プロローグという名の人物紹介1
「……あぁああぁあぁああああぁあああぁああぁあああ亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜!!!!!!!!!!」
いきなりの叫び声でごめんなさい。まずは自己紹介から。俺、この小説の主人公をやってます、池浦一樹と言います。性別は男。年は17歳。誕生日は4月6日。血液型はA型。見た目も体型も成績も何もかも普通の学生。強いて言うなら、黒縁眼鏡を掛けている。
「まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!!!!!」
何が「まずい」のか、17歳の典型的な学生にはよくある話。それすなわち──、
「寝坊」
慌てて起き上がり、学園に行くための身支度をし始める。
「目覚まし時計セットしたのに、なんで鳴らないんだ! っと、とりあえず早く着替えないと…」
「一樹うるさい!新学期そうそう騒がないで!」
と、隣の部屋から壁をドンドン叩くのは、俺の幼い頃からの幼馴染みにして同い年の、天上楓。性別は女。歳は17歳。誕生日は4月2日。血液型はA型。(認めたくはないが、)容姿端麗、才色兼備、頭脳明晰で学園のお姫様…、いや、アイドル的存在。(こいつは時々、俺の耳たぶをあまがみしてくる。名前の通り)
「なんで私の紹介してるの?そっちに誰かいるの?」
壁越しに疑問を投げかける楓に向かって俺は部屋中に響き渡る声でわざとらしく、
「ちなみにスリーサイズは上から……」
「ちょ、何言ってるの一樹!いくらあんたでもそれ以上言ったら殴るわよ!」
「そんでもって体重は……」
「それ以上言うなー!!」
いつもの彼女の言動にどこか安心した俺は、ホッと一息つく。
「ホッ」
「なに安心したよう顔をしてるのかなー??」
背後に異様な殺気を感じた。そっと後ろを振り返る。
「ヒっっ!!」
黒を基調とした制服姿の楓は去年飽きるほど見てきたが、今の楓は本来表には出さないブラック楓になっていた。腰まで伸びたショコラ色の髪が楓の威圧でなびいている。
「朝から私に欲情してくれてるのかどうかは知らないけど、少しやり過ぎじゃないかしら? ねぇ、か・ず・き・く・ん??!」
「ちょお前落ち着け!いつの間に俺の部屋に?じゃなくて!とりあえずその両手にある火の玉を収めろ!」
楓の両手にある太陽のような火球は、まるでご主人様に従うかのように浮遊していた。
「収められるわけないでしょ! いつもいつも私を怒らせて楽しんで…、今日という今日は絶対に許さない!!」
「待ってくれ楓!これにはいろいろと事情が…」
「スリーサイズと体重を言うのにどんな事情があるのよ!」
「とりあえず話し合おう。話し合う時間を…」
「遺書を書く時間ならあげてもいいわよ。」
「そんなのいらん!」
「そう。それじゃあ…」
「ストップ!ストップ!ストーッップ!火の玉大きくなってる!」
「当たり前よ。一樹の全身を骨の髄まで粉々に粉砕してあ・げ・る」
「楓さん。目が笑ってない」
「遺言はそれだけ?」
「遺言なわけあるか!」
「そう、それじゃあ一樹」
「へ?」
「さようなら」
「ギャーーーーーあああああああああ亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜!!!!!!!!!!」
学生寮の一室が爆発と共に灰と化した。
と、同時に楓の理解不能な発言を俺は聞き逃さなかった。
「どうして……そんなに優しいのよ」
後にこの騒動は、夫婦喧嘩として学園中に噂されることになる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
雲ひとつない晴れ渡る空の下、桜並木の学園まで続く道を、普通の学生は新しい門出に胸を震わせ、桜の香りに包まれながら登校する。登校途中で友達と出会い、「同じクラスだといいね」とか「先生は誰だろう」とか他愛もない会話をすることだろう。視界良好、体調は万全、学園の生徒としての自覚を持ち、学園の正門をくぐる。そんな感じで始業式を迎えるはずだったのに、
「どうしてこうなったーーーーーーー!!!」
晴れ渡る空?桜並木?新しい門出?なにそれ美味しいの(^q^)?
