漂流 ~気になる持ち主~
「っ…………ッ!! げほっ! ペッ! ぺっ!」
砂利ついた舌に違和感を感じ飛び起きる。
唾を吐き捨てるが、それでも口の砂利は取れず、少しましになる程度だった。
体を起こすと体から嫌な音がいくつかする。
「さて……快晴だな。見渡す限りの海、その後ろには手つかずの自然……バカンスにはもってこいだな」
現実逃避するように浜辺にもう一度寝転がり、状況を整理しようと落ち着く。
――どこだ、ここは?
わからない。
――ルークたちは?
もう一度、体を起こし、周囲を見渡すが影さえない。あるのは船の一部らしきモノばかりだ。
ルークは鍛冶師の少女を掴んでいたので二人でいる可能性がたかい。問題はメアだな。
俺の近くにいたはずだが……潮の流れで別れたか?
――体は?
痛むが問題なく動ける。体が少しべた付くのと喉の渇きが気になる程度で、けがはない。
――思考は?
正常。だと思いたい。ここに来るまでの記憶が少し曖昧だがしばらくすれば戻るはずだ。
――持ち物は?
これが問題だ。着ているインナーとウォレスさんのお守り以外何もない。
防具は自分で捨てたも同然……せめて紐にでもつけて、いや、溺死する。
唯一、自分で離すことはないと思っていた双剣もない。記憶が確かであれば最後まで持っていたはず…………。
――結論。『極めて危険』
その一言に尽きる。
食料も確保したいが、後ろの森はどう考えても丸腰ではいけない。そうなると……浜辺を海沿いにまずは漂流者、食料、武器、防具がないか調べていくしかないな。
せめて、武器は欲しい。
ある程度、歩いたところで船の漂流物らしき箱があり、誰のかわからないが緊急なので漁らせてもらう。
女性用の下着、えっちな下着、すけすけな下着。フリルのついた下着。ふんどし。片手剣。ボロボロのドレス。手錠。首輪。女性用の普通な服。鍋。
…………………………。
さて、武器と鍋は手に入れた。次だ、次。
「ここまでか?」
危ない箱があったところからそれなり進んだところで、超えるのには体力がいりそうな岩肌が聳え立っていた。
登るか? いや、行って何もないなら体力の無駄だ。海を迂回するのは流れが速い、今の俺には危険だ。やめておこう。なら……。
体を木々が生い茂る方へと向ける。見たこともない植物があるので、行きたくはないが、こっち以外に選択肢はない。そう自分に言い聞かせ、足を踏み込んでいく。
「ゲッルルウル!!」
「しっ!!」
「ゲルっ!?」
森に入ること数十分。小型の肉食竜ゲオルグ。狩猟者にとって、しつこい、臭い、まずいと三拍子そろった、嫌われものに3回ほど襲撃を受けている。
だが、有難いことにこいつらは匂いさえ我慢すればある程度――いける。
森だと思っていたここはどうやら密林だったらしく。浜辺に比べ、気温が高く、喉の渇きが加速していたが何とか血で補充出来ている。
それと、所々人が歩いた痕跡があるのは救いだ。人が歩いたおかげで出来き、雨でも消せない草木の生えにくい場所が最も多い方に歩けば人に遭遇するはずだ。
それでも、後どれぐらい進めばいいのか? そんな不安が過らないと言えば嘘になる。
柔らかい土を食べ、鍋に入れたゲオルグの血を啜る。片手剣も無理に使っているので、そろそろガタがきてもおかしくない。
ザー、ザー……
水の音? それにこの気温が下がる感じ!
焦る気持ちを抑えつつ、慎重にその場へ向け歩を進める。
やがて、密林が少し開けた場所へつながり、そこから先は文字通り景色が違った。
小さな岩が一面敷き詰めてあり、その真ん中を何処からか流れる水が川を形成していた。
しかし、俺の視線は――ふむ。肩よりも長めの銀色の髪、上は小さすぎず、大きすぎず。腰はきゅっとなりつつも必要な筋肉はあり、おしりは少し大きめ。
改めて、良いものを持っている。――水浴びをしているメアに向いていた。
「――――きゃあああああああああああっっ!!!!!」
「ぐべらっ!?」
数秒。目を合わせているとこっちが反応できない速さでメアは平手を繰り出してきた。
腰の入ったそれは、軽装備の俺を吹き飛ばすには十分で密林側へ押し戻された俺は、数分そこで待機してから何事もなかったかのように戻った。
「メア! よかった無事だったんだな!?」
「変態っ! 普通はすぐに目をそらしますよね!?」
誤魔化せなかった。メアはすでにインナーとどこかで拾ったのか船とは違う防具を身に着けて、こちらを睨んでいた。
「悪かった。せめて目を逸らすべきだった」
「……忘れますか?」
「ああ」
「ならいいです。こちらもやりすぎてしまいました」
と、お互いに謝罪し、顔を見合わせるとすぐに情報のすり合わせを行う。
「……なるほど。最後そんなことになっていたのか」
「はい。最後にアキトさんが触手を切ったのに怒ったクラーケンがこっちに迫ってきたときは自分の眼を疑いましたよ。初めて、視るのに失敗したのかと……」
「それは悪いと言えばいいのか、何と言うか……まぁ、生きているしいいだろ? ルークたちもそれなら生きていそうだな」
「そうですね。クラーケンはアキトさんが投げた双剣で撤退したのはこの目で確認していますので」
メアの説明を聞き、曖昧だった記憶が補完される。
クラーケン撤退後は安全になったかと言えば違うようで、波が急激に早くなり、そこでメアも俺と同じく意識を無くしたようだ。
メアは俺が倒れていた浜辺とは岩肌を隔てた反対だったらしく、川の水が海に流れる所で倒れていたらしく、この川を辿ってここまで来たらしい。
通常であれば水場を辿るのは危険だ。モンスターも同じく水を飲む、それも大型ならそれなりの量だ。まだ、ゲオルグしか俺も見ていないが、その辺に生える植物でさえ、見たことがないものが多く、大型が居ても不思議ではない環境だ。
まぁ、メアは言葉にしないが多分『眼』――どの程度か分からないが――を使って安全かどうか判断してきたはずだ。
そうでなければただの死にたがりで、この先、行動するのが怖い。
メアと出会ってわかったことは、
メアの武器がナイフしかない。
この島がもしかしたら新大陸かもしれない可能性。
そして――例の箱はメアのではなかった。
戦闘少ないな……。もう少ししたら増えます。