内側の世界より
あるチープな都市伝説が学生の間で流行っていました。
昨今の学生たちの間で真しやかに囁かれていることがある。それはコックリさんと通信したり、エレベーターで異世界に行ったりするのと同じように信憑性などなく、また、由来も判然としなかった。
その噂というのは「内側の世界」という奇怪な概念である。誰が提唱し、どうやって伝播したのか知らないが、何故か明確な方法が伝えられており、それが地域で異ならないというのも奇妙な点であった。しかし、その方法というのがあまりに突飛で現実味のない話であるから、実行に移した者の話は聞いたことがなかった。
方法について、およそ実行し難い箇所を抜き取ると、まず「処女の爪」が必要とのことだった。次に「死者の皮膚」が必要であり、このふたつに加えて香辛料や「子供の毛髪」など、普通に入手可能な材料を揃えて、袋に詰めて、夜に眠ればいいのだ。学生が断念するのは、勿論、最初のふたつであるが、ある時、精神病院に現れた学生は、それらを揃えて「内側」を巡ってきたと言った。とても信じ難いが「内側」の産物を持っていた。取り敢えず、医者たちは話を聞くことにした。
学生は酷く窶れていて、今にも倒れそうだった。神経が衰弱しているのは見るまでもなかった。
「……おれは冗談だと思ってたんだ」
学生はそう語り出した。
「爪は妹に貰って、皮膚は亡くなった隣家のじいさんから拝借したんだ。で、それを袋に入れて、眠った。そしたら、夢を見た。最初、夢だってわからないくらいにリアルで気持ちの悪い景色だった。ベースは現実と同じ筈なのに、そこは酷く曲がっていて、屋根のあるものは逆さに、全ての色は補色になってた。音は気味が悪いくらいに澄んでいて、遠くの音もよく聞こえた。広さは半径五百メートルくらいだと思う。端には行けてないけど、多分、壁がある。その壁が時々波紋を作って、そうなると化物が出てくるんだ。あの化物が……」
学生はそこまで語って身を震わせた。
「それはバカみたいにデカい。四足歩行、いや、あの腐った不揃いなものは足には見えなかった……。首から上は靄みたいなので隠れてたわからないけれど、絶えず赤褐色の粘性のある液体が零れ落ちていたんだ。それが腐ったような臭いを放つから、そいつが近付いていることはすぐにわかった。皮膚は蛞蝓みたいにぬらぬらしていて、鰓みたいな隙間がたくさんある。そこから、細かい骨みたいな白い粒が無数に見える……今思えば、あれは歯だったのかもしれない。そいつが通った後、曲がってた景色はさらに悪化して、もう渦のようだったんだけど、おれはそこでこいつを見つけたんだ……」
学生はそう言うと、持っていた袋から白っぽい塊を取り出した。少し変色していて、表面が擦られたように歪んでいる。
「化物はエリアを一通り徘徊してから消える。それが何度も起きる……。あいつらはおれの位置を知ってたんだよ。だって、後半の化物の移動ルートは、確実におれが通った後をなぞっているんだから……。どうやって抜け出したかはわからない。気付いたら朝になってた」
学生が持ち帰った奇妙な白い塊を調べると、気味の悪い事実がわかった。というのは、それの内側は人間の脳と、外側は人間の骨格と同じだった。そして、その骨格や脳のDNAは学生のものと一致したのだった。




