平坂くんの奇異な点
平坂くんは何処か変わってると思うのです。
隣の席の平坂くんは何処かおかしい。
彼は私と同じ文学部国文科に所属していて、何故かいつも私の隣に座っている。教室は広いのだから、何も私なんかの隣にいることはないのに、でも、隣にいるのだ。私としては別に気にはならない。ひとりぼっちには見えなくなるだろうから。
彼が講義の九十分間、ずっと起きているのを見たことがない。大抵は開始から二十五分程度で眠りの淵に沈んでいる。それなのに、テストの成績がいい。勉強もしてないのに、不思議だ。
彼は貧相な身体の割に体力がある。それはジムに通っているからというのと、バイト先が倉庫での肉体労働であるからだ。サークルの類いにも入らないで、脇目も振らずに働いているようだが、どんな夢を抱えているのだろうか。私には不思議で仕方ない。
彼は昼休みになると学食に我先に出向く。そこで必ずと言っていいほど、鯖の味噌煮定食を頼む。それは数量限定とかの類いではないので、急ぐ必要はないのだが、そこも不思議なところだ。早く食事を終えたとして何をするわけでもないのに。
彼が住んでいるのは大学から自転車で一時間近くも掛かる襤褸アパートの、一階にある陽の光の恩恵を受けられない部屋で、畳は腐っているように思われる。四畳間で、家賃は二万円ほどだ。
彼は帰宅の際に、アパートの近くのコンビニで夕食などを買って帰るのだが、コンビニからアパートまでは灯りが殆どなくて危ない道を通る。そこには不審者も度々出るらしいし、彼がどうしてこんな場所に住んでいるか、どうしてもわからない。
彼は夕食を食べると風呂に入ってから、暫く魂が抜けたようにテレビを眺めている。番組の種類は問わないらしく、点けた時に放映されているものを眺めているようだ。
テレビを消して、布団に入るけれど、電気はまだ消さない。思慮に耽っているのか、何もせず天井を眺めていることが多い。このまま朝まで起きていることも多い。だから、講義で眠っているのだろう。
朝になると、彼はアラームの音などもなしに眼を醒まして、すぐに着替えて家を出る。そして、大学に着く前に、ビル街にある小さな神社で手を合わせるのが習慣なのだ。
そして、大学に着いて以降は前述のループである。
私は平坂くんがどんな人かまだよく知らない。
もっと知りたい、彼のことを。
今度、機会さえあれば話し掛けてみようかな。




