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#22 マナの大森林・モンスター退治とお泊り会


「頑張って、みんな! "魔術:ヒロイックフォース"!」

「志郎くん、そっちに2匹!」

「わかった!」


 地面を滑るように移動してくる1対の両腕……ダブハンドを魔剣で纏めて両断する。続けざまに、後続のダブレッグを蹴りつけて動きを止め、斬り裂く。

 周囲にはまだまだモンスターの気配がある……! 遠目にはこちらに歩いてくる巨木が見える。


「"魔術:グレートアクス"! ……どうだい、後退する?」


 ミツキは鋼糸で幾つもの魔法陣を構成し、そこから魔力の大斧を複数射出し、モンスターの一群を薙ぎ払う。


「まっさか!」

「そもそもこれじゃ逃げられないわねえ」


 ツバキが朱色の炎を纏った刀で焼き斬り、カエデさんが薙刀で斬り払い、クレスが斧で叩き割る。


「わたしらも負けてらんないね……"魔法:死の旋風"!」


 エステルの魔法が魔力の刃を帯びた暴風を生み出し、射線上のモンスターごと、こちらに歩いてきた巨木を散々に斬り裂いていく。

 よろめいた巨木に向かって、背部からの魔力放出ですっ飛んでいき、適当な切れ込みに向かってジャンプキックと同時に爆発を叩き込む。そして破砕した部位に魔剣を伸ばして串刺しにし、引き裂く。巨木は動きを止め、倒れ伏した。


「えいっ! このぉっ!」


 普段は後衛のユートも剣を抜いて戦いに参加している。黄昏色の剣気を纏わせ、ツタ人間など主に小さなモンスターを斬り倒していく。


 何故こんなモンスターハウスみたいな状況になっているかと言うと、以下のようなやり取りがあったからである。


『手頃な依頼なのはいいけど、相手が少なかったら修行にならなくないかしら?』

『じゃあ街や林道から十分に離れた場所で敵をおびき寄せよう。志郎くん魔力ダダ漏れにしてね』

『りょーかい』


 ……というわけで、森の奥地で、俺の放出した濃密な魔力に引き寄せられてきたモンスターの大群を処理しているのである。


「それにしてもとんでもない魔力量ねアンタっ、まさかこんなに来るとは思ってなかったわよ!」

「お褒めに預かりどーも! 自分でも驚きだよ!」


 話しながらも敵を処理する手は休めない。走るキノコの無駄に華麗な回し蹴りを左手でガッチリと受け止め、爆発で足を粉砕し、返しの魔剣で胴体を両断する。


「……俺達の護衛をやるだけのことは、あるな」


 クレスからも良い感じの反応が帰ってくる。照れるぜ。


「あーもう、面倒だな! 志郎、魔力思いっきり吸っていい!?」

「一気にやれるならやってくれ!」

「よし来た! "魔法:魔吸唱"!」


 エステルの魔法で、周囲に発散したものごと俺の魔力がどんどん吸い上げられていく。これはエステルの本気が見れるかもしれない。


「イーッヒッヒ纏めて消し飛べ! "魔法:天の光はすべて星"!」


 エステルを中心に眩く輝く光の柱が天に登っていったかと思うと、次の瞬間には無数の光の束が天空から降り注ぐ……!

 それらはモンスターだけを正確に撃ち貫いていき、数十を超える数のモンスターを纏めて撃ち倒した。


「あらあら、凄いわねこれ」

「……大魔術級の魔法を、周囲の魔力を吸うことで単独行使しているのか」

「エステルちゃんの魔法はやっぱり綺麗だねー」


 残ったのは大型のモンスター…歩く大木くらいだ。それらも大なり小なり傷を負っている。


「はー疲れた。わたしはガスっ欠だから後はお願い」

「志郎くんは?」

「俺はまだ行けるぜー」

「よし、じゃあやっちゃおう。"魔術:バスターソード"」

「"魔術:アイスランス"」

「……"魔術:ウインドブラスト"」


 1匹の歩く大木にミツキの魔法陣から放たれた魔力剣が、カエデさんの放った氷の槍が、クレスの放った風の弾丸が次々に撃ち込まれる。

 幾つもの魔術に同時に晒された歩く大木は全身をボロボロにされ、倒れ伏した。


 その間に俺は他の歩く大木に近づく。見上げるような大きさだが、さして障害にはならない。胴体部に跳んで取り付き、高出力の魔剣で輪切りにして斬り倒した。


「エステルのも凄かったけど、志郎の魔力量反則じゃない? あんだけ吸われた後で、なんで当たり前のように魔剣を展開してられるのよ……」


 そういうツバキは、炎を纏った刀で舞うように斬りつけ、歩く大木の足に深い切れ目を入れて転倒させている。

 俺は忘れがちだが、魔剣は本来とんでもなく魔力コストの悪い技術らしい。だからこそ魔剣使いは魔剣を極限まで薄く、しかも一瞬だけ展開することで魔力消費を抑えるのだという。なので俺は"魔剣使い"なんて名乗れる領域には辿り着いてないんだろう。




 そうして歩く大木をあらかた仕留め終えた時、地響きが走った。何事かと周囲を見ると、桁違いの大きさの巨木がこちらに歩いてきている……!


