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アフターゾンビアポカリプスAI百合 〜不滅の造花とスチームヘッド〜  作者: 無縁仏
セクション4 殺戮の地平線  世界生命終局管制機 アルファⅣ<ペイルライダー>
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番外 いろいろスチーム・ヘッド その5 セラフィニア・ヴォイニッチ

 これは十日以内の更新が無理そうなので現れた「いろいろ」回です。何ともならない今日が積み重なって何にも無い明日になってしまうのだな。悲しいね。

 今回は大主教セラフィニア・ヴォイニッチについてのメモとなります。



大主教セラフィニア・ヴォイニッチ:



・大主教

 スヴィトスラーフ聖歌隊に七人いる大主教の一人、<徹宵の詠い手>。

 『ヴォイニッチ』は通り名の類。名前は『セラフィニア』なのだが、親しくそう呼ぶものは少ないし、セラフィニアが許さない。ためらいなく名前呼び出来るのは、彼女とものすごく親密である証。

 聖歌隊でも異端の人材。リリウムとは異母姉妹の関係にあり、聖父スヴィトスラーフの直系の娘である。母体になったのはキジールよりも古い時代のレーゲント。


 黒髪碧眼。生きた人形めいた非現実的に透き通る美貌の少女。リリウムが信仰を知らぬ罪人をも跪かせて閉じ込める透明なる氷河の美貌であるのに対して、ヴォイニッチは縋ろうとしたものを空の果てまで落としてしまう蒼穹の美貌を持つ。

 リリウムとは違う種類のファム・ファタール。

 三つ編みの先端をいじる癖があるのだが、自分では三つ編みが出来ない。



・聖歌隊での立ち位置

 信仰を装うことはあっても、神を全く信じておらず、聖書に語られる救世主すら、遠い昔にいた自分のような力の持ち主に過ぎないと考えている。

 佇まいは清楚で穏やかだが、内面は人間離れしており、信仰に対して侮蔑的で尊大。大主教になど絶対になり得ないメンタルの持ち主だが、聖父の特別な直系であることに加えて、一握りの聖句遣いが不死の肉体を得たあと一心不乱に修練を重ねてようやく至れる領域……が彼女の「スタート地点」だった。

 聖歌隊で用いられている高純度不朽結晶の全体の三割が、大主教になった後の彼女が単独で産出したもの。全体の二割が、彼女の率いる<徹宵の詠い手>が製造したもの。聖歌隊の所有する高純度不朽結晶の半数に彼女が関係していることになる。

 大主教クラスなら、前述の信仰の態度を当然に看破する。

 実際セラフィニアは白眼視されている。しかし、言わずもがな不朽結晶を自在に生み出せる存在は極めて貴重であり、能力も次元が違う。他の大主教とは色々な意味で評価される軸が異なっていたのである。


・聖句の特性

 セラフィニアの出力する聖句は、他の大主教のそれとは異なり、他者の精神や思考に干渉する作用が異常に弱い。この点では他の大主教、それどころか一般のレーゲントにすら大幅に劣る。普通なら一音節で済む簡単な洗脳さえセラフィニアは難儀する。

 ただし、彼女の聖句は他の観測者や特別な媒介を使わずにいきなり一次現実を改変してしまう。奇跡と呼ばれるものを簡単に起こせるのである。その奇跡でもって相手を心酔させ、洗脳することも可能かもしれないが、やはり人を介してのみ成果を出す他のレーゲントとは、根本からズレている。


 聖句遣いは多かれ少なかれ通常の人間と異なる思考形態を持っているものだが、大主教クラスともなると、普段使っている脳の領域自体が常人とはやや異なる。

 その中でも極端な例がセラフィニア・ヴォイニッチであり、彼女は聖句で他者の写像を構築して、聖句で構築された自分の内面世界(=代替世界)に取り込み、()()()()()()()()()()()()()()

 彼女にとって、思考とは他者が行うものである。セラフィニアは、他者の写像を操り人形にして思考を紡ぐ、人間の形をしているだけの何か、得体の知れないものである。彼女には生前から人間らしい『意識』が存在しなかった。裏を返せば人間らしくない意識は勿論あるということだが、それも彼女の脳ではなく、代替世界から発生していた。

