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#31 魔法使いの店

「よう、小耳に挟んだが何やら大変なことになってたみたいだな。王子様に勝負挑まれたって?」


 カイが戻ってきたと思ったら開口一番にそう言われた。情報が伝わるの早いな!


「あ、聞いてよー。こいつまた無茶したんだよーまったくハラハラしたわ」


 何食わぬ顔で見物していたエステルが言うか……と言いたいとこだが彼女は彼女で心配してくれていたのかもしれない。先日の一件での泣き顔を思い出してしまう。


「志郎兄ぃ、あまり無茶なことしちゃ駄目だよ! ボク、びっくりして飛び上がりそうになっちゃったんだから」


 ユートはむーっとした表情で見ている。ジト目だ。

 王子を無傷で済ませるために色々考えるのが面倒臭くなって、手っ取り早い手段を取ったことは否定できない。傷をわざと作るような真似はちょっとやりすぎだったかもしれない。


「まあ、うん。心配かけてごめん」


 謝ってはみたものの、ユートもエステルもジト目である。カイ達はまあいつも通りというか、微笑ましげに眺めていた……クレスはどっか別の方向を向いてたけど。


「そういえば公演の件はどうなったんだ?」

「ああ、それなら3日後に決まったぞ。今回は他にやることも特に無いんだよな……この辺はダンジョンみたいなのも無いし」

「ふうん。まあ後で冒険者ギルドにでも寄ってみるかな……」

「今回くらいはゆっくり過ごしてもいいと思うわよー?」

「そうね。あまり歌以外の事に集中しても鈍っちゃうわ……まあカイ達はいいんでしょうけれど」


 そんな話をしていると、エステルとユートがツンツンと脇腹を突いてきた。やめれ。


「その前にちょっと付き合ってくんない志郎。荷物持ちやって」

「おっかいもの~!」

「じゃあ志郎くんは2人の付き添いだね。後でここの噴水前で合流しよう。僕達は街を見がてら宿でも探してるよ」


 そんなわけでカイ達とはいったん別れ、ユートとエステルの買い物に付き合う事になった……。




 それにしても空気が涼やかで、心地良いなこの街は。各所の水路や噴水のおかげだろうか。


「こら、あんまりはしゃがない」

「えへへー」

「何がえへへじゃ頭パープリンめ」

「エステルちゃんひどくない!?」


 新しい街での買い物にきゃっきゃとはしゃぐユートと、引率役の先生のような状態になっているエステルが微笑ましい。いや先生はそんな毒舌は吐かないだろうしエステルの方がちっちゃいけど。

 ちなみに買い込んでいるのは主にユートが公演の際に着飾るというアクセサリだ。ツバキによれば、羽根があるとはいえ黒地に赤縁のローブだけでは歌い手としては地味だそうで、調達することになった。しかしユートのセンスに任せると飾り付けが孔雀のようになりそうだったので、選んでいるのはエステルと俺である。

 それも一通り終わると、エステルが何やら路地裏の方に入っていこうとした。


「どうしたんだ、エステル?」

「こっちの方にわたし向けの店の臭いがする」

「なんじゃそりゃ」

「ほれ、志郎も集中して魔力探知やってみ」


 むむ。魔力の流れを集中して感じ取ってみると……確かに路地裏の奥の方になんだか雑多な感じの魔力の発生源がある。


「多分魔道具やその素材扱ってる店だよ……わたし的にはそっちも行っときたいんだけど」

「じゃあ、ちょっと行ってみるかね」


 魔力の発生源に向かって裏路地を進む。やっぱりこういうところは治安が悪かったりするのかな……と思ったが、特に何事も無かった。顔を隠して歩いているのはちょくちょく見かけたが、ボロ布を纏っているというわけでもなく、浮浪者じみた人も居なかった。


