冒険前
何時からだろう? 自分がどこまでできるのかが知りたくなったのは?
最初は村に出る小型モンスターの被害に怯えるだけだった。村に雇われた狩猟者の教官だった父が倒したそれらを掲げながら笑って、
「いつかお前もできるさ」
と、言っていたのは覚えている。
その後、父に戦うことの手ほどきを受けたが、その腕を見せることなく父が亡くなった。
討伐中の事故だったようだ。一緒に行った父の仲間が教えてくれた。悲しくていつまで泣いていたのか覚えていないが、涙が枯れたころには、村に新しい狩猟者が来ていた。
その狩猟者は怠惰だった。
村に出た小型は討伐せず、被害が出始めたら追い払うだけ。普段は家で酒を飲んでは寝ることを繰り返していた。
ある日侵入してきたモンスターに村の人が襲われた。
狩猟者は酔って寝ており、使えなかった。
僕が――俺がやるしかない。
父が作ってくれた装備を身に着け、教えを思い出しながらモンスターに挑んだ。
怖くて、逃げたかったが自分よりも恐怖で歪む人の顔を見ると何故か落ち着いた。
初めての実戦は……。
振りぬいた武器は空振り、当たっても浅く、相手を怒らせるだけ、それでも何度も、何度も、繰り返す、やがてモンスターは疲れたのか、あっさりと踵を返して森に帰って行った。
討伐はできなかったが村の人にはお礼を言われ、父の子だけあると褒められたのはかなり嬉しく、その時だった。
――バレナケレバイイ
そう、心で何かが囁いた。
父が固く禁じていた、密猟。
狩猟資格のない者がモンスター討伐を行うこと、モンスターが居る地帯に入ることはギルドで禁じられていたが、見張る人間は酔っていていない。村の人は被害が出なくなるならと見て見ぬふりをしてくれた。
モンスターの素材は村長がこっそり鍛冶屋に持ち込み加工して、町に売りに行っていた。
数年。
背が高くなり、垢抜けてきたと周りから言われてきた時期。
小型だけを狩り続け、村に被害が出なくなった頃――それは起きた。
近頃仕事のない狩猟者がその日は珍しく酒を飲まず、村を見回っていたようだ。
どうやら、仕事がなくお金が底をついたようだった。
少し前まではモンスターの取り逃すことがあったが、慣れてくるとそれもなくなっていた。狩猟者のことなど完全に忘れていた俺は、いつもの様に狩ったモンスターを隠せるように解体して袋に入れてから村に運んでいた。
「そこのお前……何だ、それは? それにその背中ものは――」
声がした。
酒で喉が焼かれたような聞きなれない声だったが、振り返ると誰の声か理解した。
その後のことは言うに珍しくなく、狩猟資格のないものがモンスターを狩っていたとして、ギルド本部に連行され、村には隠していたとして罰金が決まった。
悪いことしたとは思ったが、連行されるさい村長だけが最後に、
「お前のおかげで死ななかった人間は少なくても――目の前におる」
それは、これからどうなるのかわからない俺にとって何よりも、尊い言葉であり、救いとなった。
本部で洗いざらい自分が行ったこと、なぜそうしたのか? そういった事情をいかつい顔をしたおっさん連中に説明した。途中あきれ顔をされたが続けた。
それにより、村の狩猟者――最初の問題の際に村長がギルドに手紙を送っていたが取り合ってくれなかった――は変更となり、俺の処分が決まった。
密猟者に与えられる罰は例外なく、装備なしでの追放。それが決まりだったが…………。
「狩猟者。アキトに処遇を伝える。然る後、『新大陸調査の任を与える』」
「それまでは、本部で鍛錬に励むように」
たったそれだけだった。
狩猟者。
密猟者ではなく、彼らは確かに俺にそう言った。耳がおかしくなったのかと思ったが、目の前でニカっと笑うおっさんは嘘じゃないと伝えてくる。
「お前の父は教官だった。幼いながらもお前は手ほどきを受け、合格している。今日まで本部での手続きが遅れていただけでお前は狩猟者だ」
嘘である。俺は父に合格をもらっていない。死んだ父に手続きはできない。
黒が白へと変わり、その日以降、本部の飼い犬として地獄のような日々が始まった。
来る日も、来る日も討伐、討伐、たまに捕獲。そんな日々が続き。
飼い犬だということも忘れ、いつしか自分はどこまでやれるのかそう疑問に思った。
ソロでの任務が多いが、情報の少ない大型などは臨時の仲間を組んでの討伐など、自分の力がどの程度なのかわからなかった。
そして――
新大陸からの要請が来た――