プロローグという名の人物紹介5
ストレングス学園の第一棟舎、50階に位置するホールを照らしているのは蒼き龍と緋き龍。
高さ100メートルあるこのホールで、二人の少女が闘うには十分すぎるくらいだった。
「雷鳴のように轟なさい!『静龍剣』!!!!」
イリヤは右手を前にかざして蒼い剣を出現させる。
それに応えるかのように楓も言い放つ。
「来なさい!『核刀・爆砕剣』!!!!」
右手を天にかざして、焔をまとった剣を出現させた。
「ニュートンに従い……」
「ニュートンに従い……」
楓とイリヤが同時に宣言した。
「戦力開始!!」
ステージと客席からそれぞれ飛び立つ2匹の龍──楓とイリヤは、ホール内をつばぜり合いで圧倒した。ホール内上空で焔と雷のぶつかり合いを見ていた一樹は思わず、
「す、すげぇ…」
目の前の光景に意識を持っていかれそうになった。
「感動してる場合か!逃げるぞ!」
後ろの席に座っていた司に意識を取り戻された。
「逃げるって、どこに逃げるんだよ!?」
「外だよ!それ以外逃げる場所ねぇだろ!」
ホールの出入り口を見る。たくさんの人が我こそは我こそはと、ギュウギュウになって押し合いになっている。
この調子だと、廊下もエレベーターも階段も使えない。
「外って、今行ったら人混みで逃げようにも逃げられないじゃないか?」
出入り口に指を差して今の現状を司に伝える。
「逃げないよりかはマシだ!早く逃げるぞ!」
今の司はこの現状からの解放が最優先らしい。
俺には確信があった。何に確信があるかといえば、そうだな。
ホール内を飛び回って剣のぶつけ合いをする二人の少女。
それはまるで、2匹の龍が共食いするかのよう。
そして、俺自身の能力。
正直、俺はその2匹を見ていても怖くはなかった。
「大丈夫大丈夫。ちょっと見学しようぜ」
「お前よくそんな冷静でいられるな、……またいつものように、やるのか?」
「…………」
俺にとって2匹の龍が共食いをするのは、いつもの事のように思える。去年、何度も何度も見てきたせいか、耐性がついてしまった。
──いつ見ても、この光景は飽きないな。
ホール内を右往左往、縦横無尽に飛び回る二人の少女は、目で捕らえきれなくても色で識別できる。
蒼き龍が緋き龍に技を繰り出す。
「『雷龍之叫』!!!」
蒼く輝く螺旋を描いた稲妻は、緋き龍、天上楓に向かった。
「『焔帝之核膜』!!!」
楓は焔で前面に壁を作る。
螺旋を描いた稲妻は焔の壁に焼き尽くされる。
「まだまだぁっっ!!『蒼雷雨』!!!!」
今度はホールの天井を雨雲が覆った。雲の隙間から雷が楓に降り注ぐ。枝分かれする雷を紙一重でかわす楓。時折、剣で弾き返す。
「さっきの威勢はどうしたの!」
蒼き龍、イリヤ・ゲイボルグが挑発する。
楓がよけた雷は、俺たちのいる一階席にも降り注いできた。
よっ、はっ、とぉ。
司の軽々しい身体は、羨ましいくらいにしなやかだった。楓と同様、紙一重でよける。
「そういうお前は、そこから一歩も動いてないじゃないか」
「まあな」
降り注ぐ雷を俺は片手で打ち消す。そう、それが俺の能力、『無力』の力。
『無力』──あらゆる能力を「無力」にする能力。
この能力のお蔭で、俺に繰り出される能力や技、『力』ごと、名の通りに「無力」にする。
だが、「無力」にするといっても、一時的に「無力」にするだけである。「消滅」とか「抹消」とか、そういう類いのものではない。あくまでも一時的に「無力」にするだけ。
こんなんでよく去年を過ごしたもんだ。さすがは俺!
自画自賛しながら降り注ぐ雷を打ち消し続ける。
司も自分の能力を使い続けているのか、バク転を繰り返しても一向に疲れる気配がない。
「司、疲れないのか?」
雷を打ち消す俺に、司は返答した。
「前にも言ったろ? 俺は疲れを知らないんだ」
聞き飽きた解答が返ってきた。
「さすがは『持久力』の持ち主だ」
「へへっ、だろっ?」
司は鼻を人差し指で擦る。
『持久力』──自分の持久力を操る能力。
「持久力」を操ると聞いてもピンとこない人も多いらしく、本人自信も分からないらしい。本人曰く、
いつか分かるから、それまで気長に待とうぜ。
これが神宮寺司である。
──まあ、いまは良いか。
俺は諦めて降り注ぐ雷を打ち消すのに専念した。
ホール内上空を緋い龍が蒼い雷をよけ続けていた。
「こんなんじゃ、キリがない」
楓は剣を構えて技を繰り出そうとした。その時、
「!!」
楓は気づいた。周囲を蒼い雷が自分を囲んでいることに。まるで鳥籠に閉じ込められた迷い鳥のようだった。
「(っ、囲まれた!?)」
「ふふっ、捕まえた」
小悪魔的笑みを浮かべるイリヤ。
「最初から、これが目当てで……」
「気付くのが遅いよ。天上楓」
「っ……」
自分が罠にかかっていたことに気付かなかった事を悔やむ楓をよそに、イリヤは続けた。
「そろそろ飽きちゃったわね」
イリヤは剣先を楓に向ける。
「それじゃあ今回は特別に、私の現時点での全力を食らわせてあげる!!!」
イリヤは剣を両手に持ち、天に掲げた。全身を稲妻が覆い尽くす。
「楓ちゃん!よけて!」
