テイア
宇宙の片隅でひっそりずっと。
長い長い時が過ぎた。あの数百光年先の青い星が輝いていた時も、衰えて砕けた時も、そして、何もなくなった今も、僕らは見ているのだから。この遥かな狭い宇宙に浮かぶ観測船テイアで。
テイアは遥かな昔に僕らを乗せて、今は存在すらしない青い星、古い文献の名前で「テラ」と言う星から飛び立った。
テイアの形状は後期のテラでも奇妙なもので、古い文献によれば、「気球」という乗り物をモチーフにしているらしい。本来は空気の力を借りて動くらしいが、テイアの動力はエーテルである。空気で動くなんて、やはり、古き時代の乗り物だと思わせる。
「あ」
「どうしたの?」
「見てよ。D―7が砕けそう」
「もう? まだ早いよ。D―7が生まれてまだ五千フェーズも経ってないのに。エスキー、君の見間違いじゃないの?」
「そう言うなら見てみなよ。イドにはわからないかもだけど」
僕はイドに望遠鏡を譲った。彼はすぐに「本当だ」と呟いた。D―7が死にそうであることは明白だった。観測機器が示すエーテル濃度は二百、旧エア濃度はゼロ。旧エア濃度は別にいいとして、エーテル濃度が五百を下回っているのは由々しき事態なのだ。
「どうしよう?」
「どうしようもないよ。僕らが何をしたってD―7の死は避けられないんだから。星だって命があって終わりがあるんだし」
「でも……」
「何かしたら変わる? だったら、テラは今でもあった?」
「変わらない」
「そう。変わらない」
イドは僕の肩を軽く叩いて言った。
僕は遥かな古き星、テラのことを想起した。青き星から純粋な大気が枯渇し、かつていた「人間」は代用として、テラには存在しなかった輝く気体エーテルを大量生成し、星全体に発生装置を設置した。暫くの間はそれで上手くいった。でも、やがて、エーテルが人間には早い代物だったことが判明した。「CA」という病気の発生率が八割近く上昇したのだ。研究者たちは僕らにエーテルではなく、馴染み深い「O」や「N」のある星を探すように言った。だから、僕たちは青のテラから飛び立ち、こうしてテイアで観測している。
「もうみんないないんだよね?」
「いないね」
「僕らは何のために探してるのかな?」
「わからない。もう意味なんてないよ。さて、そろそろ次の星に行こう。エーテルを補充しないとテイアも僕らも動かなくなる」
「ねぇ、イド」
「何?」
「まだ動かさないとダメ?」
「……エスキー」
「僕たちに終わりはないって人間は言ってたけど、僕は知ってるんだ。終わりがないことほど苦しいことはないって。ねぇ、イド。君が良ければ、このままでいようよ」
「……」
「ね?」
「……仕方ないね。わかった。付き合うよ。D―7が死ぬ頃にエーテルも切れる筈。そこから先はどうなるかわからないね。僕たちは人間ではない、先を想像するのが下手な作り物なんだからさ」
「そうだね。でも、わかるよ。どうなっても後悔はしないことだけね」
……。
……。
宇宙の片隅、かつてテラがあった場所から四百二十光年。ひとつの奇怪な宇宙船テイアは船員イドとエスキーを乗せて信号を絶った。今は何処にも行けず、ただ、ひたすらに宇宙の海で彷徨っているのだろう。




