セクション4 人類文化継承連帯/世界最終戦 キル・オール・ザ・セイクリッドディア(3) スカーレットコントロール
具合が優れないので軽めの更新です。
バトル枕投げに敗北したエリゴスはすっかりのぼせ上がった状態でまともに歩くことさえ出来なくなっていた。スティンランドがいくら揺すっても彼女にしなだれかかってトレンチコートの胸に素肌の頬を寄せながら「にゃー、にゃー……」と浅く息をしながら鳴くばかりだ。そこには瞬きの時間すら与えずに敵を殲滅する戦闘用スチーム・ヘッドとしての威厳など全く無い。
スティンランドは仕方がなさそうに笑った。
彼女の肩を抱いてテントとテントの間の薄暗がりに運んだ。
嵩張る蒸気甲冑はヘカトンケイルがアームで移動させてくれた。手と足の指そして脊椎に打ち込まれた電極によって自分の体ではなく千の腕を操る技術者のスチーム・ヘッドはスティンランドと親しかった。
スティンランドは別れ際ヘカトンケイルに「ありがとうございます」と畏まってお礼を言って跪き手の甲に口づけをした。ヘカトンケイルもまた「どういたしまして大変な仕事をいつもありがとうねその子も君に委ねるよ」と穏やかに返し蒸気駆動式のアームではなく自分の柔らかな手でスティンランドの唇をそっとなぞった。
ヘカトンケイルは高度に制御されたTモデル不死病筐体に特有の曖昧な笑みを保っているが濡れて輝く瞳までは隠せない。スティンランドもまた自分が同じ愛欲を目に湛えているのを理解していた。
唇を重ねようとして「君も言ってたけれどマルボロは愛が多いことを良しとしていないから気をつけないといけないよ」とからかわれた。スティンランドは肩を竦めた。
そうして少女拳闘士と少女騎士は二人きりになった。
どこか遠い喧噪を聞きながら永遠に朽ちぬ少女たちは手狭な薄闇で肩を並べていた。
スティンランドは惚けて身動きの取れない新米の少女騎士に寄り添う。彼女の師が愛し子にそうするように頭を撫で続ける。数分続けてもまだ起きないので彼女の流儀として気付けの代わりに噛み砕いたシガレット・チョコレートを接吻しながら与えた。
エリゴスは「うにゃ、にゃにゃ……」と不服そうにしながらも熱心に甘味を求めた。
スチーム・ヘッドにとって一時的な快楽と強烈な甘味は劇薬だ。チョコレートの投与で恒常性の強制的な活性化が起きて人格演算の正常な復帰が促されたはずだ。
スティンランドは介抱を続ける傍らインナーだけを身に纏ったエリゴスの不死病筐体の薄い体のあちこちを探った。彼女が生前から引き継いだ気質と運動履歴を確かめるためだった。
「はー。Tモデルには珍しい体つき……頑張り屋さんだ」
思わず嘆息してしまう。堅さと柔らかさを両立させた胸筋から腹筋までの滑らかなライン。殺人的な速力を発揮させるかは疑わしいがよく引き締まった大臀筋。神の創造物を礼賛するための暗黙の規則に従った完璧な造形は肉の塊から彼女自身が彫り出した芸術品と呼ぶに相応しい。
Tモデル不死病筐体はどれだけ肉体を鍛えても外観がさほど変化しない。彼女たちのパーソナルな情報は肉ではなく彼女たちの紡ぐ言詞に格納されるためだ。それ以前の問題として最初から常人を超える身体能力が備わっているため大抵のTモデルは肉体を鍛えようなどとは考えない。
だがエリゴスは違ったようだ。
可愛らしい変化であっても肉体に影響が出るほどの修練を積んでいる。不死になる以前は自分自身を研ぎ澄ますことに命を燃やしていたのだろう。
おそらく彼女には特別な才能が無かったのだとスティンランドは手指に伝わる熱から想像した。Tモデルの少女たちは何をせずともどこかに超人的な才能を持って生まれてくる。その中で最もくだらなくてありふれているのが敵を殺すという原始的な才能だ。
人殺しに関する才能は無価値だ。人間を殺すのは容易い。撃てば死ぬ。殴れば死ぬ。刺せば死ぬ。吊るせば死ぬ。車で轢けば死ぬ。こんなに簡単に死ぬのだから殺そうと思えば誰だって人を殺せる。そこに才能は必要ない。人間は人を殺せるようにデザインされており社会は人を殺すことで成り立つよう設計されている。
わざわざ殺さなくても人は死ぬ。上手に人を殺すより上手に歩けることのほうがよほど立派で難しい。
だがエリゴスは己の無才に不貞腐れることもなかったのだ。
スティンランドはエリゴスの過去を想像した。
そしてスティンランドという不安定なペルソナと対峙した。
マルボロの記憶しているかつての自分を想起した。
観念したように溜息をつく。「マルボロは愛が多いことを良しとしていない、と言われても、わたしの不死病筐体には、もう本能しか残ってねーんですよ」と誰にともなく言い訳する。
