セクション4 The Griffon Has Landed. FRF/『不死狩り隊』 その1
半年以上も経ってしまいました……。
ゆっくり……かなりゆっくりになると思いますが、更新を再開していきます。
その都市は死んでいた。
死んで、冷え切っていた。
無限に生成されるこのクヌーズオーエなる構造体、世界で最も巨大で不死から切り出された、ほんのひとかけらの、途轍もない大きさの残骸。
煉瓦の如く整然と積み上げられたひとけの絶えた住居の群れ。人として、終わる命として息をしているものは、誰もいない。
まさしく居住者がいないという点が問題であった。住居と人類は切っても切り離せぬ存在で無機と有機の違いこそあれども疑いようもなく結びついており正しく組み合わさったとき都市と市民は混ざり合って計り知れない大きさを持つ怪物へと変じる。それは、巨人である。巨人は、名を文化という。都市の外殻と市民の営為が生み出す虚構の巨人である。
例えその外殻たる都市が崩れかけていようとも、臓物たる市民が爛れ果てていようとも、この巨人を殺すことは容易ではない。
それは一個の新しく独立した不死である……。
「しかし、これから討ち死にするにはシケた場所だよなぁ」
「読めない言葉で書かれた……かび臭い本に囲まれて……衰弱死するよりは良い……よ」
「その死に方よりはマシかもしれねぇが」
「辛気臭い話はやめろよな!」
巨人の干からびた血管あるいは死の谷の枯れた川のような幹線道路の一つの上を、三人の兵士が移動している。
速度は都市において『馬』の名で親しまれている人肉と人骨を編んで作られた六本足の生命機械にも勝るほどだったが、それめいて息の一つも切らせていない。
付近に何か気配を感じたのか一人の兵士が体を逸らせて振り返り視線を向けて、それからヘルメットのバイザーを上げて目蓋を瞬かせた。
露わになったのは傷一つ無い滑らかな肌と古い時代の人間が見れば少女だと判断するであろう物憂げで端正な顔で、燻んだ金色の髪が隙間から僅かに溢れた。
濡れた双眸が淡雲を透かす冷たい陽の光に照らされて寸時怯えたような輝きを灯したがすぐに彼女と彼女たちを取り巻くこの世界と同じ温度の色彩になった。死んだ都市。死んだ時代。喪われた人間性と同じ色彩。
果たして瞳に映ったのは、別の道路を進む、自分たちと同じような姿の兵士が、路地の向こうを通っただけのものだった。
「今のは別の班の連中か。畜生、ビビらせやがる」
兵士は、柔和そうな美貌とまるで釣り合わない、いかにも口汚い言葉を吐き捨てた。
あまりにも印象との乖離が著しいため、長年演じてきた悪党の役をまだ捨て切れていない舞台女優といった風情だった。
走行速度は緩めていないため、すぐさま睫毛が凍り始める。
冷厳な空気の流入に、喉と肺とが苦痛を発する。
咳き込みながらまた幾つか毒づいて、兵士はバイザーを下げて、少女的としか言いようのない細面を隠した。
この最果ての都市では、道具がなければ呼吸すらままならない。
彼女たちは<領域外浄化チーム>と呼ばれる部隊の一員だった。
追い詰められた人類の生存領域の武力による拡大を目的としており、プロトメサイアの管理外で無秩序に増殖する不正規の都市を調査し、不死の怪物や敵対勢力があればこれを殲滅し、最終的には占領、あるいは成長限界に達した都市で同族相手に虐殺を働いて滅ぼす。
戦闘技術に関しては現存人類で最高クラスの精鋭集団であったが、この都市に送り込まれた彼女たちは、さらに特別な選抜プログラムを経て特務部隊として再編成されたグループだった。
「……そういや、都市と市民は全てを共有する、ってのを昔不死者に聞かされたけどさ」
