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#10 旅の道中(ミーティア~サンライズ)

 朝起きて朝食を取り、ユート達と合流して宿を出る。

 外にはカイ達とアストラル、竜車が既に待っていた。


「早速だが出発するぞ。ここからサンライズまではちょっと遠いからな」


 ミーティアを出発し、マナの大森林の林道を竜車で走り続ける。

 道中は旅人や馬車と何度かすれ違うくらいで特に何もなく、俺たちは暇を持て余していた。


「暇だなー」

「旅ってのはこういうもんでもあるから仕方ないよ。いつでも何処でもワクワクできるわけじゃないさ」

「でもボク、皆と一緒にこうやって喋るの好きだよ。一緒にお喋りしてたらあっという間に時間が過ぎちゃったりして!」

「そのうち話題が無くなっていって皆喋らなくなったりするんだぜ」

「むー、カイさんったらいじわる」

「まあ、危険を察知するにはその方がいいんだけれどね……毎回話すのに夢中になってて対応が遅れましたーとかやってたら命がいくつあっても足りないし」

「危険察知といえば、ミーティアで買ったお守り、いつか役に立つかな……」

「志郎はどっか抜けてるからなー。役立つんじゃないの?」

「むう」


 エステルにニヤニヤと意地悪な顔をされる。昨日やらかしたばかりなので反論できぬ。ぐぬー。


「カイさん達はどんな感じでやってるんだ? 遠くの方まで気配を探るとか」

「俺たちはまあ、周囲をよく注意して五感を研ぎ澄ませるのと、魔力感知と、あとはもう感だな」

「魔力感知なんてできるのか?」

「そういう技術があるんだ。口で説明するにはちと難しいんだが……」

「魔力の流れを皮膚に通すように意識してると、外部で何か魔力的な変化が起きた時……例えばマナの濃度だとかが変わったりした時、"あ、何か雰囲気変わったな"って感じるんだよ」

「そうそう、そんな感じ」

「目に魔力を通して魔力の流れを見る魔力視と理屈は同じだね。魔力視の方がわかりやすいかも」


 魔力視はよくやっているけど魔力感知は初耳だ。肌で魔力の変化を感じたことは今のところない。


「まあでも、視覚だけでなく触覚でも変化を感じ取れるようになるから、魔力感知は鍛えておいて損はないよ」

「とりあえず訓練あるのみってことですかねー」

「まあ頑張れよ」

「わたしも魔力操作の類を一から練習しなおした方が良いかもなー。この前不覚を取ったし」

「ボクは魔力の流し方とかまだよくわからないんだよね……」


 ユートの言葉にカイ達がピクリと微妙に反応する。そういえばユートはどれくらい魔力を持ってるんだろうか。


「アストラルに習ってみたらどうだ? 俺はわかりやすいと思ったんだけど」

「へえ、どんな感じだったの?」

「肩から魔力を流してもらって、その時に感じた魔力の流れを掴んで全身に張り巡らせる感じ」

「そうなんだー。ボクもやってもらおうかな」

「まあ、まだユートちゃんには早いかな……エステルちゃんもだけど、できれば体を動かすことから始めるといいよ。冒険者は体が資本だからね」

「身体強化に頼りきってたからなー……肉体的に貧弱と言われると反論できん。ぐぬぬ」

「ボク、暇な時に走り込みでもしようかな……」


 俺の時はまず魔力をコントロールすることからだったんだけどな……魔力漏れの問題がそんなに大きかったんだろうか。


「おい志郎ー」


 御者に徹していたアストラルが突然こちらを見る。なんか嫌な予感がする。


「お前竜車と併走しろ。身体強化したらその分無茶しないと肉体作りにならんからな」


 アストラルが先日やっていたアレと同じことをやれと!

 しかし理屈はわかる……下手に暇を持て余すくらいならそういう事でもやっといた方がいいかもしれない。


「おっけーおっけー。やったるぜ」

「志郎兄ぃがんばって!応援してるからね!」

「わたしも瞑想でもしとくかな……まだ志郎達みたいな無茶できないから魔力のコントロールだけでも練習しておかないと」

「頑張れよー」

「置いてかれそうになったら拾ってあげるから安心してね志郎くん」

「おい、そこで他人事みたいに言ってる2人もやれ」

「「えー」」

「えーじゃねえ、お前達もいち冒険者として鍛えとけ!」

「わかったわかった」

「それじゃあ一緒にやろうか志郎くん」


 結局カイさんとミツキさんと一緒に延々と走り続けることになった。

 俺は日の入り前までにギブアップして竜車の中に放り込まれることになった。カイさんとミツキさんは平気でこなしてた辺り自分の修練が全然足りてないのがわかる……全身がギシギシ言ってる。