「こういうところってちょっとドキドキするね……」


 ユートは羽根をしまって俺の背中にコソコソ隠れるようにして進んでいる。怖いのかなんなのか……。




 裏路地の奥の方に行くと、ドアにニンマリと笑う黒猫の看板が下げられた建物があった。エステルはノックもせずにドアを開けて入っていく。


「おや、いらっしゃい」


 カウンターの向こうには、三角帽子を被ったローブ姿の、いかにも魔法使いって感じの格好をした若い女性がいた。癖のない赤毛のストレートヘアが特徴的だ。店内には色々な品がごちゃごちゃに置かれている。水晶玉やら淡く光る粉の入った瓶やらなんかよくわからんオブジェやら……。魔女っぽい服や箒も飾ってある。大体の品からはやはり魔力が感じられる。


「街の外から来たお客さんなんて珍しいね。どんなものをご所望だい?」


 女性はカウンターの端からこちら側に出てきて、ニッと笑みを浮かべた。


「魔符に使う紙置いてない? あと各色のマナ草の染料。あ、ユートはじっとしててね。ここにあるの下手に触ると火傷するよ」

「それほど危険物は置いてないつもりだけどねえ。そいつらならあるよー。完成済みの符もあるけど自前で作るのかい」

「自分の魔法を込めておきたいからね」

「なるほど、君も魔法使いか! しかしこちらの魔術反射の札なんかも如何かな? 私の自信作なんだよー」

「むむ、反射の魔法……? またレア物だねそれは。まあ、とりあえずそれも何枚かちょーだい」

「はいはい。お値段はこちらになりまーす」

「……まあ値引きするほどの値段でもないか。それで買おう」

「毎度あり!」


 魔符とはエステル曰く魔法を簡易的に発動させる符だそうで……魔術が使えない人が使ったり、武器がなくても発動できるように仕込んでおいたり、装備自体を強化させるために仕込んでおくためのものらしい。いつぞやのお守りと同じようなものだ。

 ユートはあれこれ見ては興味深げにしていたが、小さな黒猫のヘアピンを見ると目を輝かせて店員の女性に声をかけた。


「あのっ、これってお幾らですか?」

「おやお嬢ちゃんお目が高い。うちの黒猫アクセサリは幸運の印だよー。まあ不運を気休め程度に祓うくらいの出来だけど。値段は銀貨1枚ね」

「買います!」


 ユートはユートで良い品を見つけられたようだ。

 ふと店員の女性と目が合うと、彼女は目を僅かに見開いてからこちらに近寄ってきた。


「ほーほーへーへー」

「な、なんだ?」

「ふーん……なかなかの規格外だねぇ君は。それに普通はそれだけ魔力持ってたらだいぶ漏れ出すよ」


 そしたら危うくうちの商品が誤作動を起こすところだった、と続けた。なんか危険物扱いされてないだろうか。


「よくよく見てみたらそっちのお嬢ちゃんも似たようなもんだし。なるほどなるほど……」


 ユートともども物凄くジロジロと見られてる……。ユートは俺の後ろに引っ込んでしまった。


「いやまあ取って食いやしないさ。なかなか興味深くてねえ。ま、いいもん見れたしここまでとしておこう」


 そう言うと店員さんはカウンターの方に戻っていった。……あ、そうだ。宣伝でもしておこう。


「そうそう、3日後に俺たちが護衛してるメンバーがこの街でライブやるんで、もしよければ見に来てくださいな。魔法使い的にも面白いものが見れるかと」

「お? いいよいいよー、盛り上がれるのは大歓迎よ」


 店員さんはニヤリと笑みを浮かべている。来てくれる可能性は高そうだ!


「またのご利用……するかどうかは知らんけどお待ちしておりまーす」


 ニヤリ顔の店員さんに見送られつつ店を出た。周囲はもう夕方だ。噴水前の方に急ぐとしよう。

■Tips

・黒猫魔法店

 水の国のラグーンで、魔女シエールが経営している魔具屋。品揃えはちょっとした小物から掘り出し物までその時によって様々。シエール本人が銀級の冒険者でもあるため、休業日も多い。そのため店が開いてる時に来れたら運が良いと言われている。

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