#8 星の国・首都ミーティア
竜車に揺られることおよそ2日、俺たちは星の国の首都、ミーティアに到着した。カイが門番達と何やらやり取りすると、通行を許可されたのか再び竜車が進み始める。
門を通ると、そこには見渡す限り巨木が立ち並び、それらをくり抜いて作られたらしい建物の数々が点在している光景が広がっていた。
巨木が密集しているからか、淡く光る木の葉で街に天井が出来ている。所々から日の明かりが差し込んでいることや、建物の明かりもあって、なんとも圧倒されるような独特の景観を作り出している。
「すげぇー、迫力あるなー」
「わあ……凄い!」
俺の隣でユートも目を輝かせて、羽根をパタパタと動かしている。
「わたしはとんぼ返りする形になったけど……悪くない光景でしょ、ここは。まあ案内くらいはしてあげられるよ」
とエステルが言ってくる。ここは一つ、お世話になろうか……。
「楽しみにしてるところ悪いが、まずはこいつらを突き出しに行くぞ。志郎は一応俺たちの協力者で、エステル達は被害者だからな。面を通させておかないとまずい」
どうもすぐにとはいかないようだ。仕方ない。
「そっか、ボクたちこれから事情聴取?とかされちゃうんだ。ドキドキ……」
「めんどくせー」
「ユートも俺も身分証明になるものが何もないけど、大丈夫かな……」
「ああ、そこら辺は俺らが何とかするから心配しないでいいぞ」
アストラル達にはお世話になりっぱなしだ。いつか借りを返せればいいんだけれども。
しばらく街中を進む。
街の作りは立体的で、建物同士が桟橋のような連絡通路で繋がれているところもあるし、建物の近くで上下の通路を行き来するエレベーターのようなものもあった(ガイドさんも居るようだ)。さすがに人口密度は日本の都市ほどではないが、首都らしくそれなりの人数が居るようだった。チラホラと、普通の人間とはちょっと違う姿をした人や、杖にローブといった魔術師のような格好をしている人、体の各所に防具を装備し獲物を腰にぶら下げた冒険者のような人も見受けられた。
そんな折、馬に跨った騎士達が竜車に横付けしてきた。鎧は夜空のような色で、所々が星のようにチラチラと光って見える。
カイが竜車を停止させると、先頭の騎士が兜のマスク部分を上げ、話しかけてきた。
「如月カイ殿、如月ミツキ殿、アストラル殿ですね。我々は星空騎士団の者です。私は星空騎士団第一分隊隊長のルキウスと申します。……そちらの方々は?」
「今回の件の協力者と被害者ですよ」
「分かりました。……今回捕縛した者たちの連行はこちらで引き継ぎます。あなた方は私とご同行願えますか」
「ああ。大分弱らせてはいるが全員生きているから気をつけてな」
「畏まりました。……だそうだから、お前たちはそのようにな」
ルキウスさんが部下たちに指示を飛ばすと、鉄檻の車両の連結を外し、複数の馬に引かせるよう準備を始めた。
竜車はルキウスさんの先導に従い、街の更に奥へと向かう。今回は騎士団と冒険者ギルドの共同作戦の為、騎士団本部での聴取となるのだという。
途轍もない大きさの大樹の根本に抱かれるように、星の国の城はあった。城も普通に大きいのだがそれを遥かに凌駕する大きさの大樹だった。遠目で見た時は遠近感が狂ったかと思った。
竜車はその脇にある白い建物……星空騎士団本部に停車した。
騎士団本部では騎士団長や冒険者ギルドの責任者たちが奴隷狩りグループ撲滅作戦の会議を続けており、彼らに対して、奴隷狩りの実行部隊を捕縛した一連の流れをカイ達が説明した。
あちこちからチラチラと視線を感じたが、俺やユートがどこからともなく現れた"放浪者"であることも説明され、思いのほかすんなりと通された。
後で説明されたところ、アストラルは国を超えて"放浪者の身柄を保護・保証する権限"を持つ立場であるのだそうだ。なんというか……俺たちはラッキーだったんだろうな。
想定外とはいえ協力者となった俺や、直接作戦に参加したわけではないが、事件に巻き込まれながらも無力な放浪者の身柄を守ろうとしたエステルにも、謝礼に近い形で冒険者ギルドから幾分かの報酬が支払われるらしい。
聴取を終えた俺たちは冒険者ギルドへと向かった。街の地上部に作られた冒険者ギルドには思ったより人がおらず、まばらに人がいる程度だった。例の作戦で人員が駆り出されているためだろうか。
眺めたところ、あちこちの壁に張り紙が貼られている。中にはモンスターらしき生物の絵が描かれたものもある。依頼書だとかモンスター情報だとかの類なんだろうか。先日戦ったダブレッグもその中の一枚に描かれていた。
受付に向かうと、メガネを掛けたクールそうな兎耳のお姉さんが居て、こちらを見るとにっこりと微笑んだ。……俺やユートの方を特に見ている感じがした。まあ服装が明らかに合ってないからな……。
カイ達が金属製の認識票のような何かを見せた。身分証とか、冒険者証とか、そんな感じのものだろうか。
「如月カイだ。既に話が行ってると思うが、例の作戦の報酬を受け取りに来た」
「はい、カイ様にミツキ様、アストラル様に、エステル様ですね」
「それとこいつが今回協力者になった志郎だ」
「……はい、かしこまりました。少々お待ち下さい」
