2.昔話
お嬢様だ!
お嬢様お嬢様お嬢様・・・エンドレス。
尻尾が見えると毎回叱られる。
尻尾なんてないし。
「セニア。」
お嬢様が手を振っていらっしゃる。
わ~い。
「ぐぇ。」
また襟首を掴まれた。
「控えろ。」
「解っております。」
ほほほ。
直立不動!
「お送り頂いて、ありがとうございます。商会のケイン様。」
お嬢様が親しく名を呼ぶとか駄目だが、ケインは平民で家名も無いので、「商会の」を付けて呼ぶ。
豆知識豆知識。
なんだよ、にやけケイン。腹立つ。
でもいいんだ。お嬢様が居たらケインも『山猿』言えないしね。
ん?口が動いてや・ま・ざ・るって、殺す。
おっちゃ、ウィリアム氏が睨んでる。直立不動っと。
「さあ、帰りましょうかセニア。」
「はい!お嬢様!」
ふふふと笑うお嬢様とにゃひゃひゃと笑うあたし。
後でウィリアム氏に拳骨喰らった。
帰りの馬車ではあたしは御者の横に座る。
だから横を馬で並走するウィリアム氏がよく見えた。
警戒を怠らない目。パッと見、厳ついおっさんだが姿勢も伸びているし、動きもしなやかで実はそんなに年寄じゃない。
そして何より、オッチャンは・・・ウィリアム氏は結構お人よしだ。
ちょっと目があって「余計なことを考えてるんじゃないだろうな?」と目配せされた。わはは。
考えてたよ。お嬢様と出会う前の事なんか、ちょっとね。
***
ご飯を貰うには仕事をするのだ。
仕事をすればおなか一杯美味しいものが食べられる。
難しい仕事なら尚更。
皆。頑張って『訓練』していた。
沢山仕事をしておいしいご飯と時には新しい服。
仕事が楽になる『道具』はご褒美。
色々使ってみたけど、慣れると『油断』して怪我をする事もあった。
結局。
『練習』が大切だ。『先生』だってそれが一番大事だと言った。
***
なのに、ウィリアム氏は『先生』と違うことをいうからなぁ。
「お嬢様に血を見せないように守るんだ。」
自分のも相手のもって、師匠は難しいことをいうなあ。
馬車は屋敷の門を無事くぐり、出迎えるいつもの顔ぶれ。この屋敷の人はとても長く務めている人が多くて、孫の代まで務めていたりする。
また、昔がよぎる。
***
あの日は、家に帰ったら皆いなかったからな。
床は赤くてびっちょりしてたのに掃除係もいやしなくてさ。
『先生も』『生徒』もひとりもいないんでやんの。
今日の自分は皆より遅れて帰宅した。だから、皆からかって隠れてるのかな?
それとも本当に捨てられたのかな?
待っても誰も帰ってこなくてさ。
お腹空いたから、こういう時は『自力』で調達するんだ。
『訓練』は後回しで、『道具』もあったやつは自由に使っていいんだ。
『生きて』ないと『仕事が出来ない無能』なんだって。
誰もご飯をくれなくなって、誰も居なくなって、探したけどご飯は無くて。
お嬢様がご飯をくれたから。
だから私はお嬢様のお仕事をする。