飴玉ひとつ、のっこんで
飴玉、シュワシュワ、ワタシが殺した。
ワタシは人を殺した。それは嘘ではない。でも、嘘かもしれない。だから、何度も言う。ワタシは人を殺した、と。
ワタシは明瞭である。精神的にも肉体的にも欠損は確認できないのです。ほら、こんなにも満ち足りて、ワタシはワタシという培養液に浸かって構築と維持をしているのです。
ワタシが人を殺したという確たる証拠は、ワタシの横を見て欲しい。見て、この真っ赤な、今は黒に近いけれど、瘡蓋みたいなものに覆われた顔の女を。これはワタシの仕業に違いないのです。瘡蓋を剥がしてみましょうか? いいですよ。
えいやっと、ほら、真っ赤ですね。ワタシがやってしまったに違いがないのです。ワタシの手口に似ていますでしょう?
ワタシは明瞭である。精神的にも肉体的にも欠損は確認できないので、だから、ワタシが殺したと言えるの。見て、これの腹部を。抉ったような痕がありますが、ほら、こっちも見て、ワタシの右手、手首まで真っ赤。指輪の内側も真っ赤なんです。これを見ても、ワタシの仕業じゃないと考えているのですか?
あ、肝臓がない? 肝臓ってレバー? だったら、この口に広がっている気持ちの悪い苦味はそれの所為? ワタシ、食べてたんですね、ほら、だから、ワタシの仕業なんです。
見て、眼球がなくなっています。ワタシが潰したに違いありません。或いは食べたかもしれません。白玉に似ていますから、間違えたのでしょう。ワタシなら間違えますよ。歯だって、ホワイトチョコレートに似ていますから、ワタシなら間違えますよ。
親指が欠損している? 何処のです? ああ、右足の。だったら、ワタシが溶かしたに違いありません。ワタシが吸っていたのです。幼少期からの悪癖なんですが、許さなくてもいいですよ。
耳を見て。髪の毛が詰め込んでありますね。見て、ほら、この色! ワタシのですよ。どう見てもワタシなのです。ほら、引っ張って見せますね。ほらほら、この腐った古木みたいな色! ワタシのに違いありません。ワタシしか持ち得ない色なのですから、ワタシに間違いありません。
え、眼窩からメモ用紙が発見された? 見て下さい。それはワタシの筆跡ですね? ほら、その通り、この蚯蚓みたいに蠢く字はワタシの専売特許ですよ。書いてみせましょう! あ、でも、利き手が折れてしまっていますから、証明できません。だったら、左手です。血で汚れていますが、書けますから! 遠慮しないで!
心臓が動いている? え? そんなバカな? ワタシが殺ったのに、まだ動いているのですか? ワタシは息を確認したし、心臓だって確認したのです。ならば、何でしょう? 時限装置ですか? でも、まずは止めます。だから、ワタシを止めないで。
まだワタシを疑ってくれないんですか? どうして? どうして? ワタシが殺したのは明白でしょう? ほら、精神的にも肉体的にも欠損は確認できないのですから、殺すことだって不自然ではないのですよ。心臓だって止めたじゃないですか! それもあなたの前で! まだワタシが天の門を叩く権利を持っていると思うのなら、もうひとり殺します。
大腿骨に文字を入れたか? ああ、はい、勿論。書きました、書きました。蚯蚓みたいな文字で「飴玉ひとつ、のっこんで」って! カッターナイフでゴリゴリってやったのです。あなたは喉を見たでしょう?
何であの女は喉が平坦なんです? ワタシの喉は出っ張っているというのに! だから、飴玉を呑み込ませたのです。飴玉が彼女をワタシにしてくれると思ったのです。実際、そうなったでしょう?
飴玉ひとつ、のっこんで! 飴玉ひとつ、のっこんで! それでおしまいなのです。おしまいというからには、ワタシが殺したのです。ワタシをあの青白い丘の頂上にあるガジュマルの木の一番太い枝から吊るすのです。さすれば、ワタシは彼女になり、彼女は戻るのです。その時に、ひとつだけ、不要になるかもしれない、喉の飴玉が詰まったら逆戻りですから、そこは慎重に、確実に摘出すべきです。
ああ、晴れてワタシはワタシなのだ! そうでしょう?
え? 惨殺体は何処にもない?
それは、ワタシが食べたからでしょう? きっと、そうですよ。
え? 最初からなかった? そんなバカなことがありますか? ワタシはワタシになれないんですか? 折角、オレンジのシュワシュワする飴玉を選んでやったというのに? どうして? どうして?




