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1人1人が『力』持ちの世界  作者: 卯月如月
プロローグ
3/20

プロローグという名の人物紹介3


 ストレングス学園の第一棟舎は、150階建の高層ビル。その50階で入学式、表彰式、始業式、終業式、修了式は行われる。卒業式だけは100階にあるホールで行われる。そんな馬鹿高い建物が建ち並ぶこの学園は、最先端技術を惜しむことなく利用し、大都市と言えるほどの大きさに拡大し続けている。その大都市の中心、ストレングス学園の第一棟舎の50階で行われる始業式は、各国からの来賓者やマスコミが大勢足を運び、その様子はテレビ中継されるほどのものだった。学生は全員クラスごとに席についている時間帯である。始業式の開始時間は9時30分。

 

 「HRどころか、始業式にも間に合わないな、これは」

 

 50階ボタンを人差し指で連打する一樹を乗せたエレベーターは、ちょうど60階を過ぎたところにいた。

 

 「残り1分弱……間に合ってくれ」

 

 エレベーター内部のデジタル時計を見ながら、50階ボタンを連打し続ける。

 

 ピーンポーン

 

 扉が開いた。予想通りの大勢の人だかり。俺はその群衆をかき分け、ようやく始業式会場に入ることが出来た。

 

 「相変わらず広いよな~、ここ」

 

 学生、教員、保護者等が50000人入るほどの広さ。自分の席に着くまでに時間がかかる。

 

 「俺の席は……」

 

 アルファベットと数字で構成された座席表は、基本的に携帯に送られる。赤色で塗られたところが自分の座席だ。

 

 「って、ほぼ真ん中……」

 

 ホールはコンサートホールのように、前方にステージ、残りはすべて座席になっている。そのほぼ中央に位置する座席が赤く塗られていた。

 

 「ここだな」

 

 座席の真横に来た俺は、既に座っていた学生に断りを入れながら前を通った。ここを通るだけでも結構な時間がかかる。

 

 「ふぅ、やっと着いた」

 

 自分の席に座った俺は、動かし続けた身体を休ませた。

 

 「おせーぞ、一樹」

 

 後方から呼ばれた名前に反応するため、身体をくねらせて後ろを見る。

 

 「よっ!また一緒のクラスだな!」

 「司!?」

 

 そこには見覚えのある顔が俺の座席の真後ろにあった。

 

 神宮寺司じんぐうじつかさ──性別は男。年は16歳。誕生日は確か7月15日。血液型はO型。このストレングス学園に多少の影響を与えている神宮寺家の1人息子。『ストレンジ』の1つ、『持久力エンデュランス』の持ち主であり、こいつ曰く、

 

 ──疲れ?そんなの味わったことないけど?

 

 と、アスリートにでもなれば世界を狙えるほど、底無しの限界知らず。こいつとは隣の席になったのがきっかけで話すようになり、今では親友である。

 

 「新学期そうそう遅刻なんてお前らしくない。どうせまた楓ちゃんと何かあったんだろ?」

 「…………」

 「ふっ、図星か」

 

 さすがは親友だけの事はある。すべて見透かされているようだ。

 

 「お前の事だから、楓ちゃんを怒らせて核爆発でも起こしたんだろ?」

 

 俺は諦めて今朝学生寮で起こったことをかいつまんで話した。

 

 「おまえ、どういう事情でスリーサイズと体重を言わないといけないんだ?」

 「いろいろあるんだよ、俺には」

 「……まっ、いいけどさ。でも、あんまり楓ちゃんを怒らせんなよ。嫌われるぞ~」

 「安心しろ。もう嫌われてる」

 「……おまえなぁ」

 

 呆れた表情で司はため息を着いた。

 

 「ほどほどにしとけよ」

 「ああ、分かってるよ」

 

 ピーンポーンパーンポーン

 

 場内アナウンスが流れ出した。

 

 《本日はストレングス学園に、お越しいただきまして、まことにありがとうございます。


始業式に先立ちまして、お客様にお願い申し上げます。


携帯電話・アラーム付時計など、音の出る機器の電源はお切りください。

また、会場内での録音・録画機器の持ち込み、及び場内でのご使用は禁止となっております。ご遠慮ください。

客席内での、飲食・喫煙は、固くお断りいたします。

喫煙は指定の喫煙所でお願いいたします。

 

なお、始業式中はステージ以外の天井灯を消灯致します。予めご了承ください。 


間もなく始業式を挙行いたしますので、お席にて、今しばらく、お待ちください》

 

 ホール内の時計を見ると9時29分30秒を回っていた。

 

 すると突然、会場内がざわつき始めた。

 

 「ん?なにごと?」

 

 ホール内の人々が顔を揃えてある一点を見つめていた。

 

 「おいっ一樹っ!あれ見ろ!」

 

 司が俺の肩を掴んで、皆が見つめる方向に指をさした。さされた方に目をやると、ホールの右手、2階に位置する貴賓席と呼ばれる席にそれぞれ違った服装の老若男女の10人が座っていた。スーツ姿の人もいれば、和服姿の少女、西洋風の金髪の男性、ドレス姿の人もいる。和服姿の少女は日本人でそれ以外は全員外国の来賓者だった。

