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#15 依頼達成報告

 満杯になった荷車を引っ張っていくのは、身体強化を全開にしてもそれなりに大変だった。途中で休憩を何回か挟みながら、サンライズへと向かう。

 道中では何回か冒険者や警備隊の人と遭遇したが、そのたびにギョッとした目をされた。満杯になった馬用の荷車を人間が引っ張っているんだから無理もないかもしれないが。あと超巨大スライムのスライムコアが幾つか剥き出しだし。

 夕方頃にサンライズに帰り着くと、ますます好奇の視線に晒される。気にしない気にしない……。


「お、荷車の兄ちゃんじゃねえか! なんだいその大荷物は! 商人でも初めたのか?」


 顔見知りの屋台のおっちゃんに声をかけられた。特製のタレを塗った焼き魚が美味いので、たびたび買い食いをしている仲だ。


「仕入先はモンスターだけどな。これから冒険者ギルドに売るところだよ」

「ほー、モンスター退治でその量かい! 将来は凄い冒険者になるかもな!」

「お世辞ありがとーおっちゃん」




 そんなこんなで冒険者ギルドに到着し、荷車を横付けする。報告はエステル達に任せ、俺は荷物番をする。まあこんな荷車をそうそう持っていけるもんじゃないけど。

 そうしていると、1人の冒険者らしき人物が声をかけてきた。


「君、その荷物凄いね。モンスター退治に行ってきたの?」


 三角帽子を被ったいかにも魔術師……って言うよりかは魔法使い的な格好をした、赤い髪の女の子だ。


「ちょっと沼地のスライムを退治しに行ってね」

「ああ、あの依頼の。でも、こんなに大きいスライムコアは初めて見たわ……」

「沼の中にバカでかいのが何匹も居たんだ。あらかた倒しはしたけど、この有様でね。引っ張ってくるのに中々苦労したよ」

「え、馬も使わずにこの荷車引っ張ってきたの……? ……引けるのはともかく、大丈夫? いいようにこき使われてない?」


 割と本気で心配してそうな顔をされる。実際は心配する程のものでもないんだけど、やっぱ見た目あれなのかなー。


「適材適所ってやつ。これ引っ張るのに一番向いてるのが俺だったってだけだ。あと女の子にこんなもん引かせられないからな」

「ふうん……いいわね、そういうの。うちの連中も見習ってほしいわ……」


 はあ、とため息をついている。自分のパーティに思うところがあるようだ。


「それにしても君、見かけによらず凄いタフネスなのね。うちのパーティに欲しいくらいだわ」

「あいにく今のパーティを離れる気はないなあ。共同作戦とかならいいかもだけど」

「あら、それじゃあ依頼によっては会うかもしれないわね。もしそんな時があったらよろしくね」


 他のパーティとの連携か……実際にやることがあったら上手く付き合っていきたいところだ。

 話し込んでいると、俺たちを呼ぶ声が聞こえてきた。


「志郎兄ぃ、お荷物ギルドの裏手に持ってきてだってー!」

「おーい、シェーラ! そろそろ行くぞー!」


 ギルドから出てきたユートが俺に呼びかけ、道の向こうからは剣を背負った金髪の少年が魔法使いの子に手を降っている。どうやらこの子はシェーラという名前らしい。


「はいはーい。じゃあ、縁があったらまた会いましょう。志郎、でいいのかしら?」

「ああ。じゃあなシェーラさん」


 ユートが頭上に?マークを浮かべてそうな表情をしている。


「志郎兄ぃ、今の人は……?」

「冒険者の人。この荷物が気になったんだと。何しろ見た目がこんな感じだから」

「ふーん」


 エステルも外に出てきていた。さて、荷物を運ぶとしよう。




 ギルドの裏手で、職員さん達に荷車に積んだ袋を検分してもらう。その量に一瞬目を剥いていたが、エステル達から報告を聞いていたからか、すぐに立ち直って袋を運び出し、中身を検めていた。量が量なので数人がかりだ。

 ちなみに、元々は一回の依頼でスライムを全滅させられるとは思ってはおらず、数をある程度減らす目的で依頼を出したのだそうだ。俺達が一回でほぼ全滅させてきたのは予想外だったらしい。



