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#7 運命の出会い?

「俺は志郎。……単なる通りすがりの放浪者だ」

「そして俺がアストラル。単なる通りすがりの旅人さ」


 気がつくとアストラルが俺の肩から少女たちを覗いていた。いつの間に!


「冗談はさておき、俺達は元々この奴隷狩りどもをとっちめる目的でここに来た。今頃はこいつらの親玉やクライアントの方にもガサが入ってる……安心しな、君たちはちゃんと保護されるから」

「そう。わたしはエステル。……はー疲れた」

「あのっ、そのっ、ボクはユートピア……ユートです!」


 エステルは動くのもしんどいといった様子でため息を付き、ユートはキラキラとした目でこちらを見、羽根が感情に合わせているかのようにパタパタと動いている。

 アストラルがエステルの腕を診て、ため息混じりに呟いた。


「腕全体を使った魔剣形成か……しかも本来のキャパを超えた魔力を集中させたみたいだな。骨は無事みたいだが、無茶をする……。素手での魔剣形成と言ったらそれこそ柄を握り込むように剣全体を形成するのが安全策だぜ」


 アストラルの言葉に対し、エステルはムスッとした顔で返した。


「そんなことは解ってるよ。余裕が無いから確実な手段を取りたかっただけさ」

「まあ状況を見れば仕方ないか……ほれ、"魔術:ヒールライト"」


 アストラルが患部に向けて手をかざし、何事か呟く。するとアストラルの手から光が発し、患部を照らしていく。手と腕の傷が瞬く間に閉じていった。


「……今回の襲撃といい、この治りの早さといい……流石だね、"星の人"。噂には聞いてたけど」

「ん、俺のことを知っているのか」

「こんな無茶苦茶をするやつ他にいないと思うんだけど」

「星の人?」


 アストラルのこと……なのか? 何だか見かけによらない呼び名な気がする。


「このお節介焼きの異名だよ。吟遊詩人によると―――」

「あ、ボク絵本で見たよ! ずっと昔から、本当に苦しんで困ってる人の前には流れ星といっしょに"星の人"が現れて助けてくれるって! え、本物の星の人なの!? 凄いや! あとでサインください!」

「お、おう。後でな……」

「……ま、そーゆーことよ」


 ユートは意外と押しが強い性格のようだ。アストラルが押されているのは初めて見た。

 しかし言い伝えとは……それもずっと昔から? まるでお伽噺に出てくる正義の味方とかヒーローみたいだ。当のアストラル本人はどれくらい生きているのだろうか。


「なに、俺にできることをやってたら結果的にそうなっただけだ。それに……言い伝え通りに誰でも助けたり何でもできるって訳でもないさ」

「まーそうだろうね。だったら"魔王"や"勇者"なんて出現してないだろうし」

「魔王に……勇者!?」


 魔王ってあの魔王だろうか。魔族の王とか、世界の脅威としての。それに勇者って。


「なんだ、魔王のことも知らないの」

「ま、こいつはちょっと訳アリでね……魔王ってのは昔っから不定期的に現れる大きな脅威のことだ。実際のところ、世界の脅威になった、または高い可能性で成り得る存在って以外の定義は曖昧なんだが」

「ボク知ってるよ。前回の、50年前に現れた"魔王ゾンスネーゾ"は、悪い心を持ったとっても大きな黒い竜巻で、海の上にいる間に"風の勇者"さまの手でかき消されたんだって本で見た」

「そーそーそんな感じ。その風の勇者も職業船乗りだったっていうし。わたしは直接目にしたことはないけど、何が魔王や勇者になるかよくわからんのよ」

「200年前の"魔王ラーランナ"は少しは世界の脅威っぽいことやってたけど、アホだったから殆ど被害は出なかったんだよな。しかも自分に手傷を負わせた勇者を追っかけ回した挙げ句に結婚して魔王辞めたし。あん時は世界中でしばらく異種婚がブームになってたわ」