三人の兵士のうち、最後尾を任された一人の兵士が、幼少期から変わっていない喉で呟いた。全身を隈無く覆った機械甲冑から響く言葉は野卑であったが、声音の響きは如何にも美しく、聖堂から漏れ聞こえる歌声じみて気品がある。
「市民のいない都市ってのは、じゃあ、馬鹿デカい死体ってことにならねぇか。コトカ、お前は学がありそうだよな。どう思う?」
なぁコトカ、と前方の一人に問いかけを重ねた。
「あのね、テーバイ……私はそういうこと……一切考えない人……だよ」
コトカ、中衛を務めるその兵士は、溜息をする時の肺の動きだけで紡いだような、儚げな声で応える。
洞窟に住まう隠者が唱える呪文じみた、静かでありながらも耳に残る発声だった。
「そんな、いかにも智慧を巡らせてますよ、って感じの喋り方してるのにかよ?」
テーバイのずけずけと踏み込むような砕けた口調に対して、コトカは全くの無関心と落ち着かなさの両方を備えた奇妙な話し方を続けた。
「昔は色々考えてて……市長候補の少女騎士を……やってたんだけど、嫌に……なっちゃって。勉強はあんまり……」
「そんなふうには見えなかったけどなぁ」
「そう言えば着替えの時……キミは私の体をじっと見ていたよね。私と……交配したいと思いながら、見てたの……」
テーバイは意味を掴みかねたのか寸時黙った。
それからその殆ど初対面の同僚に向けて、おどけた様子で笑い声を浴びせた。
「そりゃあ噂に聞く『無声三殺のコトカ』様がどんなお体をなさっているのかは、気になるだろ。ところがどうだ、いかにも小柄だし、あちこち、つやつやで可愛らしかったじゃねえか。組み伏せたら簡単に俺のものに出来そうでなぁ」
「そういう卑猥なこと喋るの……真に受ける人出ると思うからやめたら……私も本気にする……よ」
テーバイは舌打ちした。「あんまりにも可愛らしかったら騙されたぜ。実は結構気が強い方だろ、お前。俺なんかは、さっきのお前のからかいが冗談かどうか、ちょっと悩んだんだぜ? それで、一つ声を発する前に三人斬って殺すって噂は? ありゃ実際どうなんだ?」
「そんなの……ただの事実……だけど……」
「その体格で? 俺より頭一個、いや二個小さいだろ」
「甲冑着れば関係ないし……私、人殺し以外に特技無い……よ……」
「案外武闘派なのな」
「賢そうに見えるんだとしたら……それは私の故郷のプレグロ・アレクサンドリアの……方言のせいじゃない……かな。面白い話し方……してるでしょ……眠そうな感じで……。うちの地元だと……みんなこんなだよ……特に市長の血統は図書館潜りの家系だから……体格も声もあんまり……変わらなくて……」
「へえ、そりゃ一度行ってみたいな。俺は小柄な雌性体が好みなんだよ、そっちの都市なら好みの娘を選び放題だ」
「うるっさいな、テーバイ!」
うんざりした様子で振り返ったのは、最前衛を務める機械甲冑の兵士だ。
「だいたいだな、さっきから、コトカを閨に誘いたいのか、都市について語りたいのか、どっちなんだ」
名を、ラバトワといった。腕の装甲に巻いた赤一色の記章は内地浄化専門の部隊に与えられるもので、原隊から離れた今でもラバトワは何かを刻み込むようにしてその記章を付け続けていた。
非難がましく突き放すような少女の声は鋭く、それでいて躊躇を含んでいる。何かを恐れているようだった。
テーバイは待っていましたと言わんばかりに声を弾ませた。
「おやおや、話に寄りたくて耳を立てて黙ってたのかよ。『無声』を譲ってやったらどうだ、コトカ」
「それ自分で……名乗ってるわけじゃないし……欲しいなら……あげるけど」
「いるかバカ。武名なんてごめんだね」ラバトワは虫に集られた少女のように拒絶した。「いいか、僕はな、都市の話が嫌いなんだ。お前たち、都市に興味が無いなら、その話題から離れてくれ」