スティンランドは熱を感じていた。それはエリゴスの体温ではなく彼女自身の温度だった。
トレンチコート越しに自分自身の胸に手を当てた。
少しだけ視線を逸らして地面を見た。口元から漏れる息が白い靄になる。
スティンランドは観念した。それから覆い被さるようにしてエリゴスにまた口づけした。
エリゴスは熱に浮かされたような目をした。つたなくスティンランドを求めた。それがスティンランドの鼓動を一層強く脈打たせた。
秩序を重視するマルボロならばこんなことは決してしない。知らないふりをする。分からないふりをする。しかしスティンランドは不良娘を自認していた。セルシアナと意気投合して倫理規定逃れのバトル枕投げを常設化したのも彼女がマルボロの硬直化した倫理観とはまるで違う世界で生きて独特の秩序を信奉しているからだった。少なくともかつてはそうだった。
だからこそマルボロはスティンランドを惜しんで蘇らせた。
スティンランドは出来る限る優しくエリゴスに触れた。「不死になってから、あんまり触ってもえらえてねーんです?」とからかうように囁くとエリゴスは「うー……」と呂律が回らない舌でいじらしく唸った。
何もかもどうということもない接触だ。むしろスチーム・ヘッドにとってプライベートへの言及や衣服や髪に手を加える行為の方が大きな意味を持つ。
だというのにエリゴスはスティンランドに物理的に触れられるたびに恥ずかしそうな声を漏らした。
スチーム・ヘッドは通常の場合あらゆる感覚が鈍い。彼らの肉体は見ない。聞かない。感じない。必要が無いからそれをしない。
永遠に不滅であることが約束された人類からはどのような欲求も生じ得ず自発的行動も無い。
外界からのどのような入力もただのノイズだ。
怨讐も哀切も、病による満ち足りた不死からは遠い。
人工脳髄を挿入し生体脳髄に人格記録媒体を演算させれば擬似的な欲求や志向性が再現されるがそれも所詮は霧に浮かぶ影に過ぎない。
肉体は意識と関わりなく入力に対して恒常性を発揮し続ける。
人格をどれだけ精緻に演算してもやがて全てが摩滅する。
苦痛は消え去る。快楽は色を喪う。
満たされぬ欲望だけが辛うじて残る。
味覚や生存に必要の無い皮膚感覚はすさまじい速度で減衰する。
スティンランドにしてもチョコレートの味を楽しめるのはマルボロ由来の特別製の人格演算を行っているためだった。
Tモデル不死病筐体を使うスチーム・ヘッドは一般的にそうした劣化の速度が遅く不死となっても濃密な身体接触を好むという特徴を持つ。だがそれにしたところでエリゴスのような甘ったるい感覚に対してある種の鋭さを保てる期間は短い。
接触に対して「にゃー……」と甘えてくるエリゴスの反応は如何にも初々しく敏感で愛らしい。
感覚野での人格摩滅が未だに無いことの証左だ。
不死として目覚めたとき、世界は生と死の一回性に依拠する壊れやすい輝きを喪って、暗くなる。何もかもが没落していく致命的な自己認識の宇宙。そこで不死者たちは肉体にかすかに残る衝動を人間性のよすがとして追い求める。
他者と寄り添いあう。あるいは奪い合う。誰かを通して自分自身を確かめようとする。
その熱情すら色褪せていくのだと分かっていてもそうしたくてたまらなくなる。
エリゴスの甘い声はこうした初期の交流からも遠ざけられていた事実を如実に物語っていた。
スティンランドは心音を聞いていた。
エリゴスのとくとくと脈打つ心臓の音を聞いていた。
自分の心音が同調するように大きく波打つのを聞いていた。
エリゴスにまた接吻する。応じてくる。少女騎士は飢えているように見えた。蕩けた人工脳髄から漏れ出るのは誰かに認められたい求められたいという切ない嘆きだ。
「……いいえ、そうではないのかもしれねーですね」とスティンランドは自嘲する。「認めてほしいのも、求めてほしいのも、元を正せばわたしです。わたしがこの子にわたしを投影しているのかも」
伽藍堂の少女は嗤う。
暗い欲望が依然として彼女の心臓に巣くっていた。
スティンランドは自分のトレンチコートの前を開けた。
彼女の素肌の肉体を脚の間に挟んで背中から抱きしめた。
デッド・カウントが少なければ不死病筐体は温もりに対して非常に素直な反応を示す。誰かの体温を感じることで自分の体温を思い出すのだ。それは生の実感を仮初の蘇生である。
「……少しは落ち着いてきたんじゃねーですか?」
「うん……あったかい……。あっ!? な、なんだか私、情けないところを見せているわね!?」
エリゴスはスティンランドの胸元に寄りかかったまま我に返った。
「チョコレートの香りがするわ……んっ」