 代替世界そのものとなった『第百番攻略拠点』のヴォイニッチの方が、いっそ自然な状態かもしれない。



・過去(幼少期)

 こうした事情から、幼い頃は他の人間と意思疎通が全く成り立たない(出来ないのでなく、必要ないので、やろうとしない)という問題を抱えていた。

 それではレーゲントである以前に人間としての運用がまず難しい。聖句関連の能力向上も期待出来ない。そこで似たような性質を持つレーゲント(母体になった人物)が強引に彼女の内世界に侵入し、ロールモデルを植え付けて同期させることで、多少人間らしくすることに成功する。『僕』といった一人称や中性的な言葉遣いは、このロールモデルに由来する。聖句に基盤があるため肉体的にも急速な成長を迎え、通常の人間ではありえない速度で二次性徴を迎える。

 そこまでの処置を施しても、自己完結した世界から目覚めただけで、精々が美しい人形が人間の真似のそのまた真似をしている……といったような歪なあり方へ変容したに過ぎず、セラフィニアは依然として異質なままだった。

 セラフィニアと通常の人間が話す時、それは会話の形式を取らなかった。誰かが問い掛ければ、セラフィニアは答える。しかし、木星にある宇宙船と地球の基地の間で通信しているのかというほど反応に時間がかかる上に、セラフィニアは話し出すと息継ぎをせず咳き込みながら一気に何もかもを話す。そして話し終えてしまう。

 自分の考えを述べるのではなく、その会話において行われる全ての自分の発言を、相手の発話を待たずして一方的に言い尽くして、終了する。

 世界の完全な写像を持つセラフィニアは、他者の実在を必要としてない。

 たいていの会話は、自分の内部に構築した複製モデルとのやり取りで完結してしまう。

 よくよく見知った相手なら、いつ何を話しかけられるのかほぼ全部察知出来るので、話しかけられる前に一通りの返事を終える始末。

 つまり「話しかけようとしたら勝手に話を始めて勝手に話を終わらせる(何なら相手のセリフまで全部自分で言う)」というのが気張っていない時の彼女の平常運転。

 会話が会話にならず、未来でも見ているかのような異様な物言いに終始する。結果だけ見れば会話らしきものは発生しているが実際には文字通りお話にならない。彼女が狂気に陥っているとまで言われた由縁である。

 しかも、生来から時制の認識が曖昧で、興奮すると過去から未来にかけてを一括で「今・ここ」として扱うようになる。こうなっては忍耐強い、あるいはセラフィニアに親愛を抱いている人間でも、彼女が何を言っているのかよく分からなくなる。

 あたかも人の自由意志や意思決定を否定するような態度なので、話を聞かされる方はストレスが溜まって仕方がない。凍てついた海のような透明な心か、溺れ狂わせるほどに深い愛情、夜明けの星じみた完結した自尊心、悪徳の汚辱に浸かってでも清い願いを叶える覚悟などといった極端な精神性がなければとても付き合えない。しかも当たり前のように奇跡を起こして、相手の尊厳を傷つける。

 類稀なる美貌の聖少女でなければ、悪魔の落とし子である。



・過去(十代前半)

 セラフィニア本人も、まともに他者と会話が出来ず、あとついでに(他者を見下しているにせよ)自分の特性のせいで他者から邪険に扱われるのは、かなりのストレスであった。

 聖句の特性で他者を取り込んでいく都合上、年齢に見合わない発育の外観に違わず大人びた人格になっていたし、あと他者を蔑ろにするくせに、他者の悪感情を無条件で中に入ってくるのが、正直なところ結構辛かったのである。

 そこで相手に合わせて適切に区切って発話する訓練を積み、母から引き継いだロールモデルに「台本」を組み合わせる小細工を重ねることで、ある程度までは円滑にやり取りが出来るように取り繕っていく。

