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1人1人が『力』持ちの世界  作者: 卯月如月
プロローグ
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プロローグという名の人物紹介4


 ストレングス学園、第一棟舎の50階では毎年、入学式、表彰式、始業式、終業式、修了式が行われる。今年度も第699回目の始業式が盛大に挙行されると心の底から心の底から心の底から望んでいたのに……。俺は何も悪くないのに……。

 

 ──どういう状況なのこれ(泣)

 

 一樹は再び、学園長室で正座させられていた。

 

 「騒ぎを大きくした罰よ」

 「…………」

 

 金髪幼女セラの発言に、一樹は何も応じなかった。

 

 「なんで私まで……」

 

 隣には楓が一樹と同じように正座させられていた。

 

 金髪幼女セラがメタな発言をする。

 

 「同じようなことが、プロローグ2でもあったわね」

 「何の話ですか!」

 「こっちの話よ」

 

 こうして学園長室の床に正座させられるのにも理由わけがあるわけで……。別に好きで正座しているわけではないわけで……。

 

 事の始まりは、二時間前に遡る──。

 

 

 ストレングス学園の始業式は、各国からの来賓者やマスコミが大勢足を運び、その様子はテレビ中継されるほどのものだった。学生、教員、来賓、保護者等が50000人入るホールは、自分の席を見つけるのにさえ時間がかかる。そのため、高齢者や小さな子供は、入口から比較的に近い2階席、3階席、4階席を勧められる。最上階である5階席は、各国の首相や大統領等の専用席であり、生徒は基本立ち入り禁止である。生徒に関しては、携帯に座席表が送信され、自分の席は赤く塗られている。それが自分の席を表している。学生は一階席、それ以外の人達は2階席から5階席。毎年そのような構成で儀式は行われる。ホールが広い分、教員は細心の注意を払って生徒が迷子をしないように見張っている。テレビ中継を目の前にして粗相を一度起こせば、この学園の品が下がり、教員に責任が問われる。教員にとってこの始業式は、まさに戦場。生徒の中にはそれを逆手にとって儀式中に抜け出そうと試みる者もいるらしいが、正直そんなことをするのは不可能に近い。教員も必死なのだ。

 

 一樹にとって今年の始業式は、学園入学以来初めてだった。去年、一樹は別件で始業式には参加できなかった。まさか、去年の始業式であんなことが起こっていたなんて思っても見なかった。そしてそれが毎年の通例行事なんて思いもしなかった。

 

 

 ホール内を蒼く輝く龍のような稲妻が走った。矛先は《生徒代表挨拶》をしている天上楓てんじょうかえで。寄り道することなく楓めがけて直進し、ステージまるごと直撃した。

 

 「楓ちゃん!!」

 

 後ろに座っていた司が立ち上がって叫んだ。反面、一樹は後方を見ていた。

 

 すぐ目に入った。蒼く輝く一筋の光。学生服を稲妻が包んでいた。

 

 ──フッ、フフフフフッ、アッハッハッハッハッハ!!!

 

 場内に響き渡る笑い声。それはホール内の人間全員の視線を集めた。

 

 ホールの最上階、通称5階席に当たるところのほぼ中央に声の源は存在した。群青色に見える髪の余りが頭から両側に2つ。ツインテールの少女だった。

 

 「見たか天上楓!!私の実力を!!私の『ストレンジ』、『電力エレキテル』の力を!!」


 その叫声に上書きするように俺は言い放った。

 

 「お前がやったのか!!」

 

 稲妻の持ち主は一樹を見つけるとニヤリと笑みを浮かべ返答した。

 

 「ええそう!私がったの!何か文句ある?」

 「大有りだ!楓に何てことしやがる!」

 「楓?」

 

 一樹が楓の事を「呼び捨て」したことに疑問を抱いたのか、相手はしばらく一樹を見つめていた。

 

 「……よく見たら、貴方もしかして池浦一樹かしら?」

 「ああそうだ!それがどうした!」

 「へぇ、あなたがあの……」

 

 少女は再びニヤリと笑い、あからさまにわざとらしい口調で、

 

 「貴方が、去年の『戦力祭ストレンジフェス』で最年少優勝を果たしたっていうあの有名な池浦一樹よねぇ」

 

 場内が再びざわつき始める。

 

 ──池浦一樹って、あの有名な?