「はい、チョコレートですよ。噛んだ後ですが」
「にゃー……キスが好きなのね」
「そうじゃねーです、エリゴスが好きなんです」
「出会ってまだそんなに経っていないと思うけれど」
「出会って何時間ぐらい待てば、好きになる権利がもらえるんです?」
「もう。……これ以上は人口動態調整センターで手続きをしないといけないんだから」
エリゴスは拗ねたように溜息を付いた。暗闇の中でも分かるほど耳と首筋が熱を帯びている。それから恐る恐ると言った様子で自分を撫ぜるスティンランドの手をゆるりと握った。
「バトル枕投げのあとの記憶がない……メサイアドールがあんなに良いようにあしらわれるなんて。それで、スティンランドは、何をしてくれているの?」
トレンチコートの下で素肌と素肌が触れあう感触にエリゴスは潤んだ瞳をしていた。
「……これって、バトル枕投げの続き?」
「うーん」スティンランドは唇でエリゴスの耳をつついた。「愛情表現です?」
「そうなのね」目を細めて彼女を受け入れた。「不思議な人。私じゃなければ、あなたのことこてんぱんにしていたかもしれないわよ」
「嫌なら、続ける気はねーです。嫌ですか?」
「ううん。人の体温って久しぶり。蒸気甲冑よりも柔らかで、ずっとずっと安心する。あなたの香りも……好きかも」
「エリゴスは、理想都市にお友達はいねーんです? 肉体の反応が全然摩滅してねーですけど」
「……わたしは強いの。だから怖がられてた」
エリゴスは脚を抱えて顎を自分の膝に乗せた。
「私がその気になったら、その辺のアルファⅠもアルファⅢも敵じゃない。誰だってバラバラに出来る。私には、それしか出来ない。ええ、だけど、私が誰かに暴力を振るうなんて絶対に無いのに……それでも戦闘用スチーム・ヘッドと一緒に居るなんて耐えられないって、みんなそう言うのよ。……それもそうなのかなって、ずっと思ってた。私だって私よりずっと強い機体が無害なフリして歩いてたらきっと怖いから、戦闘用スチーム・ヘッドってそういうものなのかな、って。正直、セルシアナとか、他のあの、知らないTモデルの子たちとか……そうよ、さっきのバトル枕投げ! 最新鋭の戦闘用スチーム・ヘッドにあんな真似を平気でする機体が山ほど居るらしいことの方が驚きよ」
荒ぶるエリゴスを背中から柔らかく抱きながらスティンランドは可笑しそうにした。
「前線には戦闘用スチーム・ヘッドなんて幾らでもいます。エリゴスを侮る人はいても、怖がる人はいねーのです。だからエリゴスもみんなを怖がらねーで良いんですよ?」
「怖くなんかないわ! バトル枕投げだって、あの……私だって一対一に持ち込めれば勝てるんだから!」
「そーですか。あんなに可愛くめちゃくちゃにされて、何ともまぁ威勢の良いことです」スティンランドは笑いながらエリゴスを知るために意識を集中させた。静かな呼吸音。エリゴスも体の力を抜いた。「……突撃隊のことは心配しないで。セルシアナとキミを関連付けて認識するよう、スカーレットコントロールが誘導をかけてます。二、三日で自然と馴染めるはずです」
「うん……」
「あとは『セルシアナのオモチャ』呼ばわりに耐えられるかどうか」
「もう! 気を許したらすぐそういうこと言う! ……あなたも、わたしが全然怖くないの?」
エリゴスの感情が伝わる熱で分かる。
スティンランドは抱きしめる力を強くした。
「怖くねーですよ。エリゴスは、コルトの娘なんですよね。わたしは、マルボロの、一番出来が良くて愛されまくりだった弟子が素体です。マルボロの愛弟子が、師匠の大切なコルトの、その娘を恐れますか。恐れねーですね?」
「だけど……その、私をこうやって宝物みたいに抱きしめてくれる理由が分からないわ。マルボロなら、まだ……まだ分かるの。だけどあなたはマルボロじゃない。マルボロとは、性格だって全然違う。えっと、同じなのは記憶だけなんでしょ? どうしてこうやって愛して、抱きしめてくれるの?」
「それはエリゴスがわたしの好みのタイプだからですが」スティンランドは照れながら答えた。「わたしという人格のパターンがそうなので。まぁ確かにマルボロとは記憶以外ぜんぶ違います。育ての親がマルボロみたいなので、口調は似てるかもですけど、とにかくわたしはマルボロを近代化改修するために……異なるマルボロになるために生み出された、別の機体ですからね。見るも無惨に失敗したんですが」と金髪の麗人は自嘲した。「……だいたい、エリゴスには及ばねーですが、わたしだってこれでも『戦闘用』です。同族を厭う気持ちなんてあるわけねーのです」