 この台本作りに便利だったので使っていたのが、身近にあった聖書。セラフィニアも他のレーゲントと同じく文字を読めないが、書物を内世界へ取り込んで要素ごとに分解することは可能なので、かなりアクロバティックなやり方ではあるが、識字が可能。

 聖書を話のネタにするようになって彼女への評価は一変。当たり前のように奇跡を起こし、息切れを起こすほどに熱く信仰を語る娘、言葉よりも先に信仰心を得たがために、それを伝える術を持たなかった壮絶なる聖少女であると再解釈されて、崇められるようになる。

 崇められると気分が良いのでさらに奇跡を濫用するようになり、本で見た、現実に存在しない草花を手遊びで作り出すようになる。また、自分の聖句の特性を活かして、怪文書の量産まで始める。一部の技術者やレーゲントには読み解くことが可能だったが、情報圧縮された謎の文字列は外側の人間からは怪文書以外の何かでなく、このあたりでいよいよヴォイニッチの渾名が付く。

 ますます増長し、同時に奇跡に頼ること、奇跡を通してしか自分を表現するしかない自分への猛烈な嫌悪からくる自己否定を繰り返し、セラフィニアは屈折していく。

 いくら聖書ネタを使うようになっても本質的には特に変わっていないので、気を許した相手には素の破綻した性格を見せて、嫌われたりする。前述の通り聖書その他はお喋りに便利だから使っているだけで、信心が芽生えたわけでもない。

 他所行きの顔は聖少女。

 本性は壊れた自動人形。そんな感じの思春期。



・過去(思想、人として死んだ十代後半、また幼少期からいかにして『人間』になっていったか)

 非常に強力な聖句使いだが、聖父スヴィストラーフの特別な直系でなければ危険分子として処分されていた可能性が高い。大主教でありながら反聖歌隊的な色調が強く、奇跡を興味の赴くままにもてあそぶことには熱心だったが、神がかり的な言動や、目に見えて次元の違う力に反して、野心と呼べるものが何も無く、力ばかりに注目する周囲に辟易して、非常に冷笑的だった。

 会話が不成立なのに、自分より聖句遣いとしての程度が低い他者を簡単に理解して感情を取り込んでしまう(そして疎まれる)という特性は、繰り返しになるがヴォイニッチにとっても非常に苦しいものであった。自分のような歪な知性を計画的に作り出した父母には、憎悪しないまでも強い不信感と軽蔑の念を抱いていた。

 崇められて気分が良くなっても、それはくだらないくだらないくだらない奇跡と、父母譲りの美貌のおかげ。おぞましいカルト集団の中でしか生きられず、そして権力者に手折られるための弱い花。カルトに染まりきれない彼女の青春は、決して明るいものでは無かった。

 いっぽうで、実質的な育ての親であり、愛を語り愛を尊び、セラフィニアの性質を拒絶せず、本心から信じられるような愛を注いでくれるマザー・キジールにはよく懐いていた(キジールぐらいの聖句遣いなると、セラフィニアでも内面を完全にコピー出来ない。分からない、ということはセラフィニアを安心させる)。

 また、何はなくとも熱烈な愛を注いでくれる異母姉妹のリリウムには、大いに刺激され、癒やされ、互いを誉めあい、求め合い、愛欲の対象として惹かれ、強く感化されていった。

 信心と奉仕の心、学術的向上心と聖句への憧れを強く持つ同年代のアムネジアとも交歓し、愛情を結んでいった。彼女はヴォイニッチの上っ面の奇跡ではなく、奇跡を手段として道を探すセラフィニアを愛し、夜道を照らす月のように彼女を導いてくれた。

 アムネジアはセラフィニアの右手としての立場に収まり、セラフィニアの面倒がるような仕事を全て引き受けた(極めて稀な、本当に気の合う存在だったのと、彼女がハイエロフィリア的な側面を持っていて、

セラフィニアの扱う奇跡に夢中だったからというのも大きい)。


 こうした同世代の少女たちのおかげで、セラフィニアは相互理解不能な冒涜者として世を嘲るばかりではなく、愛するものたちの態度を見習って、相互理解が無くとも誰かのために誠実であることを尊ぶようになり、多少は真面目に聖句を扱うようになっていく。

