3 コーヒー
会社の近くにコーヒーショップがあるのだが、最近若い女の従業員を雇ったようで、店主と思われる髭面の男が熱心に仕事を教えているのを何度か見かけた。女のほうは大学生になりたてといったところだろうか、あか抜けない風貌で見るからにお上りさんといった様子だ。私はそういう女が好みだ。女を見かけるたびにその姿が頭の裏にこびりつくようになって、しまいには仕事中も女のことを思い浮かべるようになってしまった。
女は週に三日働いているようだった。私はコーヒーに興味など微塵もなかったが、このまま眺めているよりは面白いことが起こるだろうと思って、女のいる日に店を訪れてみた。
私が適当におすすめの品を聞くと、女は店主から教わったであろう売り文句をたどたどしく説明した。奥で作業をしている店主が手を動かしながら耳をそばだてているのがよく分かった。
私は女の説明の中から口に合いそうなものを選んでその日は退散した。あれだけ頑張って接客されて何も買わないというのは流石にかわいそうだった。
次の日の朝に早速試してみた。何やら淹れ方にも拘ったほうがいいと捲し立てられたが、そのあたりは全く耳に入ってこなかったので適当に作った。万年鼻づまりの私には香りを楽しむ余裕がなく、ただの苦いお湯でしかなかった。
女房は私が水しか飲まないのを知っているので、ついに新しい趣味に目覚めたのかと笑いながらからかってきた。お前がもう少し痩せる努力をしていたらこのコーヒーに出会うこともなかっただろう、と頭の中で言い返しておいた。
それから十年。私は相変わらず同じコーヒー豆を買い続けている。店主とも仲良くなって淹れ方も教わった。あのときの女はとっくの昔に見なくなっていた。
けれど、この苦くて熱いだけの液体を飲むのがやめられないのは、私の中の幻想に消えた、あの女のせいなのだ。
先日書き上げた太陽の麓に気に入らない部分がたくさんあるのでいろいろと手を加えているのですが、躓いてしまって全く進みません。
友人は同じ作品を手直しするより新しい作品を書いたほうが経験値が多いと……。
でももうしばらく粘ってみます。
それはそうと、日記代わりになるので面白いですね、これ。
習慣になるといいなあ。