「そうなのね。ねぇ、ごめんなさい、プライベートなことを、もう一つ聞いても良い?」エリゴスは上目遣いにスティンランドを振り返った。「あなたも、そうなの? つまり、私と同じ……」
スティンランドは押し黙った。
答えに窮したわけではなく彼女には答える術が無かった。
「……プロトメサイアから聞いてると思いますが、マルボロは、機械を使わねー状態でも擬似的なオーバードライブに突入出来るっていう、すごく変な機体です。それは、わたしもなんです。マルボロの特異な技能を再現出来る素質があったから、マルボロの元に送られてきた……らしいです。わたしってモルモットちゃんだったみたいなんですよね。素でオーバードライブ出来るなんて、どう考えたって強みにしかならねーので、研究の対象になるのは当然ですよね」
「もう、質問に答えてないわ。えいっ、えいっ、はぐらかすなら、こうなんだからねっ」
エリゴスは仕返しのつもりなのかスティンランドの指を甘く噛んで舌で形をなぞった。
「くすぐったいです。ふふ。……実を言うと、わたしのことは、わたしにも分からねーのです」スティンランドは目を伏せて今度は時分からエリゴスの口の中を指でなぞる。「わたしは、全てマルボロの記憶に残っていた過去から組み上げられただけのペルソナ。そしてそのマルボロも、わたしの全ては知らない。もしかしたらオリジナルのわたしは知ってたのかもしれねーですが、でも今の私には、私が何かは、分からねーのです」
「生身でオーバードライブが使える人なんて滅多にいないわ。無関係とは思えない。あなたもきっと……」
エリゴスは体ごと振り向いてスティンランドと視線を合わせた。
そして言葉を迷った。
そっと自分から唇を重ねた。
「ん」スティンランドは困ったように笑った。「何のキスです?」
「……不躾なことを言ったわね。ごめんなさい」
「エリゴスは優しいですね。撫でてあげます」
「にゃー……あんまり撫でないでよ。私の、その、威厳が無くなっちゃうじゃない……。それにしても、あなた、どうして自分のことを伝聞系で話すの? まるで他人のことを話すみたい」
「まぁ、他人事だからじゃねーです?」
スティンランドはエリゴスを自分自身の代わりとでも言うように抱きしめた。
「わたしは、わたし由来の記憶を一つも所持していねーのですよ。……何もかも壊れてしまったと、ヘカトンケイルたちが言っていました。このわたしは、マルボロたちが自分たちの記憶から再現しただけの、本質のないわたし。そしてこのわたしは、わたしの喪われた記憶に、何の思い入れもない……。だから、ここにいるのは、かつてマルボロが見込んだ後継者候補の、その残骸に過ぎねーですよ……それでもエリゴスを愛しく思うのは本当ですよ?」
「疑ったりしないわ」エリゴスは諦めたように身を委ねる。「愛されて嬉しいのだって、本当だもの」
正規の着任手続きとTFSSチームの移送報告をする必要があった。戦術ネットワークを介して全て伝達済みだったがスカーレットコントロールでは殊更に前時代的な形式を重視した。時にはミスさえ生じる手続きの連続が、所属する兵士の人間性を繋ぎ止めていた。
スティンランドはエリゴスに蒸気甲冑を着込ませてから薄暗がりを抜け出した。
百年来の恋人同士とでも言うように硬く手を繋いだ。
脱面させているのは新入りの顔をスカーレットコントロールの面々に刷り込むためだ。人間は一般に頭部を晒した人間には態度を和らげる。
何より初めてのデートに臨んでいるとしか言いようが無い初心な表情に口汚い言葉を浴びせるほどの精神の持ち主はここにはいない。
司令部までの道程で面倒ごとは無かった。何機かが「ああ、あれがセルシアナにオモチャにされたっていう……」「でも見た感じスティンランドのオモチャになってない?」「マルボロの胃に穴が空きそう」「メサイアドールっても色恋に夢中だと普通っぽく見えるなー」と戦術ネットワーク上に流布された情報に誘導された呑気な言葉を発していた。
大型の開放型の防火テントがありその中では簡素な机に乗せたモニタを睨んで技術者や近衞の兵士たちが陰気な調子で言葉を交わしていた。
同じ空気が通っているというのに凍てつくような冷たさが空間に満ちていた。外の兵士たちが狂騒に駆られているのに対してそのテントの下にいる彼らは禁じられた呪文を唱えることを強いられた魔法使いのようにどこかに躊躇いを含んだ調子で作戦局面について描かれた図面を眺めて言葉を交わしていた。
