1.拾われた子
※短め予定
私の仕えるお嬢様は綺麗
彼女の周りにたかる男子も美形揃い。
あ、勿論女子も可愛いどころがいっぱいよ?
私は違うけどねぇ。
私。セニアはお嬢様に庭先で拾われた孤児。
食い物のいい匂いに釣られて屋敷に入り込んだ私は、警備の兵士に切り捨てられる所だった。
精々放り出される予定だったのに私が反抗して、兵士の美味しくもない足に齧り付いてしまったのだ。
兵士だって人の子だもの、思わず逆上して剣を振り上げたり。
仕様がない。
剣が私の肩に当たり血がピュッと跳んで彼も正気に戻ったらしい。
いや~もう少しで死ぬ所でした。
屋敷内で流血。
焦る兵士。
痛くてそれどころではない私。
「どうしたの?」
そんな時に現れたお嬢様。
彼女は数人の侍女と護衛を伴ってやって来た。
後で聞いたら、庭先を騒がしく思い、見に行こうとしたのを使用人が止める為に付いて来て、大人数になっていたらしい。
そのお陰で私は命拾いした。
兵士も命拾い。反射的に自決しようとしたのを止められたのだ。護衛いたからね。
お嬢様を初めて見た私は、天から使いが迎えに来てくれたと思った。
華奢な少女の金色の髪が陽射しにキラキラ光っていて、覗き込む薄紫の眼がとても珍しかったからだ。
うずくまり、血に塗れた私は嬉しそうに笑ったらしい。
ホラーだったね。お嬢様ごめんなさい。
それから、月日はたちあたしの傷も治った。
招かれた家の庭先。
お嬢様はのんびりした方なので今日も逃げ遅れていらっしゃった。
何を?と言えば公爵家のお茶会において、公爵嫡男様にだ。
ロバイト様とおっしゃるその人はお嬢様より三つ年上の18才。
肩までの黒髪をいつも青いリボンで緩く結わえた、歳の割に色気ダダ漏れの月光の様にお綺麗な美男子です。はい。容姿の形容はお嬢様の周りの令嬢の受け売りです。
あたしにはのお嬢様に構われたいシツコイゴミにしか見えません。
ん~?目を擦って再度見てもゴミ。
おかしいなぁ?
おおっ!王太子殿下16才が参戦。金髪新緑の瞳の少々童顔美少年風で・・・あるらしい。
あんた婚約者いてるでしょう?庇う振りして触んなよ。
殿下の幼馴染で将来の近衛騎士が、殿下に付き従っておりまして、その人の活躍に期待です。
彼はこの国では珍しい褐色の肌に青い眼という容姿です。
この方も黒髪ですが短く男らしくしております。殿下と同い年ですが、男を強調したいお年頃?正装をちょっと崩して着ており、令嬢方が頬を赤らめております。
露出はヤメロ。誰か捕まえたげて。
やはり、期待できませんでした。
お友達の殿下に甘すぎです。
せめて口は出せ。
纏わりつくご子息方は、ウチのお嬢様の虜です。
社交界に中々姿を現さない『幻の妖精姫』と言われるお嬢様の、関心を引こうと必死です。
縁起物じゃないから!
拝まないだけましか?近所のばあちゃんなんかお嬢様を見ると手を合わせてくる。
石を投げようとしたらお嬢様に止められた。なんで?
やめてくれないかな。変な呼び名。
ああ、そろそろお嬢様が疲れていらっしゃる。
行かなくては・・。
「ぐえー。」
進もうと思ったのに襟を掴まれて後ろに引きずられる。
「物騒な物に手をかけるな。」
耳元で囁かれた。
ちら、見上げると師匠。
「かけてない。」
このおっさん(自称25才 花の独身)はあたしのセンセイだ。元々お嬢様の家の護衛の一人だったが、途中からあたしに『正しいお嬢様の守り方』を教える教師になった。だから『師匠』。
て言うと怒るけどね。じじむさい呼び方すんなって。
一応、敬ってるのに。
「じゃあその手は?」
「ポッケに飴玉が。」
盛大なため息が耳をくすぐる。うぜぇ。
あたしは侍女としてお嬢様を遠~~~くから見守っているのでそんなに怒らなくても。
「手を出せ。ここは他人のお家だからな。」
お嬢様遠いよう。
おっさん近いよう。
使用人たちは公爵様の好意で主の傍に控える事が許されたが、いかんせん遠い!
ご令嬢ご令息が豆粒程の遠さ。
庭!広いな!
他の従者は呑気に情報交換とお茶してやがる。ココ!人ん家!
「そろそろお迎え。」
「ああ、 」
とか言いつつおっちゃ・・。ウィリアム氏は背後を振り返る。
あたしの首をその腕で絞めたまま。は・な・せ・っ!
「ケイン。」
師匠オッチャンウィリアム氏が名を呼んだ。やなやつだ。
今日ここに来た理由の一つ。国一番の豪商のジェローム・ゴードン氏の使用人で跡継ぎと目されている男のケイン。御年18才というから凄いの一言。
あたしは凄く嫌いだ。
今日、宝石を売りつけに来た彼は、商魂たくましく、使用人達にまで安価なモノを進めている。
紛い物だがデザインの可愛いガラスの付いたアクセサリーとか。
「何?・・ああ。ソフィア様?」
解った風に言うな!
ぎぎっと睨むと、目が合った。
お綺麗な顔に浮かぶ笑わない青い眼と。
「山猿。相変わらずなの?」
蒼天の色をしている筈の瞳がどす黒く感じるよ。
「お前なら近づけるだろ、お嬢を連れてってくれ。大門の所で待ってる。」
「いいよ。」
「えぇ~。」
口を塞がれた。
「じゃあね。山猿。」
ひらひらと後ろ手に手を振って、優雅に遊ぶように歩いていくケイン。
ふわふわの緩い癖のある短い髪はごく薄い茶色だから。光を透かすとお嬢様みたいに綺麗に輝く。
禿ろ!
その背をぐるると睨みつけたままおっさんに引きずられたあたしは、来る筈のお嬢様を待つため、屋敷の大門の所へ。
途中使用人から変な目で見られたのは、あたしとオッチャンが手を繋いでいたからだ。首を絞めて歩くと要らぬ誤解を生むからね。
人ん家で、いい歳した護衛と、幼く見える侍女が手を繋いでいても変な目で見られるけどね。
オッチャンは手を放すとあたしがお嬢様の所へ走ると知っているので放しちゃくれない。
「ロリコン。」
「言うな!」
あ、流石に視線の痛さに気付いたか。
あたしはこう見えて13才。
奉公に出ててもおかしくない歳なんだけど。平均より小さいのが玉に傷。
おっちゃんは騎士。比較的デカイ。
「ロリ。」
「うるさい。」
思い立ったようにオッチャンが言う。
「武器没収な。」
「えぇ~。」