6 シール
久しぶりに実家に帰ると連絡すると、母はとても喜んだ。
ビッグになると息巻いて上京しておきながら情けない毎日を送っている今の自分の生活ぶりを知られては立つ瀬がない思いだが、二年も家を空けていて、親父ももう定年に近いので、今年の年末くらいは帰らないと親不孝だと思った。
久しぶりの自室は不思議な感覚だった。ティッシュ箱の定位置、テレビの左に置いてあるアニメのフィギュア、勉強机についた見覚えのある傷跡、すべて記憶と同じなのに、こんなにも慣れ親しんだ部屋と違うように感じてしまう。まるでタイムスリップしてきたみたいだった。今の自分の精神状態が部屋に反映されていないからだろうか。
キッチンの角にある冷蔵庫から飲み物を取り出そうとして、扉に貼ってある数枚のウルトラマンのシールが目に留まった。幼稚園児の頃に幼児向け雑誌の付録でついてきたものを手当たり次第に貼りまくったものであった。一枚だけはがそうとした跡があり、うまくはがれずに表面だけベリっといって白い紙だけが汚らしく張り付いたままになっている。
こんなシール一つで鮮やかに幼いころの風景がよみがえってきた。
まだ生きていた祖父に連れられて誰もいない工事現場に行き、パワーショベルの土を掘る部分に乗っかったりして遊んだ。
近所の子供と髪を引っ張り合ってお互いに泣きべそをかいた。
母親を怒らせて、謝るまで口をきいてもらえなかった。
キッチンで料理をしていた母が、冷蔵庫の前で大きなのっぽの古時計みたいに動かなくなった俺を不思議そうに見ていた。危うく目から流れ出てきそうになっていた郷愁の塊をすんでのところで我慢して、冷蔵庫からお茶のボトルを出して一気に飲んだ。
身体の内側は震えるほど冷やされたのに、頬だけは熱いままだった。
もうすぐ一年、実家に帰ってない。
気軽に帰れる距離なら帰るんですけど、そうもいかないんですよね。
楽しく生活していても、家に帰るとふと思い出す家族。
同じ時間を共有しなくなった家族。親は尊いと気づいたのです。