その中央にケーブルに繋がれた大きな機械があった。移動可能なようで多足を折り畳んで鎮座しているが物々しいスチーム・ヘッドたちに紛れてもなお無視しがたい異物感を漂わせており司令部全体がこの異様なる多足歩行機械を中心とした魔方陣じみていてその奇怪な不朽結晶の塊に腰掛けて瞑目しているスチーム・ヘッドの居住まいは街頭で何某か気心の知れた相手と待ち合わせをしている時の穏やかな居住まいを漂わせていて却って周囲から遊離しており彼女だけがどこか違う宇宙から差し込んだ違う色に照らされていた。
最高指揮官であるアルファⅠ改コルト・スカーレットドラグーンはあたかも眠っているかのようだったがスティンランドとエリゴスが近寄ってくるとすぐに目を開いた。落雷を受けて朽ち果てた木の虚のような真っ暗な黒い瞳が二人を飲み込んだ。
成熟したTモデル不死病筐体らしい背丈に恵まれた美貌の持ち主で虚構じみた顔の口元には微笑が張り付いている。戦闘服の片方の腰に時代錯誤な回転式拳銃を吊り下げている点を除けば特別な装備は無い。
スティンランドは陽気に挨拶をしようとして何を言ったものか迷った。
彼女と顔を合わせるたび一度だけ言葉を失ってしまう。
マルボロの記憶に由来する身体動作だった。戦闘機械の冷徹さに取り込まれたコルトに対して気後れするところがありスティンランドもそれに逆らえない。
「やあ。よく来てくれたね」と涼しげな微笑を崩さずコルトはエリゴスに話しかけた。「初めて会った気がしないよ。ああ、初めて会ったわけではないにせよ私は君の顔を見たことが無いので許しておくれよ。私の子宮から摘出されたとき君は取るに足らない肉の塊で目も鼻もまだ人間らしくなかったからね」
エリゴスはぎこちなく敬礼して口を開いた。
「お、お初にお目にかかります、コルト様。わたしはあなたの第三サイクル……」
「うん。私の娘を素体にしたスチーム・ヘッドらしいね。気にしないで。私は、君たちのことをどうとも思っていないから」
「……はい」
エリゴスの動きが硬直した。
予想されていた対応だった。スティンランドはエリゴスの手を握ってやった。マルボロの記憶の中の自分がされて安心した素振りを見せていた、その行動を反復しただけだとしてもエリゴスを労る気持ちに偽りはない。
エリゴスの手は甲冑に包まれておりごつごつとしていた。体温など分かるはずもない。だが思い出させることは出来るだろう。スティンランドがどれほど優しく彼女に触れて愛を示しているかは伝わるだろう。
コルトは微笑んでいる。
落ちている空き缶でも眺めるような無感情な視線をエリゴスに注いでいる。
「私に何か期待していたのかな」
「い、いいえ。私はただ、一目お会いしたいとだけ……」
「生みの親に一目会うと、何かあるのかい?」
殆ど間を置かずにコルトは問いを重ねた。
エリゴスは唇を引き結んだ。
スティンランドは諫める口調で割って入った。
「コルト。実の親に会ってみたいと思うのは、そうおかしなことじゃねーです。引き離されていた二人が出会えることそれ自体が立派な『何か』ですよ。何とも思わないのだとしても、言い方というものが世の中にはあります。まさか知らねーのですか?」
「ああ、うん、君がそういう言い方をするということは、たぶん私の今の発言で、エリゴスは気を悪くしたんだね? すまないね、その子の表情パターンがまだ分からないんだ。しかし考慮してほしい、事実として私たちは初対面だし、私は彼女に思い入れがない。だからどうでもいい。どうでもいいから、よく分からない」
テントに吊り下げられた電気カンテラの光が青ざめたエリゴスを照らしている。
彼女は「はい」と頷いた。
しばしの観察のあとコルトはSCAR運用システムにもたれたまま軽く手を上げた。
「誤解してほしくないから捕捉しておくけれど、君だけがどうでもいいわけではないよ。私は誰の出自にも興味が無い。どこの、誰の、どういう子供なのか、全部どうでも良いんだ。君の気持ちは、分かるつもりでいる。自分の直系の親については、どんな形でも知的興味が湧くのは自然だからね。どうせなら感動的な一言でもあげられれば良かったんだけど、感情を凍結された存在にそれを求めても虚しいだけだろう? 私のエモーショナルな言葉は全部嘘偽りだ」
「……はい」
「スティンランドも分かってほしい。君が誰にどう欲情しても私は罰を与えたりはしない。私をそんな目で見るのは感心しないよ。承知の通り、この私という人格セットは全てを等価値で扱う。石ころも実の娘も大して変わりは無い。ああ、メサイアドールはもちろん違う。私はメサイアドールとしての君にしか用事が無いぐらいだよ。たっぷりと用事がある。だから私は君にメサイアドールとして挨拶をしてほしい」
「わっ、私は、クヌーズオーエ所属、戦闘用スチーム・ヘッド、メサイアドール<エリゴス>です。義勇兵として戦線の維持に志願しました……」
