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#18 アイドル護衛任務?

「わーい! えへへへへ」


 ユートが青い冒険者証を持って嬉しそうに小踊りしている。エステルはいつものようにジト目で呆れ顔だ。


「喜ぶのはいいけどさ、落とさないでよ」

「わかってるよう。エステルちゃんってば心配性なんだから」

「ユートだから心配なんだよー」

「むー」


 普段の子供っぽい様子を見ていると、放っておけないのはわからないでもない……が、実際のところ、ユートはそこまでうっかり屋ではなかったりする。むしろ色々と細かいところで気を利かせてくれていることが多い。エステルもそれは解っていると思うが……いつもユートの事を俺以上に気にかけてくれているからなあ。まるで保護者のようだが、実際そのつもりなのかもしれない。


「青級か……何か特典とかあるんだっけ?」

「基本的には、受けられる依頼が増えるくらいだね」

「ふーむ……次の依頼どんなのにしようかね」

「どっか遠くに行ってみたいなら、商隊の護衛とかが良いかもね」

「護衛かー。そっち系は緊張するな……防衛戦の経験ないし」

「今のうちにやっといて損はないよ。幸いユートのおかげで結界も張れるし」

「不安だったら俺たちの受ける依頼に付き合ってみるか?」


 あ、カイ達だ。戻ってきたようだ。


「おはよう、カイにミツキ。先日は色々と迷惑かけてごめん」

「いいよいいよ、まだ大人しい酔い方だったし」

「でも今度からは気を付けろよな」

「うん……酒弱いって知っておきながら飲んじゃったわたしも馬鹿だったよ」


 正直猛省している。幸い一線は越えなかったにしてもあれこれやっちゃったし。

 で、カイ達の受けた依頼ってなんだろう。


「日の国の龍月家って知ってるか?」

「あー、なんだっけ。龍姫様とかいう異名で、やたら人気な姫さんがいる。わたしは詳しいこと知らないけど」

「あ、ボクも聞いたことある」

「そうそう、それだよ。その龍姫が各地にツアーライブしに行くってんで、その護衛に俺達が指名されたわけだ」

「カイさん達に直々に? 高名になってくるとそう言う事もあるのか」

「まあその辺りは色々と事情があってね……ねえ、兄さん?」

「あー、まあうん」


 事情?なんだろう。まあ考えても仕方ないけど。それにしてもツアーライブて。


「ライブって、あの歌ったり踊ったりする」

「ああ。割とファンが多いんだぜ?」

「そういえば龍姫様グッズとかあったなー」


 旅館の売店で目にしたことがあった気がする。というかここ数日にわかに町が騒がしかったのだが、それだろうか。

 アイドル的存在がこの世界にも居るとは。


「彼女の歌や踊りは"魔法"の一種だ。もちろんどちらも素で上手いんだが、実際に元気になるからと言って、健康目的だの試し感覚だので見に来るやつは多い」

「ドサクサに紛れておイタをしようとする連中も居るからね。そういうのから守るのが僕達の役割さ」


 なるほど、そういう魔法もあるのか。しかしボディーガードの依頼か……


「それって、ボク達がついていってもいいのかな……?」

「冒険者としての信用性とか、そういうのが要るんじゃないか?」

「なーに、俺達直々に鍛えてるんだからそこら辺は太鼓判を押すぜ。それにギルドマスターからもいい評価を貰ってるらしいじゃないか」


 地味にプレッシャーをかけてくるカイ。確かにギルドマスターさんにはそれなりに認められてはいるけどな……。


「その護衛任務っていつからになるんだ?」

「龍姫が日の国からここに到着するのが3日後の朝だ。その日のうちに護衛の打ち合わせとライブをやって、その次の日には出発だ。荷物や食料なんかはこちらで見積もるから、そこは気にしなくて大丈夫だ」

「ちゃんと結界も張っていくから、モンスターの襲撃なんかはそんなに気にしないでいいよ。あ、結界の維持に関してはユートちゃんや志郎くんに手伝ってもらうかも」

「そういう事ならボク、頑張るからね!」

「俺が役に立つんならやったるぜ」

「わたしは特にやることなさそうだねー、いや楽ちん楽ちん」


 堂々とサボり宣言をするエステル。こいつもやる気があるんだかないんだか最近わからん。しかしそうは問屋が卸さなかったようで……


「あ、エステルちゃんには索敵やってもらうから。この前、探知魔術教えたでしょ? おさらいといこうか」

「ぐぬぬ」

「まあ、何にせよ色々な場所を巡りたいなら良い依頼だと思うよ」

「えへへ、楽しみだな……」




 その後、カイ達と共に冒険者ギルドに赴いた。何をするのかと思ったが、カイ達は俺たちを連れて行くことに関して、ギルドマスターの説得をしたいようだ。今回の依頼は日の国の冒険者ギルドに関わることで、この町のギルドは微妙に管轄外なのだという。