「あれは"歩く長老樹"だね。歩く大木の上位種だ」

「でっかいなー」

「頑丈さも比じゃないからちょっと手こずるかもね。……エステルちゃんも頑張ったことだし、僕もちょっと本気を見せようか」


 ミツキの本気…! 今までは見たことがない。ミツキが鋼糸を操ると、ミツキの前方に次々と多重の魔法陣を描く。


「これは……そうか、その方法があったかー」


 エステルが感心した顔をしている。ここからどうなるのだろう。

 最後にミツキが拳を突き出すと、その前に掌ほどのサイズの魔法陣が描かれる。そこに込められた魔力の濃密さに空気がビリビリと震えている。そして……


「"魔法:スピナルスパイラル・スピアーズ"!」


 拳から撃ち出された光線が、前方に多重展開された魔法陣の中央を通る度に輝きを増して収束し―――凄まじい光の奔流と化して歩く長老樹を打ち据えた!


 光線が止むと、胴体に大穴を穿たれた長老樹が見えた。だが、あれでも貫通には至ってないようだった。

 すると、ミツキは息つく間もなく、限界まで引き絞られた弓から放たれた矢のように長老樹の穴へと跳んでいき、取り付いた。目から赤い残光が迸ったように見えたのは気のせいだろうか。

 先程と同じような多重魔法陣を瞬時に展開し、手が赤く光り輝いていく。


「"魔法:螺旋拳グングニル"!」


 一瞬、何をしたのかわからなかった。気がついた時には、長老樹の胴体が爆砕され、真っ二つに割れて倒れていった。


 ……この人の魔力量も大概だと思ったが、それだけじゃない。恐らく前方に展開していたのは"増幅"の魔法陣だ。鋼糸で精細な魔法陣を描き、魔術を多重行使する技術、反動に耐えるための身体強化、そして純粋に撃ち出す魔力の多さ―――全てを噛み合わせた大技だ。これが、金級冒険者の本気か。


「志郎、感心してるとこ悪いけど多分あれ参考にならないよ」

「やっぱり?」

「あの武器と戦闘スタイルあっての技だし。真似できないね」

「相変わらず常識外れね、あの兄弟は」

「……そうだな」


 ツバキとクレスはどこか遠い目で呟いていた。ミツキがあそこまでやるとなるとカイの本気も気になる……あの人が魔術を使ったとこ見たことないからなあ。

 そうしているうちにミツキが大きな魔石を持って戻ってきた。


「さて、これからが大変だよ。できるだけ魔石を回収して持って帰らないとね」


 そう言われればそうだった。俺達は慌ててモンスターたちの残骸から魔石や使えそうな素材を回収していった。周囲に撒き散らした魔力はエステルが大魔法を使った時にあらかた吸い取ったようで、モンスターの増援はなかった。




 冒険者ギルドに戻る頃にはすっかり夕方になっていた。百に届くかもしれないモンスター達や長老樹の魔石と素材は、依頼達成報酬と合わせれば、7人で割ってもそれなりの値段になった。少なくともユートの剣の元は十分取れた。

 持ち込んだ素材の数からか、ちょっとした騒ぎになったのは余談である。


 その後はいったん竜車に戻る。カイは特に何事もなかった様子で待っていた。


「ふう、久々に疲れたわ。今日は宿を取ってゆっくり休みたいわね……この辺でお風呂付きの宿ってあったかしら」

「賛成。……したいところだけど、カイはどうすんのさ」

「俺は、まあ大丈夫だ。風呂付きの宿なら"ポーラスター"って宿があるぞ」

「わかったわ。あなた達はどうするの?」

「何なら兄さんと泊まってきたらどうだい。今夜は僕が荷物番をやるからさ」

「おっと、いいのか?」

「うん。他の皆も疲れたろうし、ちゃんとしたとこで泊まってきなよ」

「ありがとう、ミツキさん!」

「感謝ですわーほんと」


 いやほんとにね。


「うふふ、ミツキも良い手際ね……」


 何やらカエデさんが怪しい笑みをしている。




 そうして宿に泊まることになったのだが……カエデさんのゴリ押しで、部屋割りはカイとツバキ、俺とユートとエステル、カエデとクレスの組み合わせになった。どうしてこうなった。いや、元々はカイとツバキに、たまには許婚らしく一緒に居たらどうだという路線で進んでいたのだが、いつの間にかこんな事になっていた。カエデさん恐るべし。




 で、当たり前のように大サイズのベッド一つしかないわけですが。謀られた……!