「そうかい。歓迎するよ、エリゴス」
コルトはそれまでの淡々として態度を維持したままずかずかと歩み寄りエリゴスの手を握った。
事務的な仕草で抱き合い軽く肩を叩いた。
エリゴスは終始落ち着かない顔をしていた。
「TFSSチームの移送と市民の保護、そしてキュプロクスの救援をしてくれたようだね。感謝するよ」
「はい……」
「スティンランド、市民はあの三人で全部?」
「そうっす。他には救難信号も無かったです」
「了解したよ」
「……?」エリゴスは首を傾げて二人を見た。「シェルターは全部確認したのかしら」
「してねーですよ?」
「じゃあ救難信号の有無をどうやって確かめたの? EMPが強い環境だと受信なんて出来ないと思うのだけど……」
スティンランドが目を伏せる。
コルトがふむと頷いて「君は状況が分かっていないんだろうね」と言った。
「……コルト。エリゴスに、現状について教えてやってほしいです。何も知らされないまま飛び出してきたらしいので」
「スヴィトスラーフ衛生帝国との戦いについてだね。君は全く何も知らされていないということで良いね?」
「し、知らされておりません」エリゴスは恐縮して言った。「事前の下調べが不十分で申し訳なく……」
「謝罪を求めているわけじゃないんだ。うーん。スティンランド、私の言い方はそんなに厳しいかな」
「別にっす。エリゴス、今の状態のコルトは、ずっとこんなんだから、気にしなく良いですよ。銃より冷たいんだから」
「何を知りたいかを教えてくれた方が効率が良いだろうね。そういうわけだから、君の方から現状について確認を取ってほしい」
コルトの応答は真実普段と全く変わらない。民草もスチーム・ヘッドも数値化されたパラメータのついた有機物としか見做しておらず個人的な情愛の働きは著しく制限されている。
マルボロの記憶の中にいるコルトなら温かい抱擁と真っ当なねぎらいの言葉の一つもあっただろうが処置を受けてアルファⅠ改として完成したコルトは全自動戦争装置の端末に近い性質を持っていた。
全自動戦争装置が人間を増減する数字でしか認識出来ないように彼女はネットワーク上を行き交う情報を通してしか理解出来ない。この規制の程度を緩めたアルファⅠ改ハルハラ・スカーレットドラグーンは早々に発狂して自壊した。
コルトを守るために何よりもまずコルトを殺す必要があった。
「で、では……防衛ラインを突破されているようですが、全自動戦争装置の端末が撃破されたのですか?」
「されていないよ。物理的に考えて衛生帝国の機体では彼女たちには敵わない。サルが何匹集まってもエベレストを崩すことは出来ないだろう? 今流れ込んでいるのは撃ち漏らしだけだよ」
「撃ち漏らしだけで戦線が崩壊するんですか?」エリゴスは戸惑った。「詳細は知りませんが現に都市が陥落しているわよね。います、よね。もう既に数え切れない程の都市が、市民が……」
「そこからなんだね。分かった。教えてあげるよ」
コルトは薄く微笑んだまま首を振った。
「これは機密情報だから、よく聞いて、すぐに理解して、永久に黙っていること。いいかい、戦争装置の端末はただの一基だけで、例えば陸戦用なら敵の機甲師団を五つか六つは相手に出来る。それが北米の各地に百基は展開してる。敵が十億だろうが二十億だろうが押し負けるというのは本来有り得ない」
「だけど都市が攻撃されているではありませんか!? 私は滅んだ都市から市民を三人しか見ていません、一体何が起きているんですか!?」
「世界最終戦だよ」
コルトは戦術ネットワークを介して世界地図を示した。
何もかもが赤く染まっていた。
北米大陸の端のごく一部を占める青い陣地が人類文化継承連帯の現在を領土を示すのだがエリゴスは即座には意味が掴めないようだった。
「なんですか、これは……」
「エリゴスにはちょっとキツいかもしれねーですね。だけど、気をしっかり持って」
「これは現在推定されている戦局図だよ。継承連帯の土地は蹂躙され尽くされてる。全ての市民は、後はクヌーズオーエまでどうにかして撤退する、ぐらいしか選択肢が残っていない」
「ちょ、ちょっと待って、理屈が合わないわ」咎めるような言葉が口をついた。少女騎士は慌てて両手で口を抑える。「ご、ごめんなさい。だけど戦争装置の端末が無事なのに、どうして、こんなことになるんですか?! 迎撃が正確に行われているなら、絶対こんなことには……敵はいったいどんな奇策を? 衛生帝国の新型兵器の仕業ですか?」