「……はい、まず依頼外ですが暴れニワトリの素材持ち込みで銅貨50枚になります。依頼に含まれていた内容としては、スライムゼリー分で銀貨40枚、通常の巨大スライムコア分で銀貨40枚、超巨大級のスライムコア分は銀貨60枚となります。超巨大級に関しては事前調査で発見されていなかったため、特別報酬を含めた金額となっております」


 合計で金貨1枚と銀貨40枚と銅貨50枚。3人で割ればおよそ銀貨46枚。事前準備の分を差し引くともう少し減るが、まあまあ儲けられたのではないだろうか。


「わかりました。……問題ないかな、エステル?」

「うん。欲を言えば超巨大級のはもうちょっと欲しかったけど」

「すまないが、うちの予算もそれほど潤沢ってわけじゃないんでな……代わりと言っちゃなんだが、そこの2人のランクの引き上げを検討している」


 そう言っている壮年の男性は、この冒険者ギルドのマスターさんだ。いかにも冒険者上がりといった感じの、逞しい体つきをしている。

 それにしても、ランクの引き上げ? まだ早い話じゃなかろうか。


「まだ俺たち駆け出しみたいなもんですけど……」

「……志郎君は前線での戦闘を担当しながらも、馬用の荷車に荷物を満載しながら長距離を引っ張ってこれる膂力があり、ユート君には中級の神聖魔術を充分に使いこなす実力がある。更に想定外の敵戦力を前に、大した傷も負わずに全滅させて早期に帰還できる戦力がある……それだけ見れば正直言って黒級以上でも良いくらいだ」


 こうして実際に言われてみると、確かに駆け出しの領分を超えてるかもな……とは思う。何にせよ冒険者ランクの引き上げは嬉しい話だ。

 ただし、とギルドマスターが付け加える。


「パーティとしては充分強くても、やはり2人は駆け出しだからな……。戦闘力はあるにしても、冒険者としての細かな判断については、経験のあるエステル君に任せてるところもあるようだし、ワンランク上の青級にするのがまあ妥当なところだろう」

「2人ともわたしが居ないとちょっと心配だからね。ぽやっとしてるところもあるし」

「確かに、ユートはそこら辺ちょっと心配だな……」

「あ、ひどいや2人とも!」

「さらりと一人に押し付けよったこいつ。悪い男だなー、ユートはちょっと付き合いを考え直したほうがいいよ」

「正直すまんかった」


 エステルからは手厳しい言葉をいただき、ユートはブーイングをしている。しかしそういうエステルも別の意味で問題を起こしそうな気がする。喧嘩っ早いし。そして、そんなやり取りを見てギルドマスターが苦笑している。


「詳細が決まったら君たちの家の方に連絡するよ。……3人とも、今回の件はよくやってくれた。おかげで沼地の巨大スライムもほぼ一掃されただろう。まだ沼の中に潜んでる可能性はあるが、まあ、その辺りは追々調査していく予定だ」


 確かに、とりあえず目に見える範囲のスライムは殲滅したが、まだ巨大サイズの生き残りが居ないとも限らないか。


「ともあれ、お疲れさん。今日はもう戻ってゆっくり休むといい」


 ギルドマスターに労いの言葉をもらい、冒険者ギルドを後にした。




 夕日も沈みかけており、辺りはすっかり暗くなって街灯や建物の明かりがついていた。少し遠くを見渡せば、建物の影絵ができている。


「せっかくだし、打ち上げでもやってみるか? 良さげな店があればだけど」

「んー? 別に構わないけど」

「初めての依頼だったし、お祝いのパーティーとか素敵だと思うよ!」

「まあパーティーってほど豪華なもんじゃないと思うけどね……2人はお酒とか飲む?」

「ボクは飲んだことないなー」

「俺も飲んだことないわ」

「そう。わたしもお酒は弱いしなー……それにこの辺の店、あまり知らないんだよね」


 外食、ほとんどしたことないからなあ。


「……とりあえず一度帰るか。アルテナさんが何か作ってるかもだし」

「そうだね」

「うん!」


 そうして帰宅した俺達を迎えたのは、ちょっと予想外な光景だった。

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