 ちなみにユートは律儀に最後まで見ていて、俺が竜車に放り込まれた時は汗拭き用の布と飲み物を準備してくれた。ええ子や……。

 エステルはずっと瞑想していて、魔力を淀みなく循環させていた。流石の集中力だ。




 夕日が沈みかけた頃、ちょうどいい位置にあったキャンプ場で一泊することになった。

 皆で薪を囲んで携帯食とおやつを食べる。今日は硬めのクッキーを野菜スープに浸して柔らかくしたり、干し肉を火で炙ったりしながら食べた。おやつはミーティアで買った干しフルーツだ。甘みが凝縮されていて疲れた身体にはよく効いてくる。


「じゃ、昼間言ったばかりだしエステルちゃんとユートちゃんは身体強化無しで走り込みでもしようか」

「が、がんばります!」

「うー……仕方ないな、やるか……」

「志郎は俺と組手でもやるか」


 ぐ、結構疲れてるんだけどな……しかしせっかくなのでやることにした。

 エステルとユートはミツキさんに連れられて走り込み、俺はカイさんと組手……あれ、アストラルは?


「ああ、アストラルのことなら明日までには戻ってくるから安心しとけ。自分が居なくていいとなるとしょっちゅうどっか行くんだあいつ」


 自分の訓練か、或いは"星の人"としての活動をやりに行ってるんだろうか。人助けとか?


「まあ今気にしてもしょうがないか。じゃあカイ、よろしく」

「おう、胸を借りるつもりでかかってきていいぜ」




 身体強化を全開にして身構える。カイの魔力は、表面上では静かなようでいて、その実濁流のような激しい流れが内側に垣間見えていた。うかうかすると飲み込まれてしまいそうだ。

 次の瞬間、嫌な感覚を覚えて横に飛び退くと、一瞬前まで自分が居たところにカイの正拳突きが炸裂していた。その勢いを殺さずに死神の鎌めいた回し蹴りが飛んでくる。ギリギリ片腕で受けたが、大きく吹き飛ばされ転倒する。受けた腕が滅茶苦茶痛い!

 しかし痛みに呻く暇はない。身体を転がして、文字通り飛んできたカイの踏みつけから逃れる。背中から魔力放出し、身体を半ば浮き上がらせるように後退しながら無理矢理起き上がる。カイは着地した体勢のままだが、目は油断なくこちらを見据え、いつでも次の動作に入れるようにしている。隙がない……!


「背中から魔力放出ね……流石に初めて見たな、そんな無理矢理な使い方は」


 ロボットアニメからの発想だ。しかし全力でブーストを吹かせたせいで魔力が急激に抜けて行っている感じがする。これは、上手くないやり方だ。

 今度はこちらから向かっていく。何も全力で魔力を放出する必要はない。体の各所を少しだけ加速させるように、魔力放出のコントロールに力を入れる。結果的に単調な動きとパンチになるが、相手からすれば動作の途中で急に加速して見えただろう。カイの掌がパンチを止めようとした瞬間、拳から魔力放出し、バシィと音を立てて弾く。そのままもう片手で畳み掛けようとするが、カイは滑らかなサイドステップで身をかわし、伸ばした俺の腕を取って背負投げをした。

 背中から大きな衝撃。腹の中がひっくり返りそうだ。腕は握られたまま、首に手刀を突きつけられる。


「……参った」


 正直完敗だった。魔力放出が誤魔化しにしかなってない……本格的に格闘戦の技術を積んだほうがいいかもしれない。


「そんな簡単に勝たれたら立つ瀬がないからな……まあ筋は良かったと思うぞ。ほれっ」


 カイに手を掴まれて立ち上がる。


「ありがとう……やっぱり色々足りないなあ」

「こっちに来たばっかなんだから仕方ないぜ、そこは。むしろ俺の手を弾き返したアレが出せるだけでも大したもんだ」


 その後は、以前カイから受け取った短刀を使い、魔剣生成の練習をした。……生成される魔剣は相変わらず大きなままだが、少しは剣の形に見えてきた気がする。

 ユートとエステルがミツキに容赦なく追い立てられ、グロッキー状態で戻ってきたところで、今日の鍛錬は終了となった。


 翌朝は俺もユートもエステルも筋肉痛で生ける屍状態だったため、その日は身体を休める日とした。その翌日はまた竜車との併走を始めとしたトレーニングを行う。


 やがて、マナの大森林を抜けてなだらかな平原に出た。港町サンライズは近い。

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