「それなんだけどね、目新しい戦術も兵器も投入されていないんじゃないかとスカーレットコントロールは予測している。これまでに散発的に行われてきた侵攻とあまり変わらない。今回違うのは、スヴィトスラーフ衛生帝国が自分たちに扱える人間を残らず戦力として投入してきていると推定される点だね」
「……え?」エリゴスは呆然とした。「残らずって、どういうこと、ですか」
「そのままの意味だよ。つまりね、継承連帯の抑えていない土地に住んでた人間が、残らず全部不死病筐体にされて、変異させられて、戦力化されて、一斉に私たちの領土に突撃してきているんだ。戦争装置が横断的に分析した結果だから確度は高いよ」
「……衛生帝国が、不死病患者を残らず、全部、戦力化……? 衛生帝国だって文化保護をしていたはずじゃ」
「今でもしているつもりなんじゃないかな? 民族衣装風の変な兵士も確認されてるし。私には彼らの思考は全く理解出来ないけど、現実と突き合わせると、とにかくそういう結論になるよ」
あまりにも現実離れした仮定に少女騎士は言葉を失った。
相貌がますます色を喪う。
蒸気甲冑を纏っていなければその場で崩れ落ちてもおかしくない程の動揺ぶりだった。
「ねぇエリゴス、君は最後の統計での地球の総人口は教わっているかな?」
「……百三十億、です」
「そうだね。だから、まぁ、敵もおおよそ百三十億いるということになるね。人類文化継承連帯の人口はおおよそ五千万。戦闘要員はもっともっと少ない。でも衛生帝国は百三十億の全てを兵士に改造した。理解出来るね?」
「は、あ……?」
異常な数字の飛び交う会話を司令所の兵士たちは無視した。彼らはこの状況に慣れ切って疲れ果てていた。人間らしい反応を示したのはメサイアドールの少女騎士一人だけだ。
人間は大きすぎる数を正確にイメージ出来ない。
百三十億もの敵性変異体が侵攻しているなどという光景は人間が処理出来る限界を超えている。
エリゴスは半ば錯乱しながら問うた。
「じゃ、じゃあ戦争装置による敵拠点への攻撃は!? 相互確証破壊で最終手段が執られていなかっただけの筈です、今からでも、サンクトペテルブルグの移動礼拝堂を狙撃すれば……」
「それは開戦直後に実行済なんだ。サンクトペテルブルグだけじゃなくて拠点と思われる箇所も攻撃済みだよ。かつてユーラシア大陸にあった大都市圏は地形ごと消え去った後か、これから消え去る」
「実行済み? 地形ごと……!?」エリゴスはおののいた。「私の知らない兵器まで……使われてるの……」
「そこまでやっても衛生帝国の部隊は止まる気配が全く無い。個別に無制限突撃の指令を入力されているか、破壊不能な有機的な思考ネットワークを構築してるか、もしくはその両方だろう、というのが現状かな。迎撃が上手く行っているなら、どうして敵が浸透しているのか? 二十億でも三十億でも全自動戦争装置の前では敵ではない。五十億ですら敵わないかもね。答えは簡単だ。百三十億人もの不死の兵士が突撃してきたら、どうしたって捌ききれない」
「そんな……そんな、そんなことって……」
あまりに現実離れした惨状に恐慌を示し始めた少女騎士にスティンランドはそっと寄り添った。多くのスチーム・ヘッドは涙を流せないがまだ幼いエリゴスは殆ど泣きそうになっていた。
無理からぬことだ。戦略眼を持たないスティンランドでも絶望的であると分かる。ただし強力な変異体は最前線で戦争装置が概ね食い止めており後方には都市襲撃機などが巡回して対症療法的な掃討を行なっているためスケールの異様さに反してさほどの危機感はない。前線での暮らしが長いほどむしろこの究極的な戦争は幾らかミニマムなものに感じられて麻痺が進み終わりの見えない撤退戦への疲労だけが残る。
だが安全なクヌーズオーエで長く待機しており統治者の資質を持つほどに聡明なエリゴスにはこの前線の狂った実態を直視せざるを得ない。
百三十億の死なない兵士が生きた肉のうねりとなって世界の果てから行進してくる。ゲルミルやスケルトンのような人格記録を破壊すれば止まる個体だけではない。なりふり構わず前進するだけの、自動化された攻撃的な変異体が大半だ。砲弾の雨で粉微塵にしても数日後には新たに再生した手足で侵略の道を這い始める。進路上にある全ての人体を資源として略奪し辱めて感染させて改造し変異を与え己らの戦列に加えてしまう。
そしてこの殺戮のムーヴメントは人類文化継承連帯が地上から消滅するまで終わらないのだ。
全自動戦争装置がどれほどの攻撃を実行しようが戦闘用スチーム・ヘッド一騎当千の殺戮劇を繰り広げようが大した意味は無い。海を柄杓で掬って地上から消し去ろうと足掻くのと同じだ。