「……案外その事件もあんたがプロデュースしたんじゃないの"星の人"」

「さて、どうだかね。言ったろ、俺は自分にできることを気ままにやってるだけさ。……さて、これでもう大丈夫だろう。痛みはないか」

「ああ、大丈夫。ありがと」


 意思を持った竜巻に、勇者と結婚した魔王? この世界の魔王は随分とバリエーション豊かみたいだ。そしてそんな存在にこのアストラルが関わってないとは思えない……。いずれまた魔王も勇者もこの世界に顕れるのだろうか。




 エステルの手当が終わり、馬車の外に出て周囲を伺うと、カイとミツキが奴隷狩りのメンバー全員を纏めて縛り上げていた。人間がぎゅうぎゅう詰めになっている異様な光景だった。


「カイ、ミツキ。中に捕まってる子供が居たぞ。こっちの金髪の子がエステルで、黒髪の子がユートだ」

「お、出てきたか。どーも、俺は如月カイだ」

「僕は如月ミツキ。よろしくね、エステルちゃん」

「そう、あんたら如月家の連中なの。頭首候補がわざわざ冒険者やってるっていう」

「おや、知ってるのか。世直しってわけじゃないけど、まあ修行の旅って感じだ」

「僕らの家はその辺結構厳しいからね。色々やらされてて大変だよ」

「まー有名だからね。二十歳にも満たないのに金級やってるって」


 カイ達は頭首候補だったのか! それが修行のために冒険って……変わったところだな。いや、それともこの世界の常識だったりするんだろうか。スパルタではあるらしいけど。


 奴隷狩りのメンバーは大きな檻の車両に入れて、星の国の首都まで連行するのだという。荷馬車に詰め込まれていた品々も回収し(箒のような杖はエステルに返した)、竜車に積み込む。アストラルは後方で戦いの跡が刻まれた林道を魔術(だと思う)で修復していた。

 その時、ある奴隷狩りを見たエステルが奴隷狩り達の方向におもむろに走り出し、


「てめーっこのやろー、よくもガキんちょ呼ばわりしてくれたなばかやろー!死ねおらー!」

「ぐえー!」


 奴隷狩りの一人に見事なドロップキックを決めた。身体強化も決めていたのか、一緒に縛られていた周囲の男たちごと吹っ飛ぶ。更に追い打ちを加えようとするエステルにミツキが慌てて駆け寄り、引き止める。