 ──『戦力祭ストレンジフェス』で最年少優勝したっていうあの?

 

 周囲から聞こえる言葉は、一樹にとっては不可思議なものばかりだった。

 

 「なあ司。俺って何かで有名だったりするのか?」

 「おまえ、それ本気マジで言ってんのか?」

 「心の底から本気マジだ」

 

 司は両手を腰に当て、ため息をついて説明した。

 

 「このストレンジ学園の伝統行事『戦力祭ストレンジフェス』は、この始業式と同じように全世界の人が見に来るくらいデカイものなんだ。699年前の第一回『戦力祭ストレンジフェス』からずっと優勝してきたのは三学年、まれに二学年が優勝することがあったらしいけど、去年までは一学年が優勝するなんて前例は無かったんだ。」

 「一度も?」

 「ああそうだ。全世界の人が、一学年のお前に衝撃を受けた。今までの三学年が優勝するっていうレッテル、いわば常識をお前が覆したってことだよ」

 「そんなに凄いのか、俺」

 「どんだけ鈍いんだよ、お前」

 「いや~、今の今まで知らなかった」

 

 俺は自分の存在が凄いことに苦笑いした。

 

 「その様子じゃ、楓ちゃんの気持ちにも気付いて無いんだな」

 「ん?気持ち?」

 「何でもねぇよ、それよりも今は楓ちゃんを……」

 

 「私をけ者にするなあああああああああああああ!!!!」

 

 5階席からの叫び声。ホール内が一瞬で静まり返る。同時に少女はステージに向かって助走をつけながら詠唱した。

 

 「蒼雷そうらいの覇者 龍王峡りゅうおうきょうの淵 蒼くきらめく電雷の塔 蒼天を駆ける静なる電龍 ニュートンに従い、これを解放す! 第 卅陸さんじゅうろくNニュートン、『電力エレキテル』!!!!!」

 

 5階席から少女が飛び上がった。と、同時に少女の身体を蒼い雷龍が包んだ。そのシルエットは普通の人間の原型を失っていた。四肢は龍の衣に成り果て、手先爪先は龍の爪が生えており、背中に羽も生え、尻尾もある。

 

 「(まるで、能力を身に宿した一匹の龍だ……)」

 

 光から解放された少女は、もはや人間ではない人間に成り果てていた。人間の形はあるにはある。四肢もある、両目も鼻も口も髪もある。そして何より、胸の大きさが大きくなった気がする。そのまま少女は、俺と間合いをとって降りてきた。

 

 「ふぅ、この私を除け者にするなんて、良い度胸してるじゃない、池浦一樹」

 「…………」

 

 俺は黙って少女を見る。

 

 「……何か言いなさいよ」

 「お前、名前は?」

 「……イリヤ、イリヤ・ゲイボルグよ」

 「イリヤ・ゲイボルグ!?」

 

 司が甲高い声で少女の名前を復唱した。

 

 「知ってるのか?」

 

 俺は聞いた。その質問が、司の「俺が周囲に対する認識の鈍さ」を再認識させるとは知らずに……。

 

 「お前本当に何も知らないのか!?」

 「お前が知りすぎなんだ!」

 

 俺は言い返した。司も論破されまいと話を続けた。

 

 「イリヤ・ゲイボルグだぞ?あの有名なゲイボルグ電力会社のご令嬢だぞ?ニュースとかでよく出てるだろ?知らない方がおかしい」

 「す、凄いのか?それ」

 「当たり前だろ!この学園の電力だって、すべて彼女が賄ってる。それどころじゃない。この世界の電力は彼女無しじゃ生きていけないくらい、彼女の『ストレンジ』、『電力エレキテル』は物凄いものなんだぞ!」