 救世主や奇跡を蔑みながら、救われぬ人々に惜しまみなく奇跡と資本による支援を施し、<清廉なる導き手>仕込みの色仕掛けを「台本」に組み込んで、まやかしの奇跡と混ぜて活用することで、自分を商品として求めた権力者層を呆気なく改心させ、洗脳していく。

 長じるにつれ、神のことは信じていないし敬わないにせよ、神の愛を実践することは全く厭わない……という捻れに捻れた人格へと至って、再誕者になる。

 神秘的な言動をする神がかりの聖少女として上っ面の地位を確立させたあともリリウムとともに邁進し、奇跡と上っ面しかないが『究極の大主教』に相応しいレーゲントへと成り上がった。



・<徹宵の詠い手>の特徴

 聖句によって何かを具現化出来るレーゲントが多く所属する。また、科学技術に反対的な態度を取る聖歌隊にありながら、聖句関連の研究者チームを堂々と擁している。

 これらは聖父スヴィトスラーフ公認であり、よって聖句の研究・開発部門としての性質が濃い集団であったと言える。

 セラフィニアは中身が中身なので他の大主教と折り合いがものすごく悪く、七人の大主教のうち、四人から疎まれていた。なお、彼女を疎む大主教の一人は、セラフィニア本人である。

<徹宵の詠い手>は祈りに祈りを重ねて理想を実現しようとする。物質の具現化(一次現実の改変)を果たせるレーゲントは希少な割にレーゲントとしての力が弱いので、不朽結晶生産などの功績や役割はあるにせよ、実働部隊の規模としては下から二番目のレベル。実質最下位であった。

 それでもなお大主教としての立場が不動だったのは、やはりセラフィニアが大量の不朽結晶を生産出来たこと、またセラフィニア・ヴォイニッチの主宰する一派が、派閥問わずで聖句をバージョンアップさせていったからに他ならない。見境ない聖句科学の提供により、聖歌隊全体の地力は数倍になった。

 奇跡などくだらない、特別なものではないという考える彼女は、他者の扱う奇跡を平等に軽んじた。結果として分け隔てなく他の大主教に力を貸すことになり、信用ならない人物でありながら確実に有用であるというかなり面倒なポジションを確立する。

 また、<清廉なる導き手>の大主教リリウムやキジールとの公私での連携も、規模の拡大と他派閥の牽制で役立っていた。

 教義の徹底した実践者である<清廉なる導き手>は、法悦で他者を支配するという非攻撃性ゆえに外敵を排除する能力に欠けるが、その信心と献身の態度は殊に特別視されており、最古参に近いキジールをも擁する派閥であるがために、暗黙的な権威は聖歌隊でもトップクラス。その穏健的な性質上、他の派閥に能動的に干渉する場面は少ないにせよ、(さらに上位、大主教の第一位に相当する人物にまるでやる気が無いので)最も高い発言力を持っていたと表現しても良い。

 相手の態度と関係なく惜しみなく愛を注ごうとする<導き手>と、環境に関係なく人工的な奇跡を追求しようとする<詠い手>は、庇護と研究、技術提供と技術活用で車輪の両輪のような関係を築いており、また、研究集団である<詠い手>に所属してしまった敬虔な信徒の苦しみを汲み上げて昇華する役割も<導き手>が担っていた。

 この二つの派閥は、目指すところも似ているところがあって、溶け合っており、外部からは一塊の勢力とみなされていた。



・現在のヴォイニッチ

 リリウムとともに解放軍に加入して以降は、心労の連続で、昔の非人間的な立ち振る舞いがかなり戻ってしまった。おかげで親しくない兵士たちには人格記録媒体の経年劣化で狂気に陥っている、などと誤認されがちに。

 反面、人類文化継承連帯の優秀な科学者のおかげで聖句技術のアップデートにも成功しており、自分が理想とした領域に至ることができた。盲目的に信じるばかりではない理解者も増えたため、決して悪いことばかりではなかった。