仮令たった一言告げるだけで奇跡を起こせる存在がこの地に在ったとしても唱える言葉に迷うだろう。「光あれ」と言えば光は生まれるだろう。では百三十億人もの多種多様な不死の変異体を消し去るにはいったい何を唱えれば良いのか。
「ねぇ、スティンランド、私たちが都市から市民を救ったとして、それで、どうにかなるの!? 戦線はいつか元通りになるの!?」
「ならねーです」スティンランドは無念そうに首を振る。「わたしたちの対応能力も完全に飽和してます。もう限界の向こう側にいると言っても良いです。もちろん、まだプロトメサイアの立てたメサイアプロジェクトに頼った最終手段がありますけれど……ねぇコルト、そこは教えてあげねーのですか?」
「まだ駄目だよ。意地悪じゃなくてね、メサイアドールが相手でも、私の権限では開示出来ない。<鹿殺し>を全て起動した後で、やっと前線兵士に伝えても良い情報になる」
「じゃっ、じゃあ、まだ、逆転の可能性があるんですか? この戦いに、意味はあるんですかっ!?」
「あるよ。もちろんある。可能性だけは、いつでもどこにでもある。私たちは可能性がある限り、神に祈らず、奇跡に頼らず、地道に死体の山で天国への階段を作らないといけない。それが必要だから、終わるまでそれをやらないといけないんだ。……ハルハラは死んじゃったし、シグも挙動がおかしい。スカーレットコントロールももうすぐ私一人になる。ああ、だから、君には感謝の言葉がもっと必要なんだね……」
コルトの冷淡な微笑が様相を変えた。
天使のような笑みであった。
心のない殺戮機構は改めてエリゴスの両手を握って語りかけた。
「歓迎するよ、メサイアドール。エリゴス。私たちの地獄へ来てくれて、本当にありがとう」
蒼白で震える少女騎士を抱き寄せる少女拳闘士にコルトは真っ黒な瞳を向けた。
「それと、君には残念なお知らせがある。発電塔がEMPが打ち消したあと、生存者がいないはずの都市に一つだけ有効な救難信号が確認された。市民が生存している状況では、私は都市焼却を実行出来ない。ジェノサイダル・オルガンなんて言われてるけど、私はとても人道的で困るね」
「……救難信号なんてありえない。何かの誤動作じゃねーですかね」スティンランドは躊躇いがちに頷いた。「だけど現地を確認する必要はありますね。手続きは大事です」
「話が早いね。この情報はまだ他には開示してない、人選は君の好きにして構わないよ」
「代理人相手に、話が早いも好きにしろも、なくねーです?」
唇を尖らせるスティンランドの腕にエリゴスの手が絡み付いた。
涙の滲んだ琥珀色の瞳に宿る意志の炎からスティンランドは目が離せない。彼女はあまりにもスティンランドの愛欲を注ぐ対象として条件が整っている。懇願されれば断れない。だから願った。
思った通りの必死な言葉を愛らしい唇で唱えないでほしいと願った。
「人手がいるというのなら、どうか私を連れて行って、スティンランド! 私は強いわ、きっと役に立つから! あなたの役に立ってみせるから! 結局無駄になるかもしれなくても、継承連帯がもう滅びるのだとしても……助けを求めてる市民を見捨てるなんて、絶対に出来ないわ! どこにだって駆けつける、どんな敵と倒して消し去る! そうやって市民を救うの! それが……それがメサイアドールになった私の使命なんだもの!」
拒絶したかった。スティンランドはコルトを見た。コルトの思考が分かる。端末であるクーロンには現実逃避すら出来ない。愛しいコルトのために何をしなければいけないのか正確に理解した。愛しいエリゴスのために何をしてやれるのかを考えた。
シガレット・チョコレートを咥える。噛み砕く。エリゴスに「お前さんは、ここにいねーのが、たぶん一番幸せでした」と囁く。問い返される前に言葉を乱暴な口付けで殺しチョコレートを注ぎ込む。エリゴスは息も絶え絶えにその接吻を飲み干して愛ではなく信任の言葉を求める。
甘味と愛情で真実を塗りつぶす姑息さを自嘲しながらマルボロならここでエリゴスを殴り殺して首をどこかに投げ捨てただろうかと考えたがスティンランドには決してそんなことは出来ない。
スティンランドはマルボロとは違う。違っていてほしいとマルボロに願われてここにいる。誰かを愛する心を求められて選ばれた。
マルボロに愛されていただけではない。マルボロと異なる可能性世界を有するからこそスティンランドは必要なのだ。
理想のためなら自分すら殺せたマルボロとは違う。
愛欲と拳闘と渇望だけがスティンランドを駆動させる。彼女は愛しいものを諦めない。我慢しない。絶対に手放せない。欲望に背くことは自己否定にも等しい。それが望まない未来に繋がる糸だとしても、ひとときの、いずれ乾きゆく愛のために。