「こいつらも参加させるだって? うーむ……」

「まま、これも経験ってことで」

「しかしうちの管轄ではないとはいえ、重要人物の護衛任務だぞ。こいつらにはまだ荷が重いんじゃないか」


 ギルドマスターはさすがに難色を示している。自分でも思っていたが、俺たちはまだ経験が浅いからなあ。でもこの大陸の各地を巡れるとなれば、俺としては参加したいところだ。ユートやエステルも乗り気だし。それに、その龍姫さんの歌にも興味が無いこともないし……。


「俺らがリーダーとして指示を飛ばす形でやる。志郎達にゃ実際に動いてもらえればそれでいい」

「むむむ……逆に人数の方は大丈夫なんだろうな。商隊規模となれば十数人は要るぞ」

「そこまで規模は大きくないし、日の国からの護衛が居る……あとメンバー全員それなりに戦えるからな、あそこ」

「何? 話には聞いていたが……」

「当然回復薬や神聖魔術持ちも足りてる。そんなわけで移動中の戦力は申し分ないのさ。もちろん戦わないに越したことはないから俺たちが頑張るんだが……それとライブ中の警備係としてもあと数人が欲しいって話なんだとさ」

「ふーむ……」


 え、ユニットのメンバー全員戦えるのか。ユートが何故か目を輝かせている。


「熱狂するファンたちが押し寄せるのには、基本的には"プロテクトウォール"の魔法陣でどうにかしてるんだが……後は敵意を持った存在への索敵係が要る。なあエステル」

「全然聞いてなかった。まあやれって言われたからにはやるけど」

「そんなわけで、こいつら借りてくんでよろしく」

「はー……。おい志郎達、無事に帰ってこいよ。お前達にゃ期待してるんだからな」

「できる限り努力しますよー」

「頑張ります!」


 無論俺たちとしても五体満足で帰ってくる気満々だ。道中で非常事態が起きないことを祈りたい……まあそんなに上手くいくかは天の采配次第だが。




 そんなこんなで3日後、俺達は町の港で龍姫の船を待っていた。町の大広場を途中で通ったが、その付近には既に屋台が立ち並んでおり、大きな賑わいを見せていた。


「何の騒ぎだいこりゃあ」

「日の国から"龍姫様"が来て、広場で歌うんだと」

「歌ぁ?」

「いわゆる歌姫ってやつだな。なんでも日の国じゃえらい人気らしいぜ」

「ほー。俺らも聞いてみるかねえ……」


 漁師たちの間でも噂話は絶えないようだ。

 ふとカイを見てみると、何やら神妙な顔をしていた。ミツキにも見えていたようで、声をかけている。


「おや兄さん、少し緊張気味かい?」

「いや全然。……ってわけでもないか。今回は何言われることやら……」

「今回?」

「ああ、まあそれなりに顔合わせてる仲でなー。結構無茶なこと言い出したりするんだよあいつ」


 以前からの知り合いだったのか。しかも、龍姫の事をあいつ呼ばわりできるくらいの仲らしい。


「おっと、聞き捨てならないネタを耳にした気がするぞ」

「もしかしてスキャンダルネタだった?」

「いや、別にそういうわけでもないんだが……うーむ」


 カイが難しい表情をし始めた。色々と事情があるようだが……


「まあ兄さんには何となく照れ臭い話かもしれないからねー」

「おおっとこれは?」

「もしかして……ドキドキ」


 女子2人が何やらヒソヒソと話し合い始めた。こういう時は俺の入る隙間がなかなか無い。


「あー、まあとにかく話せる時に話すから今は勘弁してくれ」


 カイが折れた! 珍しいものを目にしたかもしれない。しかしこの話、俺にもある程度予想は付かないでもない。カイと龍姫は、恐らく浅からぬ仲なのだろう……。


 そんなやり取りをしているうち、船体の所々が朱色で彩られた大きな船が見えてきた。事前に聞いたところによれば、あれが龍姫の乗っている船だ。さて、噂の龍姫様とはどんな人なのだろうか……。

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