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#21 ミーティア再び

「~♪」


 ユートがツバキの歌をハミングしている。どうやらお気に入りのようで、先日の1件以来、何度もリピートしている。


「ユートはその歌好きだねー」

「うん! 何だか聞いてると元気が出てくる気がするんだ!」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。……それにしても、あなたの声もなかなか綺麗ね」


 ツバキもユートのことを微笑ましげに見ている。声が綺麗なのには同意だ。もしかしたら歌ったら割といい線行くかもしれない。


 俺たちは星の国の首都ミーティアへ向けて出発し、マナの大森林を竜車で駆けているところだった。森の中ならともかく、林道ではモンスターとの遭遇機会もほぼないので平和なものだ。結界も張っているし。


 ちなみにカイ達と交代制で竜車の外を走ってたりする。一月前はかなりグロッキーになっていたが、今ではそこそこ余裕がある。……ツバキにはちょっと引かれた。ちなみにカエデは面白がってクレスにやらせようとしていた。スルーを決め込まれたが。


「レコードでもあれば買うんだがなあ」

「レコード? 何それ」

「あー、何と言えばいいかな……音を記録しておいて、専用の機器で再生できるものだよ。それで音楽聞いたりとかする」

「音を記録……? ふうん、面白い事を考えるのね」

「その手のよくわからん代物は"鉄の国"か"夜の国"に行けばあるかもよ。それか"世界の果てを模した壁"のある"果の国"とか」


 エステルが聞き慣れない地名を言う。鉄の国……いかにも技術が発展してそうな響きだが、はたして。夜の国はユートから聞いたことがある。確か、地下に作られた国だったっけか。むしろ技術がなければ成り立たなそうな立地だ。……"世界の果てを模した壁"や"果の国"についてはユートもよく知らないらしい。エステルによれば、壁から発掘される古代文明の遺産を扱っているのだとか。


「鉄の国ねえ。順番としては星の国から幾つか後になるのかしら。夜の国と果の国は予定にはなかったけど、ルートの近くにあったらちょっと寄ってみてもいいかもしれないわね」


 歌う場所が増えるのに越したことはないから、とツバキが言う。俺としても寄れる場所が増えるのは嬉しい。


「"水晶渓谷"とかには流石に行かないよな……」

「当たり前でしょ! あんな僻地行ったってモンスターくらいしか聞くの居ないわよ!」

「だよなあ」

「志郎兄ぃ、行ってみたいの?」

「まー、機会があったらな」

「水晶渓谷には竜の王様がいるって本に書いてあったよ!」


 さぞかし絶景なのだろう、と自分の中では期待度が高い場所だ。それにしても竜の王様とは。


「竜の王様、とは初耳ね……むむむ、うちの家としては挨拶でもしに行ったほうがいいのかしら……」

「家?」

「うちの家、始祖が龍と鬼だって伝承があるのよ……この金色の髪や朱色の瞳もそこから来るものだって言われてるわ」


 なんともまあ。しかしこの世界だと実際にそういう事があるのかも……竜人がいるってアストラルも言ってたしな。


「そうなんだ。ツバキさんの目と髪、綺麗でボクは好きだな」

「あ、ありがとう」

「あらまあ」


 ふにゃっとユートが微笑むと、ツバキは照れくさそうに顔を背けた。ユートには人たらしの才能があると思う。そんな様子を見てカエデさんは微笑んでいる。


「……モンスターどもも、歌でも聴かせたら大人しくなるかもしれないな」

「なるわけないでしょ!」

「あら珍しい。クレスが冗談を言ったわ。ふふふ」


 意外とノッてくるタイプなのかもしれない。


 道中では、リハーサルだと言って間近で演奏と歌を聴かせてくれた。竜車はしっかりとした作りでサスペンションのようなものも付いているため、振動はそこまでではないが、それでも走行中の車内で踊っていられるのは凄いな……。

 その他は、通りがかった走るキノコが竜車を必死に追いかけて力尽きてたりしたくらいで、特に何事もなくミーティアに到着する。



 巨大な木々も、光る葉の天蓋も久々に見る……いつ見てもいい光景だ。

 カイとツバキが代表として街中での公演の許可を貰いに行き、許可が認められるまでの間は、竜車で待機することになった。舞台セットを宿屋に持ち込むわけにもいかないからだ。幸い、馬車などの停留所で車内で寝泊まりしている集団は居るため、悪目立ちすることもない……と思う、多分。ドランの風貌はかなり目立っていそうだが。


「戻ったぞー」


 お、カイ達が戻ってきた。


「あと数日かかるみたいだから、それまでここで寝泊まりだな」

「折角だから冒険者ギルドの依頼でも受けてみようかしら。軽いモンスター退治とか」


 そういえばツバキも冒険者証を持っているのだろうか。


「私たちは、日の国で一応黒級までは取ってあるわ。音楽活動と平行するのが大変でそれ以上は取ってないけど」


 黒級かー。意外と冒険者歴が長いのだろうか。


「わ、じゃあボクたちよりも先輩さんなんだね!」

「あら、ユート達はどのランクなの?」

「わたしが黒で、志郎とユートは青級だよ。2人は実力はともかくまだ成り立てみたいなもんだから」


 エステルがそう言うとツバキ達は意外そうな顔をした。


「成り立てでもう青級なの? カイ達の教え方が良かったのかしら」

「そこはまあ、それなりに力を入れさせて頂きましたよ」

「一応義務でもあるからね、僕達の場合」


 組手とかさり気なく死にそうな目にあったけどな! カイも割と容赦ないんだけど、特にミツキの糸は実戦で使う鋼糸だったら何回バラバラにされていたか……ちょっとゾッとする目にあったりした。


