セクション3 第百番攻略拠点接収作戦 その13 コルト・スカーレットドラグーン(1)
漆黒のスチーム・ヘッドは呆然と立ち竦み、膝から崩れ落ちた。
狭苦しい部屋に蒸気が渦巻く。
勝負は最初から見えていた。彼女が腕を振り抜く方が遙かに速かった。
脱力する。嘔吐する。甲冑の胴体を高純度不朽結晶弾が貫いていたがそのダメージによるものではない。
彼女は絶望していた。
己が娘の、力ない肉体を掻き抱いて、囁くようにして悔恨の言葉を紡いでいた。
「コルト、ボクのコルト。君は、君が思うよりずっと丁寧に改良されている。だから君の基準で、ボクの解釈を否定しまうんだろうけど、ぜんぶ、ぜんぶ、誤解なんだ。ボクが知らないうちに反故になってしまうような誓約は、未完成なこのメサイアには許されていない。ただそれだけのことだったんだよ……。コルト、ボクのコルト……助けてあげたかったよ。助けてほしかったよ。コルト……」
全ては終わったことだった。
誰かが選択し、誰かが受容した。
それはずっと以前に済んだ出来事で、二人に出来ることは何もなかった。
来たるべき結末が、当然のように訪れた。
出来損ないの救世主は、押し殺した声を吐き出す。
「誰か、誰か助けて。ボクを助けて。ねぇ、誰か……誰か……」
誰が叶えてくれるとも思えぬ願いを、ただ繰り返す……。
「誰か、助けてよう……」