「もう遅い!!」
イリヤは楓に一撃を放った。
「食らいなさい!!『蒼雷電龍之帝煌』!!!!!」
これまでとは比べ物にならない稲妻が龍の如く楓に直撃した。空中で爆音と共に白煙が生じる。
「はあ…、はあ…、はあ…」
全力で放った一撃は、イリヤにも反動があったようで、本人自信、息を切らしていた。
「消し飛ばしてやったわ、はあ、さすがに…、あの一撃を食らって、はあ、消し飛ばないなんてことはないでしょう」
言葉の途切れ途切れで息継ぎをする。
「楓ちゃん…? あの楓ちゃんが…、本当に?」
白煙を見つめる司。
呼吸を整えたイリヤは白煙に向かって叫ぶ。
「見たか!!天上楓!!これが私の実力よ!!」
イリヤは勝ち誇った表情で天井を見る。
「ふ~ん。それが貴女の実力なんだ……」
楓のいた白煙から声が聞こえた。
目を凝らすと人影が写っている。
途端に白煙がホール内に吹き飛ばされた。
イリヤは目を見開いた。目の前の光景が理解できない表情だった。
「なんで……、どうしてまだ立っていられるの!? 私の最大の雷撃をまともに食らって立っていられるはずが……」
「ふふーん。どうしてでしょう? ね、一樹」
「さぁ、何でだろうな」
俺と楓の会話に追い付けない司が駆け寄ってくる。
「えっ、どういうこと? なあ一樹、どういうことだよ?」
イリヤも同じ表情だった。
「折角だから教えてあげる。これは一樹と一緒に作った技……『原子力発電』よ!!!!」
楓の全身を焔が包んだ。太陽のようにホール内を照らすその光は、正直言うと、
「暑い…、それに眩しい」
「暑いと眩しいって何よ」
「暑いもんは暑いし、眩しいもんは眩しいんだよ。少し抑えろ」
「そんなの無理よ」
イリヤは現状理解を完璧にする質問を楓に投げる。
「何よ、その技……」
「これ? これは、自分の能力を最大限まで引き出す技なんだけど、正直、使いどころを間違えると隙を突かれて倒されちゃうから、使いにくいのよね」
「ま、まさか、あの時に……」
楓が鳥籠になっている光景が目に浮かぶ。
「その通りよ。あの時、貴女がすぐにトドメを刺さなかったお蔭で発動出来た」
「そ、そんなの……、チートにも程があるじゃないのっ!何そのお約束展開!?」
それを聞いた楓がメタな発言をする。
「仕方ないでしょ。小説なんだから」
「何の話よ!」
「こっちの話よ」
イリヤも俺と似たタイプか……、仲良く出来そう。
俺がイリヤに親近感が沸いてくるのもつかの間。
「さあ、今度はこっちの番よ!」
「(くっ、ここは一時退散を……)」
イリヤは後ろを振り返る。
「はい、残念(笑)」
「なっ!?」
イリヤの背後に楓がにっこり笑顔で出迎えた。
「それじゃあイリヤ」
「へ?」
「さようなら(笑)」
楓は焔の一撃を繰り出した。
「『爆焔核龍之宴』!!!!!」
「きゃあああああああああああああああああ亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜!!!!!」
イリヤの断末魔がホール内に響き渡る。それを見ていた司は、
「楓ちゃんて、容赦ないなあ」
「俺もそう思う」
俺は司に同意した。
その後、教員が駆け付け、騒動は収まり、この始業式は全世界にテレビ中継され、その後の暫くは、教員は電話越しに謝罪の嵐を繰り返すのだった。それでも俺は、この始業式を一生忘れないと思う。この経験を将来生かせるように精一杯この後の学園生活を送ろうと思う。そんな一日だった。
めでたし。めでたし。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「何良い話にしようとしてるのかしら?(怒)」
学園長室に呼び出された俺と楓と司は、司を除いて正座させられていた。イリヤは、楓の一撃をまともに食らい、医務室に運ばれていた。
床にムチが叩き付けられる。
「ヒっっ!!」
金髪幼女は、今朝と同じように紙一重で床に叩き付ける。
「楓ちゃんは…、まあ良いとして…」
「なんで楓は良いんですか!?」
バシッ!
「ヒっっ!!」
「つへこべ言わないの、貴方だったら今回の件、穏便に済ませることが出来たでしょうに」
「そういえば先生、一樹が「大丈夫大丈夫。ちょっと見学しようぜ」って余裕ぶっこいてました」
隣に起立していた司が余計な事を言う。
「へぇ、そうなんだあ。司くん、報告ありがとう。下がっていいわよ」
「はい!失礼しました!」
金髪幼女に一礼して、学園長室を出ていった。
「楓ちゃん?」
「は、はい!?」
「今回の件、反省してる?」
「はい!心のそこから反省しています」
「嘘つけ!」
俺は叫んだ。
「分かったわ。楓ちゃんも下がりなさい」
「はい!」
楓は立ち上がり、金髪幼女に一礼しながら、
「失礼しました!」
楓は学園長室を出ていった。残ったのは俺と金髪幼女だけ。
「さあて、か・ず・き・く・ん??」
「は、はい!?」
俺は唾を呑み込んだ。この後行われる「生徒指導」に覚悟して、
「(次にこの金髪幼女が口を開いたとき、俺はもう死んでいる)」
金髪幼女の口が開くのを俺はただただ待つしかなかった。