俺の場合は、そんな清々しいものではなかった。新学期そうそう「寝坊」したのだ。晴れ渡る空、桜並木、新しい門出、そんなものを体感する余裕もなく、学園の正門まで一直線に駆けていった。
「っ、楓のやつ! 起こしてくれても良かったのに…」
今朝の記憶が呼び起こされる。
「お前も寝坊したのか!」
学生寮の一室、201号室は、202号室の住人により灰と化していた。
「なわけないでしょ。私はあんたと違ってバカじゃないから、そんな失態なんてしないわ」
「じゃあ、なんでこんな時間まで部屋にいるんだよ。もうすぐHRが始まる時間なんだけど…」
時計を探すが、何もかも灰になったのでその存在すら認識出来なかった。
「8時53分16秒よ」
楓は、左手首に着けていた腕時計を俺に見せながら秒単位まで応じた。
「これもう、遅刻もんだな」
「あんただけはね」
「えっ?」
「私、始業式で生徒代表挨拶があるから、登校時間が遅いの」
「はっ?」
「そういうことだから、急いだ方がいいと思うけど?」
学園の正門はもう目の前に来ていた。正直、瞬間移動でもしないとHRには間に合わない。
「こんなとき、っ瞬間移動でも、出来たら、はぁ、はぁ、どんなに、楽だろうかっ」
言葉の途切れ途切れで息継ぎをする。
両足を振り子のように動かして、学園の正門をくぐりかけた。その時、
「あのっ!すみません!」
後方から可愛らしい少女の声がした。
「なんですか?今それどころじゃ…」
目を見開いた。視界に入ったその少女は、まるで野山に咲く一輪の華のように可憐な雰囲気を漂わせていた。俺はその姿にしばらく目を奪われていた。
「あ、あの、大丈夫…ですか?」
「は、はい!?(裏声)」
つい、裏声を出してしまった。こんな美少女がこの世に存在するのか、と自分の目を疑った。少女がこっちに近づいてくる。それにより一目では気付かない部分まで理解することが出来た。髪は銀色、後頭部に黒いリボンが見える。瞳は金色、そして制服姿。間違いなくうちの学園の生徒だ。そんな美少女に応じるべく、緊張していることがばれないように紳士らしく、
「なにか、ご用ですか?お嬢様」
誰だこいつ!じゃなくて!
「お困りのようですね。お姫様」
って違ーう!
「一目見たときから好きだった。結婚してくれ」
ってそうじゃない!
柄にもない答え方しか出て来なかった。そんな俺をよそに彼女は口を開いた。
「あっ、あのぉ、そのぉ…」
緊張しているのは彼女も同じようだ。
(可愛いな、この子…)
しばらく彼女は、緊張と戦っていた、のかもしれない。
意を決したかのように上目遣いで彼女は俺を見つめ、口を開いた。
「ここは、ストレングス学園で間違いないですか?」
「えっ、あ、ああ、うん。合ってるよ」
「そうですか。ふう、良かった。無事にたどり着けた」
「もしかして、新入生?」
「そう…ですね、新入生といえば新入生かもしれません。」
少女は場を改めるために1つ咳払いをしてから自己紹介をした。
「今年度からこの学園でお世話になります、エイル・テレグノシス・ジンテーゼと申します」
「エイル…、ええと、なんだっけ?」
「ふふっ、エイル・テレグノシス・ジンテーゼです」
「ええと、とりあえずエイルさんでいいのかな?」
「エイルで構いませんよ、池浦一樹さん」
「分かったよ、エイル、って今名前…、俺の事知ってるの?」
「存じ上げております。去年、この学園の伝統行事、『戦力祭』で最年少優勝を果たした『力』の一つ、『無力』の使い手、池浦一樹さん」
「よ、よく…知ってるね」
「何でも知ってますよ。あなたに限らず、この世のすべては理解していますから」
「この世のすべて…?」
キーンコーンカーンコーン
学園のチャイムが鳴り響いた。
エイルと名乗る少女は左手首に着けている腕時計を見る。
「9時ちょうどですね」
「じゃあ、今のチャイムは…」
「HRの始まりですね」
気付いたら俺は彼女、エイルの手を引っ張って学園の正門をくぐっていた。