兵士たちは、いずれも少女の声で囀っている。
武装を解除すれば少女としか言いようが無い肉体が現れるにせよ、現在は錆びの浮かんだ機械甲冑で総身を覆い、赫赫たる威圧感を寂寞の都市へと撒き散らしている。
加えて、兵士たちは、背負い式の管制装置と連結した被覆式拡充装備で下半身をより強固に装甲していた。
これらは言わば機械甲冑の上に被せて纏う規格外の増加装備だった。
正式にはオーバード・メギンギョルズジャケットと呼称されていたが、実戦投入された前例がなかったせいで兵士たちには全く馴染みがなく、古の雷の神に関係するその名前の意味も分からず、さらには通常の機械甲冑自体をジャケットと呼ぶ文化とも相性が悪いため、単に被覆装甲と略されていた。
外骨格と基礎的なフレームは古代の大型機械甲冑からの流用品で、かつて機械式のアクチュエーターが納められていた部位には精緻に組み合わされた膨大な量の天然筋肉が組み込まれている。
彼女たちは己らと神経接続した半人半機械の走行装置に実質的には跨がっており、それがために人間の上半身と、後ろ半分しかない屠られた馬が合わさったような、異様なシルエットをしていた。
管制装置には人間よりも一回り大きな機械の腕、火器懸架用の可動肢までもが設けられており、左右の手にそれぞれ雑多な金属を溶接あるいはリベット打ちして拵えた大盾と、太古の槍試合で使われた大槍もかくやという大ぶりの戦術兵器を携えていた。
大盾単体でさえ通常ならば把持不可能な重装備で、例え持ち運びが可能でも自由には扱えない。
しかし二つの異なる時代の技術で新造された被覆装甲は問題を解決している。訓練を受けたものであれば神経管を用いて肉体的に結合することで、新たに拡張された手足を自在に動かすことが出来た。
無論、天然筋肉の出力は機械式に大きく劣る。積載量の低下を補うため、多くの部位で装甲が排除され、緩和と緊張を繰り返す剥き出しの筋肉がびくりびくりと痙攣しており、いかにも不安定な印象を見るものに与えるが、しかし出来損ないの歪な軍馬は、この時代では類を見ないほど強力に少女兵士たちを支えている。
道路に騎士の上半身と馬の下肢を備えた奇怪な影を落とす兵士たちは、火と硫黄で滅亡した国から黄昏時の熱風とともに迷い出た呪われた亡霊の騎士じみていた。
軽口を叩いている間にも丸太のような二本の人造脚は彼女たちの肉体を死地へと高速で運び続ける。
その異形が一歩踏み出すたびに、兵士たちの細い腰に下がる恩寵の軍刀が、このクヌーズオーエの太陽、落命して見開かれた眼球の、剥き出しの蒼い瞳じみたその太陽に照らされて、時計の秒針に見放された壊れた振り子のように無秩序に揺れた。
「都市の話をしたく……なくても、今回の作戦では……たぶん私たちの……協調性や忠誠心も評価されてる……都市の話は……したほうがいいのかも……」
コトカはちらと上空を見遣った。
「えっと……『市民の息が都市の息であり、そうしたものが途絶えたとき都市は明確にその体熱を喪い仮初めの死を迎える。だが人類と異なり都市は決して滅びない』」
「おっと、学が無い割に難しそうなのがスラスラ出てくるじゃねぇか。いきなり滑舌もよくなるし」
「暗唱は……肺の使い方が違う……よ……。それに、今ので、私が読んだところ全部……。興味が無くなったから……そこから先は……一つも覚えてない」
「まさか市長課程を居眠りしてこなしたわけじゃないだろうな」
「こなしてない。怒られて……そのときは……しばらく人口動態調整センター送りに……なったっけ。一紀年ぐらい……罰で奉仕任務……してた……」
空気が俄かに濁った。
