それは英断だったのか?
正解も不正解も結果でしかない。
僕は眠い眼を擦った。とても疲れている。連日のバイトで身体が喘いでいる。でも、金欠だから仕方がない。欲しいものはたくさんあるけれど、金がないと何も手に入りはしない。
今日のバイト……遊園地の着ぐるみの中での仕事……が終わったのは、終電の一本前だった。楽かと思って応募したのだが、そんなことはなかった。窒息の恐怖というかが徐々に芽生える仕事だ。
この時間になると乗客は殆どいなくて、いたとしても酔っぱらいぐらいだ。今日は同じ車両には誰もいない。ただ、電車の振動だけが響いていて、僕には心地好かった。
人間の集まっている様が嫌いだ。僕には境界線が見えなくて、あれがひとつの肉塊だと思えてしまう。だから、都会の朝の満員電車なんてのは、電車の肉詰めのようなものだ。
僕はいつになっても上京はできないんだろうなと思う。
別にしたいとも思ってはいないけれど。
僕は欠伸をした。座ったら寝てしまうから立っている。けれど、立っていても今日は眠ってしまいそうだ。
ふと、僕は金網の上に眼を遣った。紙袋が置いてあった。誰かの忘れ物だろうか。僕はそう思って手に取って、何となく中を確かめた。
僕は眼を丸くした。
それはあまりにも粗雑に入っていた。
僕はそれに昏いので、それが何処の国のものであるか、どんな種類のものであるかわからなかったが、ひとつ確かなのは、それがどういう用途であるかということだ。
それは見た目以上に重く、冷たかった。僕の手は無意識に震え出していた。それの用途を知っているから。
どうして電車内にこんなものが……忘れ物だとしても異常な物品である。僕はこれをどうするべきなのだろうか。
駅員に渡す?
見なかった振りをする?
そのまま持ち帰る?
僕は悩んだ。あまりにも異常な状況に頭が混乱していた。僕は疑われたくない。僕は、僕は、これを、どうすれば、いいのだろうか。
冷静になるべきだと思った。深呼吸の重要性を今更ながらに知った。心音と手の震えが落ち着いてきたから、僕は自分の手にあるものをまじまじと眺めた。フィクションの世界の代物……そうだとしか思えなかった。現実から眼を逸らすしかなかった。
心に少しばかりの余裕ができて、僕はそれを弄んだ。
少しおかしかったのかもしれない。
止めておけばよかったのかもしれない。
けれど、狂気というのはそうさせないから狂気なのだろう。
次第に僕の心の悪い要素が膨れ上がった。これを「傲慢」と呼ぶのだろうか。僕にはわからない。しかし、これが僕を滅ぼし得ることは簡単に理解できた。あまりにも暴力的で短絡的だ。
電車が減速し始めて、駅が近いことを教えてくれた。僕の傲慢は依然として焼いた餅のように膨れていた。
電車がゆっくりと停車し、扉が開いた。そこで誰かが乗車する足音を聞いて、僕の傲慢は瞬時に縮まり、心が焦り始めた。
これを持っていたら、僕はどうなるのだろう。
再びの混乱の末、乗客の顔が見えた段階で、僕は僕の頭を撃ち抜いたのだった。派手に脳漿が噴き出て、何もかもが遠退いていった。