そう言って受付のお姉さんが受付の奥の方へと向かう。しばらくすると、幾つかの袋を持って戻ってきた。
「こちらが今回の報酬になります。カイ様、ミツキ様、アストラル様は金貨10枚、エステル様、志郎様は金貨1枚と銀貨50枚になります。ご査収ください」
エステルに聞くと金貨1枚につき銀貨100枚のレートらしい。でもこっちでの相場がよくわからないんだよな……。
少ししてカイ達が確認を終え、俺も少し手間取ったが確認を終え、袋を受け取った。
「じゃあ、ユート。あんたにはこれを渡しとくから」
「ああ、俺からも渡しとくよ」
エステルと俺で銀貨50枚ずつを袋に入れ、ユートに渡した。ユート用のお金を何とか工面しようと、あらかじめエステルとこっそり話し合って決めていたのだ。
「え、いいの? ボク、何もできてないよ……?」
「いいからいいから。お金が無いと色々困るだろ」
「そーそー。わたしはもう幾らか持ってるからそんなに困らないし」
「そうなんだ……ありがと! 大事にするね。……エステルちゃん、志郎兄ぃ。ボク、頑張るからね」
ふにゃっとユートが微笑む。受付のお姉さんやカイ達はそんな様子を微笑ましげに見つめていた。
「それと、こいつらに仮の冒険者証を発行してやってくれ。こっちももう連絡が行ってるか?」
「はい、既に発行済みです。志郎様にユート様ですね。こちらをどうぞ」
冒険者証! 仮とはいえワクワクしてきた。ユートもそわそわとして羽根を動かしている。
受付のお姉さんに渡されたのは、カイ達のそれと同じような、文字が刻まれた認識票だった。ただ、カイ達が金色、アストラルは白金色なのに対してこちらは金属光沢のない白色だ。
「こちらの冒険者証は、冒険者のランクに従って白・青・黒・銅・銀・金・白金と取り替えていく形になります。各冒険者ギルドでの身分証明にもなるので、無くさないようにご注意を」
「無くすと再発行の手続きとか料金とか色々面倒だから、しっかり管理しとけよ」
「「はーい!」」
あらためて、この世界における立ち位置を確立できたという事を想う。大事に扱おう……。それにしてもカイ達は金等級だったのか。道理で強いし顔が利いてるわけだ。アストラルがその上を行っているのには何も言うまい。何せ"星の人"なんて異名がついてるくらいだ。
街の地図が張られている掲示板の前で、これからの予定を話し合う。
「じゃあ、この後はここの宿屋"ステラ"で合流ってことで。俺たちはもう少しギルドで話をしていくから、エステルは志郎とユートに観光案内でもしていてくれ。あと2人の服も買っとくといいぞ」
「りょーかい。とりあえず適当にやっとくよ」
「ああ、服を買う時だけど大体銀貨50枚くらいを目安にするといいよ。それくらいなら多少無茶しても大丈夫な品質になってくるから」
「俺もドランを預けにいかにゃならん。他にもちょっと用事があるから、今日は戻らんぞ」
そういうわけで、カイ達とは一時別れることになった。ちなみに宿屋は一泊食事付きで銀貨1枚らしい。旅人でも切り詰めれば金貨1枚でおよそ80日くらいは暮らせるそうだ。そう考えると結構な大金を貰ったんだな……。
ユートがドランにバイバイと手を振っている。アストラルはそのまま走ってドランを先導していった……。
しかしユートの羽根は目立つな。翼人っていうのはそんなに居ないようで、獣人がちらほら見受けられるこの街の中でも翼人は見かけなかった。
そういえば背中どうなってんだろ。どう見ても"服をすり抜けて"生えてるんだけど、パタパタ動いてはいるし。
「ところでユート、その羽根ってどうなってるんだ? 服から直接出てるように見えるんだけど」
「ボクの羽根? よくわからないけど、出したりしまったりできるんだ。しまってから羽根を出せば着替える時も邪魔にならないみたい」
「へー、なんだか面白いことになってるんだな」
「翼人ってのは結構謎が多い種族だからね。まあそういうこともできるのかもね」
謎だ。まあ、今は疑問は置いといてこれからどこ行くか決めよう。
「じゃ、最初に服屋に寄るとして、どこ行こうかな……二人ともどこか行きたいとこある?」
「うーん……俺は土産物屋とかあったら行ってみたいかな」
旅の醍醐味と言ったら土産物だと個人的には思ってる。その地域に特に関係ないものも売られてたりするが……。
「ボクは本が買える場所がいいなー!」
「土産物屋に本屋ね。……本はちょっと高いし、かさばるよ」
「そうなんだ……」
「でも後で定住するんだから、家に置いておけばいいんじゃないか」
「あー、それもそうだね。でもここの本屋は世界でも有数の大きさだし、良さげな本を探すにしても時間かかるから、宿に寄ってからの方がいいかも」
「そっかー……じゃあ後で見に行こ?」
「うん。そのあと宿屋行って、それから余裕ありそうなら本屋に行こ。そういうことでいいかな志郎」
「俺は構わんぜ」
字は読めないんだけどな俺。まあ本屋の雰囲気だけ楽しむのも良いだろう。
■Tips
・冒険者ギルド
各国・各町にある冒険者や旅人たちのための組織。冒険者としての登録や相談を受け付けていたり、各種依頼の張り出しから周辺モンスターの情報や要注意情報の掲示まで様々なサポートをしている。