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#33 ちょっとした依頼……のつもりが

「じゃ、今日は各自自由行動ということで。行くわよカイ!」

「わかったから引っ張るなって」


 朝食後、ツバキは開口一番にそう言い放つとカイを引っ張ってどこかに行ってしまった。

 自由行動と言われてもな……あ、冒険者ギルドに寄ってくの忘れてたからそっち行くか。


「ボクは今日はミツキさんに特訓させてもらうんだ!」

「私とクレスも側で色々やろうかしらねえ、うふふ」

「……」

「わたしは今日はやることあるから外には出ないよ」


 ユート達はそんな感じらしい。


「じゃあちょっくら冒険者ギルドでも見てくるかね……なんか簡単な依頼があったらこなして、できれば今日中には街に戻るようにするよ」

「うん、わかった。頑張ってね志郎兄ぃ!」




「おや、君は昨日の……」

「あ、店員さん」


 冒険者ギルドに入ると、昨日の店の店員さんがそこにいた。相変わらずの魔女格好だ。


「そういえば名乗ってなかったね。私はシエール。これでも一応銀級の冒険者さ」

「俺は志郎。青級をやってる」


 銀級か。かなり腕の立つ人だったらしい。見かけによらないというかなんというか。


「青級ねえ……君は依頼を探しに来たのかな」

「とりあえず日帰りで適当なものがあればと思ってね。あまり時間がかからないのがいいかな……」

「じゃあちょっとおねーさんに付き合ってみないかい。日帰りで最低でも銀貨10枚程のお得な依頼だよー、ちなみに依頼人は私ね」


 冒険者側が依頼をするというのもあるのか。護衛任務とか荷物運びとかだろうか。


「ちょっとマナキノコの群生地まで仕入れにね。護衛もそうだけど荷物運びに毎回難儀してね……ちょっかいかけてくるモンスターもいるもんでさ」

「なるほど、じゃあそれなりに働けるかな……馬用の荷車も引っ張れるぜ」

「おっ、さすが。じゃあよろしくね~」


 その後、ギルド側への依頼登録などを済ませ、街の外へと出た。




 そんなこんなで向かったのは、街からやや離れたところにある、鬱蒼とした森林だ。曰く、モンスターが多い代わりに素材の穴場でもあるらしい。森の入口辺りではそうでもなかったが、奥に進むとちらほらと怪しい気配が感じられるようになってきた。


「魔力の籠もった草木だとかは星の国が一番採りやすいんだけどね……この辺りは属性の偏ったものが取れるからまた別のものに使えるんだ」

「へえ……場所によって違うんだ。扱う側としては難儀しそうだな」

「そうなのよー、採れる場所によって用途が違ったりして。場所によっちゃ仕入れるだけでも骨が折れるんだわこれが。ま、大抵の場合は星の国で大量収穫されてるので充分なんだけどね」


 雑談しながらも周囲を警戒しながら森の奥へと進んでいくと、開けた場所に出た。小さな湖と、水色に淡く光るキノコの群生地が見える。


「あれよあれ。でも別モンが混ざってたりするから選別に集中したいんだ。一応結界貼っとくけど周囲の警戒をお願いね」

「了解ー」


 シエールはキノコを一つ一つ見ながら引っこ抜き、袋に入れていく。俺には同じようにしか見えない……キノコの扱いはこちらでも専門家が必要そうだ。




 しばらく見張りを続けていると、森の中から大きな猪が出てきて、湖で水を飲んでいた。魔猪か。結界のおかげでそうそう気付かれないはずだが、一応気をつけておく。

 だが、その時……


『グアァァァ!』


 空気を震わす咆哮と同時に巨大な何かが空から突っ込んできて、魔猪に食らいついた。あれは……竜!?


「……っ。シエール、あれは……」

「ワイバーンだね……この辺りでの遭遇報告は無かったはずだけど」


 ワイバーン。知性をほぼ持たない"野竜"と分類される竜の一種で、冒険者にとってはかなりの強敵だという。初日にアストラルから貰ったおにぎりに入ってたアレだが……実物の迫力は凄いな。

 魔猪をまるでキャラメルか何かのように咀嚼して丸ごと平らげてしまったワイバーンは、ゆっくりとこちらを向いた。気づかれてる……!?