「わーい、志郎兄ぃ一緒に寝よー!」


 待ってお風呂上がりでひっついて来ないで色々と意識しちゃうから。しかし無情にも突撃してくるユートを抱き止める羽目になったのであった。柔らかい感触といい匂いが……いやそうじゃなくて。


「俺は椅子で寝てもいいんだけど……エステル」


 というかむしろそうしたい。


「……」


 無言のまま凄いジト目で睨まれてる。こちらもじーっと注視せざるを得ない。怖いよー。何か言って。


「あのー、エステルさん……」

「……志郎も疲れたろうからベッドで寝ていいよ」

「いやいや、女の子1人だけ椅子で寝かすわけにはいかんて」

「むぅ……」


 エステルは頬を赤らめて俯いてしまった。あれ、何だかやけに可愛く感じてしまう自分がいる……。というか俺とユートが一緒に寝るのはいいのか。


「志郎兄ぃもエステルちゃんもまた一緒に寝ようよ。その方が暖かいよ?」


 だからシラフじゃ色々と意識しちゃうから危ないんだって。しかも今回は湯上がりの寝間着姿だし……。


「あーもう、わかったよ。一緒に寝よ」

「やったあ!」


 エステルから意外な言葉が飛んできた。そしてユートは小踊りながら喜んでいる。


「志郎兄ぃとエステルちゃんぎゅーっ!」

「「ぐえー」」


 ……エステルごと抱きしめられてベッドに突入させられた。この娘はこういう無駄なところで一番のパワフルさを発揮しよる。そして案の定腕にひっついてきた。

 同時に、何故かエステルも腕を絡ませてきた。ええ……?


(あん時は無駄にドギマギさせられたからなー、あんたもシラフであの時のわたしの気分を味わうがいいさ!)


 なんて事を顔を真っ赤にしながら小声で言ってきた。くそっこいつ完全に開き直ったな! 今晩は眠れるだろうか……。







 志郎とエステルが心拍数を上げつつ無駄に張り合っている頃、カイとツバキの部屋では似たようなやり取りをしていた。


「えーと、俺が椅子の方で寝ようか、ツバキ?」


 許婚とは言え、部屋を共にしたこともないのだ。同衾するとなると、2人とも気恥ずかしさがあった。


「い、いいえ、いいのよ? ……添い寝するくらいなら。い、許婚だし……」


 ツバキがそう発言するに至るには、先日聞いたユート達の話が大いに影響していた。一見普通の友人関係に見える3人がしているのだから、ひょっとしたら、許婚同士なら同衾くらいはしてもおかしくない……いやむしろするべきではないのか? などと考えていた。完全に勢い余っている。


 しかし、そこで喜んで飛びつくほどカイも大胆ではいられなかった。どうしたものか、と天を仰ぐ。


(ミツキとカエデに嵌められたなこりゃあ……はあ、無下に扱うのも何だしな……)


 カイも、ひとまずの覚悟を決めることにした。


「わかった。……まあ、背中合わせで寝るくらいならいいんじゃないか?」

「そ、そうね……それがいいわ……」


 何だかんだでお互い好ましく思っているものの、どうにも素直になりきれない2人であった。







「ふふ、こうしてると小さい頃を思い出すわね……」

「……」


 カエデは微笑みながら、自分に背を向けて寝ているクレスを眺めている。


「あの頃はよく一緒に眠ったわ。ねえ、寂しんぼさん?」

「……"元"、と言ってもらいたいもんだがな」

「そうね……でも、私はいつでもいいのよ? あなたを受け入れるのは」

「悪いが、そのつもりにはなれない……」

「……仕方ないのかしら、ね」


 はあ、とカエデは溜息を付いた。幼い頃のようにするには、色々とありすぎた。カエデは自らの脇腹にある傷痕にそっと手を這わせた。


(カイや志郎達のついでに、折角だからこういう機会を作ってみたけれど……やっぱり駄目かしらね)


 目を伏せていると、やがてクレスが自分に向かい合っている事に気づいた。


「……"アンタがそうしたい"のであれば、受け入れてもいい。限度はあるがな」


 カエデは目を見開き、次に優しい笑みを浮かべた。


「もう、ずるいわよそういうのは。……でも、ありがとうね」


 そっとクレスの胸に手を置く。目を閉じると、自然と一筋の涙が流れていった。







(今頃うまいことやってるかなー、皆……)


 ミツキは竜車の中で1人、周囲に結界を張り巡らせつつも想いに耽ていた。


(兄さん達はああでもしないと進展しなさそうだし、カエデとクレスも……色々あったからなあ。志郎くん達はまあとばっちりを食う感じになっちゃっただろうけど)


 ミツキなりにそれぞれの組み合わせの仲を考えての采配だった。もっとも思った通りの組み合わせになるとは限らなかったが、そこはカエデが上手く調整するだろうと見込んでいた。


(まあ僕も人の事は言えないんだけどさ)


 アルテナに想いを馳せる。かつては、兄の補佐をすることに文句はなくとも、少し物足りなさを感じていた。そんなところに、魔術の師となった彼女の存在は、驚くほどすんなりと心に入ってきた。彼女が事実上不老の存在であることは解っている。それでも……と思うミツキだった。


(……お土産でも買っていこうかなあ)


 もっとも、ミツキはミツキで大胆なことはさっぱり考えられないのであった。







 こうしてそれぞれが想いを巡らせる中、夜は更けていった―――

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