表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/47

テイア

宇宙の片隅でひっそりずっと。

 長い長い時が過ぎた。あの数百光年先の青い星が輝いていた時も、衰えて砕けた時も、そして、何もなくなった今も、僕らは見ているのだから。この遥かな狭い宇宙に浮かぶ観測船テイアで。

 テイアは遥かな昔に僕らを乗せて、今は存在すらしない青い星、古い文献の名前で「テラ」と言う星から飛び立った。

 テイアの形状は後期のテラでも奇妙なもので、古い文献によれば、「気球」という乗り物をモチーフにしているらしい。本来は空気の力を借りて動くらしいが、テイアの動力はエーテルである。空気で動くなんて、やはり、古き時代の乗り物だと思わせる。

「あ」

「どうしたの?」

「見てよ。D―7が砕けそう」

「もう? まだ早いよ。D―7が生まれてまだ五千フェーズも経ってないのに。エスキー、君の見間違いじゃないの?」

「そう言うなら見てみなよ。イドにはわからないかもだけど」

 僕はイドに望遠鏡を譲った。彼はすぐに「本当だ」と呟いた。D―7が死にそうであることは明白だった。観測機器が示すエーテル濃度は二百、旧エア濃度はゼロ。旧エア濃度は別にいいとして、エーテル濃度が五百を下回っているのは由々しき事態なのだ。

「どうしよう?」

「どうしようもないよ。僕らが何をしたってD―7の死は避けられないんだから。星だって命があって終わりがあるんだし」

「でも……」

「何かしたら変わる? だったら、テラは今でもあった?」

「変わらない」

「そう。変わらない」

 イドは僕の肩を軽く叩いて言った。

 僕は遥かな古き星、テラのことを想起した。青き星から純粋な大気が枯渇し、かつていた「人間」は代用として、テラには存在しなかった輝く気体エーテルを大量生成し、星全体に発生装置を設置した。暫くの間はそれで上手くいった。でも、やがて、エーテルが人間には早い代物だったことが判明した。「CA」という病気の発生率が八割近く上昇したのだ。研究者たちは僕らにエーテルではなく、馴染み深い「O」や「N」のある星を探すように言った。だから、僕たちは青のテラから飛び立ち、こうしてテイアで観測している。

「もうみんないないんだよね?」

「いないね」

「僕らは何のために探してるのかな?」

「わからない。もう意味なんてないよ。さて、そろそろ次の星に行こう。エーテルを補充しないとテイアも僕らも動かなくなる」

「ねぇ、イド」

「何?」

「まだ動かさないとダメ?」

「……エスキー」

「僕たちに終わりはないって人間は言ってたけど、僕は知ってるんだ。終わりがないことほど苦しいことはないって。ねぇ、イド。君が良ければ、このままでいようよ」

「……」

「ね?」

「……仕方ないね。わかった。付き合うよ。D―7が死ぬ頃にエーテルも切れる筈。そこから先はどうなるかわからないね。僕たちは人間ではない、先を想像するのが下手な作り物なんだからさ」

「そうだね。でも、わかるよ。どうなっても後悔はしないことだけね」

 ……。

 ……。

 宇宙の片隅、かつてテラがあった場所から四百二十光年。ひとつの奇怪な宇宙船テイアは船員イドとエスキーを乗せて信号を絶った。今は何処にも行けず、ただ、ひたすらに宇宙の海で彷徨っているのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