「エステルちゃんステイ!ステイ!」

「はーっはーっわたしはいつでも冷静さ」

「もう、女の子なんだから乱暴な言葉づかいは駄目だよエステルちゃん!」

「しらねー」


 どこかズレた事を言うユート。そしてザックリと否定されて引っ込んでしまう。羽根がぺたんと垂れ下がっている。


「でもボクもボクっていうの変なのかな……私って言えなくもないけどなんだかボクって言っちゃうんだよね。志郎……さん?はどう思う?」

「いや、構わないと思うようん……」


 そう返すとたちまちユートはニコニコし始めた。なんだかこの少女たちはたくましいな…と思う俺であった。

 ドランはそんな様子を呆れたような目つきで眺め、欠伸をしていた。




 竜車に乗って星の国の首都"ミーティア"に向かう。道すがら、俺達のその後についての話をしていた。


「ユートも気がついたら知らない場所に居たってわけか」

「うん……元いた場所がどこにあるかもわからないし、旅をするにもこれからどうすればいいのか全然わからないの」


 俺と違ってユートの場合はこの世界の知識があるようだから、この世界の何処かには居たようだ。


「わたしは気ままに旅をしてるだけだから、元々根無し草さ」


 旅人のエステルと違い、ユートは俺と同じく迷子みたいなものだ。しかしエステルも特にどこに向かうという目的はないらしい。そんな2人に対して、カイが提案を持ちかける。


「2人とも行く当てがないなら、俺たちが今拠点にしてる町に来てみないか?」

「町ー? どこよ」

「星の国の港町……サンライズだ。そこに如月家所有の宿や空き家がある。その空き家に住民として来てみないか。志郎もそこで暮らす予定になってる」


 アストラルが言っていた孤児院みたいなものとはそれか。カイ曰く、何かしらの特別な事情で行く宛のない者たちが身を寄せられて、色々と学べたりする場所にしたいらしい。


「ふうん。わたしは一応旅人だけど、一所に留まらないって決めてるわけでもないし、どうしようかな……。しかし志郎と一緒か……うーん」


 少し含みのある言い方をされているが、年頃の女の子が出会って間もない男性と同居する、となればまあ躊躇や反対をするのも仕方ないだろう。


「……まあ、しばらく居着くのもいいかな。サンライズは居心地が良いって聞くし、魔法の修行もしたいし」

「ボクも冒険がしたいけど、やっぱりその前にいっぱい特訓をしなくちゃいけないって思うんだ……それにエステルちゃんや志郎さんがいれば、安心かな。えへへ」


 意外にもエステルはカイの案に同意したようだ。修行をしたいという言葉で、あの腕を血塗れにしていた時の光景を思い出す……当人にとっては生きるか死ぬかの瀬戸際の気分だったのだろうと、今になると思う。

 ユートはエステルと俺が居るのならそれでいいようだ。なんだかやけに懐かれてる気がする。


 ひとまずサンライズに居を構えつつ、それぞれ修行をしていくって感じになるのだろうか。その後は……。俺は将来どうするか。その答えは自分の中で決まっていた。


「俺も色々学んだら旅に出て、世界を見て回りたいな……。この森も綺麗だったし、世界にはもっと面白いものが沢山あるかもしれない」

「ボク、本で色々見たことあるよ志郎さん! 世界にはね、大昔に地下に作られた"夜の国"とか、水晶に覆われた"水晶渓谷"とか、とてもとても大きな"世界の果てを模した壁"とか、海のずっと向こうにあるっていう"封印された島"とか、聞いただけでワクワクするような場所がいっぱいあるの!」


 そう、世界各地を巡ってワクワクするような冒険の旅に出たいのだ、と元の世界でも思っていた気がする。ファンタジーな世界であれば尚更のことだ。危険は沢山あるだろうけど……それでも旅は憧れだ。


「じゃあパーティでも組んでみる? 一人旅に拘りがあるわけじゃないし、行けるところも増えるし」

「あ、賛成! ボクもエステルちゃんと志郎さんと一緒がいいなー!」


 これまたエステルから意外な提案が飛んできた。パーティか……3人でしばらく暮らす事を考えればその間にチームワークも出来てくるだろうし、悪い提案ではなかった。


「そうだな。何人かで旅するのも悪くないねー」


 何にせよこれから共同生活を送ることになるのだし、それがいいのかもしれない。……女の子2人と共同生活か……改めて考えると、ちょっと色々大変そうだ。


「えへへ、ボクたちこれから一緒に暮らすんだね。何だか兄妹ができたみたいで嬉しいな。志郎さん……志郎兄ぃって呼んでもいーい?」


 おいおいユートは気が早いな。……元の世界で兄と呼ばれた覚えはない。何だかくすぐったい呼び名だ。けど、悪くはないかな……。


「構わないよ。これからよろしく」

「うん、ありがと志郎兄ぃ」

(かわいい)


 ユートがふにゃりとした笑顔でこちらを見上げてくる。小動物的可愛さに思わず頬を緩めると、エステルがジト目でこちらを見てきた。いや、いつもジト目だが念入りにジロジロと見られている感じがする。


「へー。あんた、そういうのが趣味なわけ」

「趣味って何がだよ……」

「ユートに変なことしたらぶっ飛ばすから」

「いやいや、まさか」

「そう。ならいいけど。これからよろしく」


 夜露死苦とかそんな感じに聞こえるのは気のせいだろうか。

 カイ達が生暖かい視線を送ってくる……別にやましい気持ちだってわけじゃないんだからな。まったくもう!


 ところでアストラルはと言うと、捕らえた連中の見張りも兼ねたジョギングだと言い、竜車の間近を追走していた。1日中ぶっ通しで。……もう大抵のことでは驚かなくなってきたぞ。抵抗する気も失せるだろあんなの。

■Tips

・ユート(ユートピア)

 謎の翼人。外見年齢は18歳くらい。精神年齢は大分低め。一人称はボク/私。長い黒髪と白い翼、紫色の目を持つ。前髪は目にかからないくらい。ポニテにしていることが多い。羽根は収納可能。志郎とエステルに刷り込みめいた好意を抱いている。

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