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蠢く夢の中

 私は囚われている。

 この深く悪臭のする夢に。

 私は地面深く刺さった杭に磔にされている。杭は歪な十字架のようで、振動で波打つ金属により構成されている。

 十字架が立っているのは祭壇の上のようで、ここからは様々なものが観察できた。眼下で蠢く奇怪なものどもの姿が、それらが広場を埋め尽くす様が、視力が強化されたのか、厭に鮮明に見えるのだ。

 すぐ下を見ると、司祭らしきものが祈りを捧げていた。そいつは不釣り合いな白い天鵞絨(ベルベット)を纏って一見すると上品に思えるが、祈る手の不定形で時折何かが滴る様を見れば、価値観は一変する。手の色は黒っぽい紫で、それは広場を埋め尽くす蠢くものどもと同じであった。

 私は身体を捩って、もっと詳細を観察しようとした。常に恐怖の感情が頭を駆け巡っていたが、何かを見つけないと状況は打破できそうにないことはわかっていた。

 まずは司祭だ。そいつの祈り、何かを滴らせている前には籠があり、何やら青白い植物が盛られていた。植物は等間隔で発光するのだが、その発光の度に司祭の手から液体が滴っていることがわかった。

 司祭の顔がどうやっても見えなかったので、私は少し無理をして、身体を激しく揺らし、捕縛から脱する動きを見せた。

 司祭は私の動きに気付くと、少しだけ顔に当たる部分をこちらに向けたが、あの白い天鵞絨の下に黒い布があり、顔は隠されていた。わかることは、火傷をしたような爛れが顔全体にあるということだけだった。それは手にも同じことが言えるので、恐らくは全身がそうなのだろう。

 次に広場に視線を遣った。

 広場を埋め尽くすものの姿は巨大な菌類のようだ。それらの皮膚は明らかに湿っていて、その下では何かが蠢いて波打っている。爛れたような頭部には、左右で位置も大きさも不揃いの眼が爛々と光っている。魚の眼に似ているが、その鈍い輝きは異常なものだった。

 時折、連中は口を開くが、そこには外部とは打って変わって、石英のような歯が整然と並んでいた。連中は儀式的に歯をカチカチと鳴らすので、祭壇の上の私にまで聞こえた。歯の向こうに舌のような器官が見えるが、私には舌だとは思えなかった。

 私は視点を全体に切り換えた。広場の向こうを見ると、果てしなく続く道があり、そこも連中によって埋め尽くされていた。視力が強化されているが故に、果てしなく遠いところの蠢きが鮮やかに確認できた。

 途方もない数の異形を診て、吐き気を催したが、何とか耐えた。何が連中を刺激するかわかったものではないからだ。

 不意に、司祭が祈りを止め、広場のものどもと同じように歯を鳴らし始めた。それに伴って連中の蠢きは最高潮になり、熱を帯びて融合していくように思えた。いや、事実、連中は融合した。無数の眼と口を持つ巨大な爛れた塊になっていく様は記憶から消せはしない。

 司祭が黒い布を取り払い、その顔を見せた。

 それは連中よりも酷く崩壊していた。しかし、その中に何かの俤を見ることができた。認識すればするほど形ができて、その顔の要素に私の友人の顔があることがわかった。

 そして、その崩れた顔が口を開き、連中とは激しく異なる、無秩序に生えた歯を見せた瞬間に私の意識は暗転し、眼を開けると、雨降りの朝だった。冷えた朝だったが、私は少し汗をかいていた。携帯電話のアラームが鳴る十五分前だった。

 私は考えた。

 どうして友人の顔をした化物が夢に出たのか。

 しかし、私は気が付いたことがある。

 その顔は確かに友人のものであるが、私の記憶の中で、その友人の存在を把握できていないのだ。

 つまり、友人は現実のものではない。

 何処から来た友人なのだろう。

 夢世界の友人か。

 私は身体を起こして、ベッドから降り、雨の降り頻る外を眺めて、今日の夢が何を暗示しているのか考えた。きっと未来の、今から出会う筈の人間を示してくれたのだろうが、そいつが私に何らかの害を及ぼすということなのだろうか。ただ、未来について考えるのは不毛なので、私は忘れることにして、もう一度眠った。

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