人口動態調整センターでの奉仕任務を命じられるということは、生命資源の製造に専従する機械のように扱われることと同義であり、どのような階級の市民でも屈辱を感じずにはいられない内容であったことだろう。自分の生殖機能を自由意志と無関係に使用されるのは、肉体的にも精神的にも負担が大きい。何を製造させられるのかも定かでない。
経験したことを口にすることさえ憚られる刑罰だ。
しかしコトカはおぞましい過去を全く気にしていないように思われた。彼女の出生地に伝わる、霞を掴むが如き曖昧な発話の仕方のせいだと断じるには、あまりにも素っ気が無かった。
「なんていうかよ」テーバイは若干口ごもった。「あんまりこたえてないように見えるのは、すごいな。それでこんな作戦に志願した、とかなのか?」
「違う……よ。奉仕任務はたいしたこと……ない……。義務でやる生命資源の供出と……同じだよ、あんなの……」
「俺は得体の知れないやつ由来のものを胎に抱えたいとは思わねぇな。胎の使用履歴が汚れるだろ」
「でも、資源を製造するとき……相手はだいたいいつだって知らない人……じゃない? それが嫌……なら、テーバイって、意外と潔癖なんだ……」
「潔癖ってきたか。んなことは……どうだろな。案外このメンツだと俺が一番ぬるま湯の育ちのお姫様なのかも」
テーバイが考え込んでヘルメットの下で口ごもると、ラバトワが先頭を進みながら、呆れ半分に言った。
「じゃあ僕が、コトカの読み飛ばしたテキストの続きを教えてやるよ、『人類すべてがなにがしかくだらぬことで地上から姿を消しても、都市、この霊廟の石積みの回廊ごときものは、尚も在り続け、かつて吐息によって紡がれていた無数の言葉は、見えざる手によって刻み込まれ、永劫の時間をも越えるのだ』」
「ラバトワ……今は死んでいるこの都市にも……私たちの言葉が生き続ける……の?」
「全てではないかも知れないが、都市は覚えているんだよ」
「俺の意見だがよ、都市って単語は、人口動態調整センターに置き換えてしまうべきじゃねえかと思うがね」
「それは……」ラバトワはバツが悪そうだった。「浄化チームにいるとそう思うかもしれないが、穿ちすぎだ。都市と市民。この二つがなければ世界に人類史の轍は残らない。車輪の両輪なんだ。調整センターだけじゃ成り立たない。少なくとも、僕みたいな浄化チームの対都市殲滅部隊の教条としてはな。それにしても、お前は市長課程を受けてないのか? お前の家は、そっち方面でも名門だろう」
「偏見ってもんだ、俺は市長なんざ絶対なりたくない。ずっと現場にいたいんだ」
「気が……合うね。私も市長は……やりたくない……なぁ」
「まったく、何なんだ、いったい」ラバトワは苛立たしげに吐き捨てた。「普通はもっと上のマシな椅子に座るために浄化チームでクソ仕事をやるんだ。だがお前たち、まるで逆じゃないか。ここは浄化チームのクズのたまり場か何かか?」
「そりゃおかしな話だぜ、ラバトワ。こいつがどういう趣旨の作戦なのか、勘づいてるんだろ。普通のやつが集められるかよ。そのくせ実質的には志願制ときたもんだ、これでクズのたまり場以外の何になると思ったんだ」
「ああもう。誰も彼も、経歴だけ見れば僕より上だってのに、中身はずっと酷いもんだ!」
「だって……ぜんぶ酷いのが、この終わらない冬の都市……だよ……。酷くない場所……私……知らないかな。ラバトワはもっと良いところ……知ってる……の?」
「そんなの僕だって知らん。想像することも出来ない。ああ……そうだ、昔、天国という場所があると信じている都市を見た。天国は……究極の清浄と、何かよく分からん絶対の存在に支配された理想郷なんだそうだが……」
ほほう、とコトカとテーバイが関心を示した。