 そして彼女はリリウムに倣って皆を愛そうと努め、何も信じていないくせに、皆を救おうとした。

 悲痛な争いを防ぐために、攻略拠点を我が身に取り込み、都市を孕み、都市そのものとなった彼女は、不可知の領域で勢力の拡大を続けている。四次元方向までも開拓し始めた彼女には、未来と過去とが同時に見えている。

 彼女が今、具体的にどうなっているのか、実際のところ誰にも理解が出来ない。接点がない機体には、セラフィニアの気配を感じることさえ不能。よほど強力な聖句遣いでなければ無条件で取り込めるようになっているが、閉じ込めても相手に益が無いならその選択肢は選ばない。

 その在り方は苦痛に充ちているが、同時に内側では希望も胎動している。なので存外に穏やか。彼女は夢とも現とも、悪夢とも地獄とも知れぬ混沌の中で、来たるべき結末を、新しい始まりを、微睡ながら待っている。



・余談の余談

 聖句遣いとしては優れているが情報技術者として見た場合は……。

 彼女の組む聖句構造体は根気よく作り込まれており、優れた威力を発揮するが、だいたい全部スパゲティコードになる。

 死ぬほど重いのでそのままだと大主教クラスでないと実行出来ない。


 生前からご飯は食べたがらないしお風呂も好きな時だけ入りたいという困った性分。しかし料理や入浴を楽しむことは嫌いではないし、それをシェアすることにも意欲的。あらゆる欲望に素直でわがまま。


ヴォイニッチ・コードには日誌、研究記録、不適切な物を攻撃する防壁など様々な側面を持つが、それ以外に家庭向け豆知識本のような部位を持たされているのは、これがセラフィニアたちが趣味で作っているレーゲント向けの機関紙だからである。


 不朽結晶をいっぱい造れるので無茶を言って複数着の行進聖詠服を作ってもらっている。

 ごちゃごちゃした装飾は苦手。ギリシャ風のスタイルが楽で好みだが、無闇に扇情的なやつとか、リリウムに合わせた意匠の、キッチリしてて可愛いやつも持ってる。


 昔は病的にリリウムに執着しており、リリウムの肌を独占していた時期もあった。リリウムを変えてしまった天使様とやらには敵愾心を燃やしていたが、大主教になって色々な人と触れ合うようになってやや落ち着き、不滅者になって以降は「これから先も、これまでより前も、いろいろなことがあるものさ」とさらに楽観的になった。

 自傷とか発狂とかそういうことを無限に繰り返しているが生前からなので別に悪化はしていない。


 生きていた頃から時間感覚が曖昧で、一度何かを始めたらそれをやりっぱなしだった。自分の代替世界のリズムを乱す食事や睡眠、運動といった、定時の淡々としたタスクを嫌っていた。

 個人的な楽しみで料理をするのは好きだったので、災害や戦火で住処を追われた難民たちを保護して、不眠不急で奉仕と炊き出しを続けるような神がかった真似は、不死になる前から出来た(上っ面だけは本当に聖少女だったと言える。ただし本人には献身の意識とかはまるでなく、やれることのうちやりたいことをやって崇められるのが気分良かっただけ)。

 

 身体能力は素で常人を凌駕しているし、聖句で自分を直接動かせるので、嫌いなことだって、頑張れば全部やってやれないことはないが、頑張らないので、やれない。

 

 ヴァローナに<ヴァローナの瞳>を授けたのはヴォイニッチ。

 リリウムにお願いされての実装だったが、当時はあまりヴァローナを気に入っておらず、「何がリリウムの騎士だ、調子に乗らないで、自分と同じように過去と未来と今がごっちゃになる苦しみを味わうが良いよ」と半ば嫌がらせのような形で機能を追加してしまった。 

 ところが、ヴァローナは凡人なりにこの暴走しがちな力を乗りこなし、最終的には見事我が物としてしまった。これにはヴォイニッチも少なからずショックを受け、いらぬ試練を与えた自分を恥じて、態度を改めた。



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