 

 司の熱弁の内容に、周囲も動揺を隠せない。

 

 それを見ていた少女、イリヤ・ゲイボルグは、

 

 「丁寧な紹介をありがとう。神宮寺司くん」

 「はっ!?今、俺の名前……俺の名前言った?言った?」

 「ええ、言った。言ったわよ。貴方の事は噂で聞いたことがあるわ。あの有名な神宮寺家の一人息子、神宮寺司くん」

 「うおおおおおおおおおお!!!!」

 

 司が大声で握り拳を2つ作る。

 

 「ど、どうした? 司、お前、大丈夫か?」

 「あのイリヤ・ゲイボルグお嬢様に名前を呼んでいただけた……。俺、もう死んでも良い!」

 「はっ?おまえ何言ってんの?もう一度言うぞ、おまえ何言ってんの?」

 「知ってるか一樹! あのイリヤ・ゲイボルグお嬢様は、かの有名なゲイボルグ電力会社のご令嬢だぞ! 世界の電力は彼女のおかげで成り立っている!」

 「それさっきも聞いた」

 「これからは、電気を使う時はイリヤ・ゲイボルグお嬢様に感謝して使ってくれたまえよ、一樹!ハッハッハ!」

 「駄目だ。全然聞いてない」

 

 自分の事のように話す司は、あまりにも馬鹿で、むしろ悲哀の目で見る他なかった。

 

 「それより、二人とも!!」

 

 イリヤは、右手人差し指をステージに向けた。

 

 「何か忘れてない?(笑)」

 

 俺と司は同時にステージを見た。

 

 ──あっ……。

 

 それまで忘れていた《生徒代表挨拶》はどこえやら──。

 殺気に満ちた楓が、両手に火球を作っていた。その大きさはそれぞれ、半径1メートル。

 

 「いつになったら私を助けてくれるのかしら?ねぇ、か・ず・き・く・ん!!?」

 「ちょ楓落ち着け!っていうか大丈夫なのか?お前あの稲妻食らって何ともないのか?」

 「ええ、お陰様で無傷よ(怒)」

 「おお、それは良かったな、無事で何よりだ、ははっ、はははははははは(震)」

 

 楓の発言を聞いていたイリヤが口を開いた。

 

 「嘘でしょ……、無傷なんて、そんなのあり得ない!私の雷撃を食らって立っていられるなんて、これまで一人も……」

 「私を甘く見すぎよ、イリヤ!」

 

 ──イリヤ?


 「お前達、知り合いだったのか?」

 「少しね。ちょっと顔見知りってだけよ、それよりも一樹、私をずっと放置しておいて、ただではすまないわよ!」

 「まてまてまて!!それ今朝食らったばっかりだから、一度灰になってるから!」

 「そんなの知るかあああ!!!(泣)」

 

 楓が一樹に火球を放とうとした時、

 

 「天上楓、お前はまた私の前に立ちはだかる壁となるのね……」

 「ん?」

 

 後方でイリヤが何かを発した。

 

 「力を化しなさい!『電力エレキテル』!!」

 

 天高く右手を伸ばした。

 イリヤの元に電気が集まる。

 ステージの天上灯が点滅し始める。

 

 「さあ、天上楓! 『戦力デュエル』よ!!」

 

 途端にステージの天上灯が消え、残った光はイリヤ自信から発する蒼い光のみ。ホール内を照らすのに十分な光だった。楓は諦めた表情で宣言した。

 

 「焔核えんかくの覇者 龍王峡りゅうおうきょうの淵 あかきらめく爆炎の塔 焔天を駆ける核なる爆龍 ニュートンに従い、これを解放す! 第 什弌じゅういちNニュートン、『原子力ニュークリア』!!!!!」

 

 緋い龍に包まれた楓は、イリヤ同様、一匹の龍のような人間に成り果てた。楓のほのおが更にホール内を照らす。

 

 「望むところよ! イリヤ!」

 

 闘いの火蓋が切って落とされる瞬間だった。

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