ビターチョコ姉さん
(そんな事があったのかい・・・彼女もそうだが、あんたもつらかったね)
(私は何も出来なかったです。彼女に声をかける事も出来ない。離れるホワイトチョコちゃんに声をかける事もできなかったです)
彼女に買われた後、私は彼女の家の冷蔵庫に仕舞われた。同時に、彼女のオヤツという『カカオ99%チョコ』姉さんも一緒に仕舞われていた。
ホワイトチョコちゃんとは正反対な、甘さが無い、苦味99%のチョコ。1%の甘さなど無いに等しいチョコレート。体にいいと言われているので、健康目的で買う人間は多々居るだろうが、好き好んで買う人間は、ミルクチョコやホワイトチョコに比べられたら、必然的に少数になるだろう。美味しく食べられるのが私たちの至上の願いだが、姉さんたちはそれが叶えられるのは中々難しい。故に、私たちにはかなり苦い対応をしてくるのが常だったので、こんな事話しても優しい言葉などかけられるとは思わなかった。その理由を聞くと、姉さんは少し恥ずかしそうに、こう言った。
(こんなあたしでも、悲しんでいる彼女を笑顔に出来たんだ。その彼女の涙の理由を気にかけるのは、当然じゃないのかい?)
そんな単純な理由だ。と締めくくったが、姉さんは本当に嬉しかったのだろう。単純な理由といえば単純な理由だし、私たちにとっては当たり前のことだが、姉さん達にとってはそれすらも難しい願い。それを叶えてくれた彼女を特別視するのは、当然の結果だった。
(しかし、嫌な予感するねえ)
(嫌な予感・・・ですか?)
私も少しは苦い考えは出来るが、それは甘さを引き立てるための苦さだ。どうも浅く考えがちな私とは違って、姉さんは苦さで出来たチョコだ。姉さんの言う『嫌な予感』というのは、私の浅い考えが及ばない所も考えての結果だろう。正直、自分のため。そして彼女のために当たって欲しくは無いものだ。と、そう考える事が甘いのだろうか?
(彼女が先輩に嫌われている理由はいくつか考えられるが、彼女が先輩より優れているゆえの妬みではない。練習時間の差がそう言っているからな)
たしかに、先輩は「練習時間が長くて時間がない」と、暗にそう言っていた。なら優秀な後輩を苛めているという線は消える。となると、先輩は彼女の何が気に食わないのか?バレンタインという時期と、女同士という事と、同じ部活仲間。そこから考えた結果、当然というか、必然的にそういう考えになった。
(まさか、同じ男性を好きになった?)
(だろうな。彼女より年上だとか年下だとか知らないが、同じ人を好きになったら、それでもうライバル同士。特にその先輩って言うのは、中々性格がキツそうだ。自分より年下なのに、自分と同じ人を好きになるのが許せないのだろうよ)
それで彼女に高圧的な態度を?ありえない。そう言いたいが、そんな考えは甘い。そう言って姉さんは黙ってしまった。それ以上は何も語らない。
(人間は・・・難しいですね)
美味しく食べて欲しい。それが唯一つの願いで、そのために作られて、生きている私たち。単純といえばそう。それ以外に何も出来ないといえば、それもそう。私たちには手も、足も、口も無い。どれだけ彼女の事を思っても、どれだけ先輩の事を憎んでも、どれだけ離れ離れになったホワイトチョコの事を思っても、どれだけ姉さんと解決策を話し合っても、私たちには何も出来ない。ただただ美味しく食べてもらう事を願う事しかできない。無力な自分をこれほど憎むとは生まれてから思ってなかった。結局そう思っても、何も変わらないことは決まっている。だがそれでも、自分の無力さを思わずには居られなかった。