被覆装甲があろうとも管理外の都市の死と隣り合わせだ。行軍の途中で理不尽に死ぬ可能性はいくらでもある。
しかし、彼女たちは接続した生命機械の脚を動かしながら、出来るだけ会話を続けようと足掻いていた。
極限状況下でくだらない話に花を咲かせて気を紛らわせようとするのは、あらゆる都市上位組織の中で飛び抜けて殉職率の高い浄化チームの性だった。
互いに親しく声を掛け合うことで、いざと言うときの連携を高める意味もある。
「天国……良さそう」
「だな。そこに移住するにはどうすりゃ良いんだ?」
「いや、天国というのは、換言すれば、概念的な都市のことだ。現実の都市のために善行を積んで死ぬとそこに行けると教えていた」
「ははぁ。見えてきたぞ」テーバイは先回りして笑い声を漏らした。「そうやって市民の生活を監督してた都市があったんだろ! こすい手口だ!」
「そうだ。俺はそういう文化を敷いていた都市を浄化作戦で潰した。十六輪装甲車で、建物から締め出された市民を、文字通りに、轢いて潰して回ったんだ。天国らしき場所に行った市民は、一人もいなかったな。骨も肉も道路にへばりつく汚らしい染みになった。今は、次の舗装の下だ。次の次の舗装かも知れん。血と臓物の混じったヘドロの何割かは排水溝に流れ込んだだろうが、でも、下水処理場に理想郷なんてあるわけもないし……」
譫言を操るようなラバトワの声に、後続の二人はヘルメットの庇越しに、困惑の視線を絡ませた。
「思ったより重いやつ来たな……」
「ほんと暗い……やめてほしい」
「……だから話したくなかった」ラバトワは気まずそうに首を振る。「僕はな、こういう嫌な話の種になるような都市を自分の手で増やしたくなくて、今回の作戦に志願したんだ。ここがクズの溜まり場だってんなら、それで構わない。せめて、滅ぼされる都市と関わりのないまま最後まで行きたい……」
曰く、不死者たちが脆く儚いFRF市民に語るには。
人類が塵へ還った後だとしてもそれら祈りの言葉だけは地に残るだろう。
唱える者がなくとも、言葉は、言葉である。祈りは祈りである。都市は都市である。
都市は、永遠である。
永遠に聳え、そして新しい息が吹き込まれるのを、冷厳なる沈黙のうちに待ち続けるのだと。
しかし不死者の信奉者でなければ、そうした題目を信じ切ることは出来ない。実際のところFRFにおいては不死者たちと都市にまつわる曖昧な理念以外に本質的な信仰はなかった。
十字架を崇めることはあるが、その向こう側にいるのは絶対者たるプロトメサイアや漠然として偉大な都市であって、本来いたはずの異邦の神ではない。
そして行軍する三人はもはや信仰そのものを失いつつあった。都市の偉大さなど、どうでも良くなっていた。
信仰なきものの目には、無人の都市は、遺棄された文明の、名前さえ忘れ去られた墓場としか写らない。
永遠など無いといくつもの都市を開拓しあるいは滅ぼしてきた彼らにはもう分かっていた。
市民が喪われた時点で、人類文化の華やかな残影は、無意味で無価値な巨大な連続体となって、やがて霧散する。
都市と市民が等しいという考え方は全く正しい。その命の価値は一回性のものだ。血潮たる市民を投じインフラを復旧して蘇生させたところで死ぬ前にあった都市と同じには出来ない。
どうして永遠など信じられようか、この虐殺と共食いの都市で。
異形の騎士たちは足早に進んでいく。埋葬するにはあまりにも大きな都市の死体が、沈黙のうちに兵士たちの眼前に横たわっている。感慨など有りはしない。打ち捨てられた死体を幾つも踏み躙ってきた。どんな死骸も兵士たちは見飽きていた。
だから駆け抜ける彼女らの呼吸は、死んで、冷え切っている。




