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#3 魔力使いの修行2

「夜も更けてきたが……明日になったら移動する予定だから、その前にもう少し教えるものがある……次は"魔力放出"だ」

「魔力放出……?」

「ああ。魔力を一瞬の内に放出させ、離れたところを攻撃したり、身体強化を更に促進させる技術だ。お前さんの場合、身体強化に付属させる方法は既にものにしてるようだから、遠距離攻撃……魔力弾の使い方を教える」


 ブーストをイメージした魔力の放出がそれだったらしい。魔力弾は……バトル漫画でよくあるような"気弾"的なものだろうか。


「まあまずは手本だ……ちょっと見てみろ」


 アストラルが指を鳴らすと、少し離れたところの地面に大きな岩の塊が生えてきた。アストラルは腕を伸ばし、掌を大岩に向けてかざす。すると……


「ふんっ!」


 アストラルの掌からバチバチと音がし、赤い魔力の奔流が放たれ、大岩を粉々に砕いた。……えっ、思ってるのと違う。弾じゃなくてビームだこれ!


「この場合は掌に集めた魔力を一気に放出させる感じだな……やってみてくれ」


 身体強化の際に使っていたブーストのイメージを掌に集中させて――放つ!


「おりゃあー!」


 轟、と青い色付きの風が吹いた。あれ?


「はは、最初はそんなもんだ。両手を使って、できる限り細く鋭く放つことをイメージしてみろ」

「うーん……わかった」


 両手を向かい合わせ、より細く、より鋭く束ねて―――より強く放つ!


「破ぁっ!」


 すると、掌から青い魔力の弾が迸り、岩に当たったが……着弾した箇所から魔力が散り、地面に落ちている小さな破片が風圧で転がっていくのが見えるだけだった。うーん、あまり威力が出ていないのか?


「上出来上出来。遠距離攻撃タイプの魔力放出は難易度高いからな。それこそ素直に魔術や魔法を使った方がいいんじゃないかって言われてるくらいだ」

「……それ覚える意味あったのか?」

「もちろん! 実際に他の魔術を覚えて使う時、魔力放出のイメージの流用で済む場合も割とあるんだぜ」

「なるほどなー」

「頑張れば岩だって砕けるようになるが……そこは日々精進あるのみさ」


 いずれ魔術を覚えることがあったら役に立つんだろうか。魔術と一口に言っても色々あるんだろうけど……。あ、そういえば。アストラルは"魔術や魔法"と言っていた。その2つには何か違いがあるってことだろうか。


「アストラル。"魔術"と"魔法"って何か違うのか?」

「お、いいところに気がついたな」

「やっぱり何か違いがあるのか」

「おう。"魔術"ってのは、体系付けられた学問に従った魔力の使い方だ。人間なら魔力さえあれば、方法を覚えれば誰だって使うことができる。対して"魔法"は魔術に似ているが、個人個人が持つ才覚による独自の使用方法だ……モンスターなんかは大体こっちだな。魔法を使いこなす人間のことを魔法使い……もうちょっと気取った言い方だとマジックユーザーと呼んだりもするぞ」


 マジックユーザー――個人の才覚による魔力の行使、か。魔力も何もない世界から来た俺に使える魔法なんてあるんだろうか? それに魔術も学問だと言うなら、まずは読み書きができることが大前提になるだろう。勉強、あまり好きじゃなかったけど、この世界の言語や魔術なら楽しんで覚えられるだろうか……。


「魔法を使える人間は希少でな……種族で言うと、エルフなんかがマジックユーザーの割合がやや多めと言われてるくらいだ」

「エルフも居るんだ……ドワーフとか獣人とかも居たり?」

「おう。ドワーフは"鉄の国"の住民が多いな。鍛冶や細工なんかが得意な技術屋連中だ。獣人も居るぞ。一口に獣人と言っても、狼人・猫人・兎人・翼人・竜人と様々さ……ま、人間とそれほど姿は変わらんがね」

「へえ。同じ人間同士仲良くしてるのかな……」

「昔は色々確執もあったが、まあ今はちょっとした喧嘩がたまに起こるくらいで平和なもんだ」

「ふうん、そりゃいいや。人種の違いでいちいち争い合ってる中に放り込まれるのは御免だし」

「ま、そのあたりはみんな頑張ったわけさ――いずれ機会があれば色々話してやるよ。ともかく、魔力使いとしての修行の仕方はこんなところだ。あと幾つか技があるが、それはおいおい教えていく」


 これを毎日繰り返すのか……今はいいけど、街に出たら特訓できる場所を見つけるのに苦労しそうだ。街中で身体強化パルクールだのビーム発射だのをやるわけにもいかないし。




 それにしても話し込んでいる内に眠気を感じてきた。欠伸を噛み殺す。


「おっと、そろそろ寝る時間かね。テントの中に使ってない寝袋があるから、それ使っていいぞー。汚れについては気にしなくてもいい」


 アストラルに連れられてテントの中を見てみると、アストラルのものらしき寝袋の奥に丸く畳まれた寝袋が置いてあった。


「アストラルは?」

「俺はそれほど眠らなくても大丈夫な身でね。寝ずの番くらいはできるさ」

「いいのか?」

「ははは、素人にやらせるよりは安全だよ。安心して眠ってくれ……色々あって疲れたろう?」


 そう言われるとドッと疲れが押し寄せてくる。考えてみれば食事以外休み無しだったし、本当に色々あったし。


「わかった、それじゃおやすみ……」


 寝袋に包まると、すぐに瞼が重くなり、何かを考える間もなく眠気が意識を包んでいった。







「知らない天井だ……」


 一度言ってみたかった。それはそうとして、やはり昨日の出来事は夢ではなかったらしい。これから、何もかもが新しい生活が始まるんだ……。そう考えると不安なようなワクワクするような。


「おう、起きたか」

「あ、おはようアストラル。おかげでよく眠れたよ」

「おう、おはよう。朝飯は昨日のと同じだが、構わないか?」


 もちろん、と答える。あのおにぎりは本当に美味しかったし、スープも上々の味だった。




 食事を終え、2人で手分けしてキャンプの後片付けをする。アストラルは荷物類を何か見えないどこかにしまっていた。……あれも魔術だろうか?


「さて、今日は知り合いと合流するから、少し走るぞ」


 早速身体強化の出番が来たらしい。常に魔力の循環を意識するのはまだ難しいが、集中しながら走るくらいのことはできそうだ。肉体の強化と、動体視力の強化のバランスを取るように気をつけないとな。


「森の中を突っ切るから、ちゃんとついてこいよー」

「ああ、わかった。頑張ってみる」


 そしてキャンプ場を後にし、出発した。邪魔な草木をギリギリで避けたり、踏み台にしたりしながら油断なく進んでいく。一歩間違えると衝突してしまいそうだ……。数分もすると集中が途切れてしまいそうなのを何とか持ちこたえさせながら、アストラルの後をついていく。遅れそうになるとちゃんとペースダウンしてくれるのがありがたい。


 そうして30分も走り続けたところだろうか。整備された林道に出る。そこには大きな鉄の檻のついた馬車と、二人の男性がいた。彼らがアストラルの言っていた"知り合い"だろうか。

■Tips

・魔力使い

 最も原始的な形で魔力を扱うものたち。魔術師にしろ魔法使いにしろ、まずはここから始まる。足がかり的な存在と認識されており、魔力使いとしての高等技術はそれほど重視されない場合が多い。

 魔力を飛ばして直接攻撃する魔力弾も高等技術の一つだが、消費する魔力に対して威力を出しにくいので、あまり使われない。

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