 

 「誰?」

 「おい一樹、おまえ知らないのか?『十力じゅうりき』だよ『十力じゅうりき』! 仏の力を携えた十人の仏様的存在の人達のことだよ」

 「仏って、…一度死んでるの?あの人達……」

 「そういう人もいるらしい……、なんせ仏から力を授かったって本人達が言ってるくらいだ、死んでいても珍しくない。中でもあの和服姿の人は『種種界智力しゅじゅかいちりき』っていう能力を持っていて、その能力でよく「世界最高裁判所」で裁判官を勤めてるって話だぜ」

 「そんなに凄いのか?あの人…」

 「あの人だけじゃない。むしろこの空間に『十力じゅうりき』が全員揃っていることが異常なんだ」

 「どうして異常なんだ?」

 

 すると和服姿の少女の目線がこちらに向いた。

 

 「なぁ一樹。あの人、こっち見てないか?」

 「まさか、気のせいだよ。あんな遠くから俺たちを凝視するなんて……」

 

 ──不可能ではないぞ……。

 

 「えっ?」

 

 突然視界が暗くなった。

 今度は何も、頭から覆い被さっていない。

 カタッという下駄の音が鳴り響く。

 俺は真正面を向いた。

 そこには紫を基調とした和服姿の日本人の少女がバランスよく前席の背もたれの頂に着地姿勢で俺を見ていた。

 

 「って、ええーー!!いっ、いつの間に!!??」

 

 後ろの司が思わず叫ぶ。

 俺自身も目の前の光景を100%理解するのに時間が必要だった。

 

 「まさか、あの貴賓席から飛んできた??」

 「ふふっ、ご名答じゃ、池浦一樹よ」

 

 和服姿の日本人少女は自分の人差し指を唇に当て、次にその人差し指を俺の下唇に当てた。

 

 「噂通りの能力じゃな、全然本性が読めん」

 「本性?」

 

 和服姿の日本人少女に疑問を投げた後、場内アナウンスが流れ出した。

 

 《ご来場の皆様にお知らせ致します。まもなく始業式を挙行致します。着席くださいますようお願いいたします》

 

 「それでは一樹……」

 

 そういうと少女は立ち上がり、

 

 「後程ゆっくりと語り合おうぞ」

 

 少女はホールの天井ギリギリまで飛び上がり、宙返りして元いた貴賓席まで戻った。

 

 「何だったんだ?今の……」

 

 しばらく俺は呆気にとられていた。

 すると後ろから司が俺の耳元に口を近づけて耳打ちをした。

 

 「気を付けろ一樹。『十力じゅうりき』の中でもあの和服の人の能力は一番恐ろしいって噂だ」

 「何が恐ろしいんだ?」

 「それは……」

 

 《只今から、ストレングス学園、第699回、始業式を挙行致します》

 

 場内アナウンスが始業式の挙行を宣言した。時刻は9時30分。

 

 「すまん一樹、また後でな」

 「あ、ああ」

 

 場内の天井灯の明かりが薄くなっていく。天井灯が完全に消えて、残った光源はステージの光のみ。そのステージ左手から、スーツ姿の金髪幼女セラが現れた。金髪幼女セラは、演台まで歩き、学園長挨拶を始めた。

 

 「(そういえば、楓も生徒代表挨拶があるとか言ってたな)」

 

 

 学園長挨拶が終わり、次に各国の首相や大統領挨拶が行われ、保護者代表挨拶も行われた。

 

 「ここまではいいんだよなぁ」

 

 司が後ろで呟いた。

 

 「どういうことだ?」

 

 微かに見える司の顔は、どこか困惑している表情だった。

 

 「まぁ見てろって」

 

 《続きまして、生徒代表挨拶》

 

 楓の出番が回ってきた。

 制服姿の楓が演台まで歩き、一礼する。内ポケットから式辞用紙を取りだし、生徒代表挨拶をする。

 

 「ここからだな」

 

 司がまた呟く。

 

 「だから何が……」

 

 そう後ろを振り返ろうとした瞬間、俺の真上を龍のような稲妻がステージにいる楓めがけて放たれた。ステージが轟音と共に白煙に包まれる。

 

 「(何だ今の、…雷?)」

 

 その轟音をかき消すかのように甲高い笑い声が聞こえてきた。

 

 ──フフッ、フフフフフッ、アッハッハッハッハッハ!!!

 

 声の主は後方からだった。

 

 「(女?)」

 

 俺は立ち上がって後ろを見る。ステージが白煙に包まれているせいか、場内がさっきより薄暗い。黒縁眼鏡をかけ直し、目を凝らして声の主を探した。

 そこにいた。

 ホールの最上階席、通称5階席に当たる。そのほぼ中央にそいつはいた。

 

 「(アイツかっ!)」

 

 一目見て確信した。一際輝く蒼い光。制服姿を蒼い稲妻が包んでいた。

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