった兵士を。灰の花が散る頃までは金色の花も咲いて、君には帰る場所があるのだ。
庭園はそこにある。そこにあるから、そこにある。僕らが認識した瞬間からそこにあるが、僕らが認識しなくなった瞬間からなくなる。