「やべ、鼻の効くやつだな……逃げるよ志郎!」


 走り出そうとしたその瞬間、ワイバーンが雄叫びを上げ、突進してきた。速い……! 俺はともかくシエールが逃げ切れなさそうだ。

 シエールを守るように前に飛び出し、"魔力の腕"を生成して、その掌底を全力で鼻先にぶつける。


『グアッ?』


 鼻先を叩かれたワイバーンは一瞬だけ怯む。鼻先を掴んだまま奴の横に回り込むと、狙い通りこちらを優先して向きを変えてきた。


「ええい、無茶すんじゃないよ志郎!」

「こいつの足からは逃げ切れねえし、どっちみち飛ばれる前にやるしかないぞ!」

「わかってる……っての! 何とか時間稼ぎ頼むよ!」

「まーかせて!」


 大事なのは奴に負けないようなイメージだ。奴が完全にこちらを向く前に、両手を構える。巨大な"何か"をイメージする。ワイバーンの頭にかぶりつけるようなサイズと強度の……


「"ドラゴン・ヘッド"!」


 竜の頭をイメージした魔力の塊が、魔力の腕を飲み込んでいくように伝い、ワイバーンの頭を丸呑みにできるサイズのそれが食らいつく。


『グワッ、ギャアッ!?』


 ワイバーンは半ば半狂乱になりながら首を振り回す。こちらも負けじと魔力を注ぎ込む。竜の首を伝っていく魔力の奔流は、やがて竜の吐息を模した青白い火炎と化し、ワイバーンの鼻や目を徐々に焼いていく。


「うわ、すご……無茶苦茶やるねまったく。私もちょっと全力出しちゃおっかなっと……!」


 ワイバーンは"ドラゴン・ヘッド"を振り解き、たまらず飛び上がろうとするが、そこを見逃すシエールではなかった。


「"魔術:裁きの雷"!」


 シエールの持つ杖が閃光を発すると、雷撃がワイバーンの全身を打ち据えた。肉の焼ける臭いがする。ワイバーンは呻き声を上げて倒れ伏した。


「まだ油断しないでね……こいつら割としぶといからね」

「うん」


 まだ生きている。細心の注意を払いながら近づく。

 ……突然ワイバーンの首がこちらを向き、火炎を吐き出してきた! 反射的に魔力の障壁を展開する。しかし、結果的にはその必要はなかった。


「"魔法:息吹返し"!」


 シエールが展開した障壁が、火炎のブレスをそのままそっくり跳ね返したからだ。自らの炎に焼かれ、ワイバーンが悲鳴を上げる。

 その隙にさっさと仕留めるに限る……! 短刀を抜いてワイバーンの口元近くにまで近寄り、口内から脳天を串刺しにするように魔剣を伸ばした。


『ギアアッ……』


 硬い……が、口内から刺したのが功を奏したか、刃は通った。ワイバーンは今度こそ沈黙し動かなくなった。


「やったぜ臨時収入だいえーい!」

「いえー」


 シエールとハイタッチを交わす。ノリがいいなこの人。しかし臨時収入か。


「やっぱこいつの素材って高価なのか?」

「そりゃーね。ここまで丸ごと残せたなら金貨20枚は下らないよ!」


 わお、俺も小金持ちになれるな。いやもちろんユート達と分け合うけど。

 しかし今回はヤバかった。今になって冷や汗が出てくる。出会い頭にブレスを吐かれたり空中からの攻撃に徹されたら色々と危なかった……。


「ところで私はもうちょっとキノコ取るつもりだけど、後でこいつ引っ張っていける?」

「……頑張る」


 今の自分の出せる力って何馬力くらいあるんだろうなー、とワイバーンの死骸をズリズリと引き摺りながら思った。森の中じゃ木に引っかかることに思い至ったのは数秒後だった。

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