「義務と言えばツバキも家から何か言われてるんだろ? おおかたギルド依頼の達成とか冒険者ランクの昇格とかだろうが」

「そうなのよねー……だから暇を見つけてこなして行きたくはあるのよ」

「荷物番は俺がするから、何か受けてみたらどうだ? あ、ミツキは付いてってくれ」

「そうね……じゃあ志郎達も宜しくね」

「了解ー」


 ということで、冒険者ギルドに出向く事になった。




「そうだね……ダブレッグやダブハンド、あと歩く巨木を少数狩る依頼があるから、それでいいんじゃないかな?」

「植物系なら私の出番ね!」


 聞いたところ、どうもツバキは炎系の魔法が得意らしい。


「……火事にはするなよ。万一オレの魔法で巻き込んだら延焼しかねないからな」

「わ、わかってるわよ! ちゃんと"火炎斬"くらいに留めておくから!」

「もし何かあっても私が消火してあげるから大丈夫よ~」


 カエデは氷結系や神聖系、クレスは風系が得意だという。なかなかバランスが取れた面子だ。


「そういえば、あなた達は何を使うの?」


 あ、俺達の戦い方は言ってなかった気がする。護衛としてどうなんだと思うが、ここまでがスムーズに行き過ぎてた。……護衛対象と共闘するってのは盲点だった。


「俺は、まあ主に短刀と"魔剣"や"魔力放出"系統だな。魔術は使えないけど魔剣や魔力の爆発とかがわりかし得意だ。一応弾丸を出したりもできるけど、大体は敵を引き寄せて接近戦してるな」

「わたしは大体の属性の魔法が使えるよ。……あまりやりたくないけど短剣使ったり魔剣もできる」

「ボクは中級くらいまでの神聖魔術が使えるよ! 刀剣も扱いたいんだけど、今は短杖です……ハイ」


 俺たちがそう言うと、ツバキやクレスはちょっと驚いた顔をしていた。


「え、魔術が使えないのに魔力を使った技術は得意ってわけ? そんなの聞いたことないわ……」

「……魔剣に加えてほぼ全属性の魔法を使える? 名が広まっていないのが不思議だな」

「あらあら、ユートちゃんとは被っちゃったわね。……神聖魔術を使いながら武器を扱うのも同じね。コツを教えてあげようかしら」

「え、是非お願いします!」


 ユートが羽根をパタパタしながら喜んでいる。護衛対象から教わる護衛役ってのもどうなんだろう。


「ユートの武器もいつか見繕いたいな……刀が使いたいんだっけ」

「あら、渋いわねー。刀はちょっと高価だから揃えられないのも仕方ないわね」

「私の武器のスペアを貸してあげる……って言いたいところだけど、普通の刀は壊れやすいのよね……」

「僕の実家に神聖魔術使うのに向いた宝刀があるとは聞いてるけど……流石に手が届かないね。まずは普通の剣で練習してみたらどうかな」

「うん…わかった」

「と言っても、実戦で使う機会なんかそうそうない気もするけどな。支援役だし」

「逆に言えば、緊急用に使えておいて損はないってことだよ。いつも全員揃っていられるわけでもないからね」

「それもそうか」




 モンスター狩りの前に武器屋によってみることにした。星の国は魔術関係のメッカであるためか、ここミーティアでは魔力に親和性の高い金属を使った武器も扱っているのだとか。


「ユートは模造刀は振り回せるくらいには身体強化できてるんだよな……重さはそんなに問題じゃないか」

「ボクは模造刀と同じくらいの長さのロングソードがいいかな……あ、これなんてどうかな!」


 そう言ってユートが指差したのは、羽根を象った意匠をした、一般的な長さ(多分)のロングソードだった。それを聞いて、店主が説明をしてくれた。


「そいつは魔金属……ミスリル製の剣だな。身体強化がどうのと言っていたが、まあ一般的な金属の剣を持てるなら充分扱えるはずだ……値段は銀貨48枚だ。どうする?」


 ちょっとかさむが買えない値段じゃあない、か……。


「じゃあわたしと志郎との3人で割り勘しようか」

「ああ、それがいいかな」

「え、いいの!?」

「俺は武器変える予定も今のところ無いからな」

「わたしも今の杖から変えるつもりないし。そのかわり、わたし達2人が何か必要になった時も割り勘ね」

「……ありがと! じゃあ、これでお願いします!」

「はいよ。……お嬢ちゃん、いい仲間を持ってるな。裏で試し振りもしていけ」


 武器屋の裏手は広場のようになっており、武器を振り回すだけのスペースがあった。

 剣を腰に差したユートの姿は、それなりに様になっていた。剣を引き抜くと、一通りの型で剣を振り、おっかなびっくりと鞘に収めた。……うん、最後以外は完璧だな!


「意外と様になってるな……しかし真剣を扱うのは初めてか」

「ああ、一応訓練だけはさせてたんだけどね。模造刀や訓練用に刃を潰した剣だったから」

「まあいいんじゃないかしら。振る時に躊躇してたらいけないけど、そんな事もなさそうだし」


 俺はそんなにユートの訓練を見ることはなかったが、なかなかどうして、上手くできているじゃないか。ユートの頭を撫でてやると、僅かに頬を染めてニコッとしてくれた。何だかエステルの視線を感じるので早々に済ませることにした。


「じゃあ、本番行ってみようか」


 向かうはマナの大森林の奥地だ。モンスターがどこに潜んでいるかわからないので、全方位に警戒を取りながら進むことにした。

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