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新開発!「誰でも悟れる。脳人間経」試作品(しさくぼん) 実用新案出願思案中

作者: 頼春彦
掲載日:2017/01/25

 比丘びくよ、太古人体は一本の消化管のみであった。消化管が自ら動き、食べ、排泄し、生殖した。やがて栄養を蓄える臓器を生じ、体液を循環させる臓器を生じ、毒素を排泄する臓器を生じ、移動する為の器官を生じ、外界を知る為の器官を生じ、知り得たことを蓄積する為の器官を生じ、集積した知識を仕分ける機能を生じ、意識が生まれ、心が生まれた。


 比丘よ、我々脳によって生ずる意識は、己の身体を支配しているが、決して人体のあるじではないのだ。永遠の使用人であり、主への助言者である我々が、自分を主であると思い込んでいた。これ程の悲劇が此の世で外に有るであろうか。我々脳によって生ずる心は、己の人生を生きているが、決して人生の主役ではないのだ。引き立て役であり、端役にしか過ぎない我々が、大仰に嘆き悲しみ、喜びに浸り、人を殺め、愛し合ってきた、これ程の道化が此の世で外に有るであろうか。


 人体の主である消化管の意識を腸人間、そして脳の意識によって生じている我々を脳人間と名付ける。


 比丘よ、我々は存在せず、存在ではない。我々にとってこれ以上の悟りが有るだろうか。我以外に存在の根拠はなく、我こそが存在を証すものであるという人々に、我々は存在の根拠ではなく、存在とは無縁であると告げる。我々にとってこれ以上の教えが有るだろうか。


 だが比丘よ、私がニヒリズムについて語っていると思ってはならない。我々はニヒリズムとは無縁であり、関わる事もないのだ。我々は存在しないからといって何の作用もしないと思ってはならない。貨幣の価値は仮想であり、存在しないにも関わらず、この世に大きな力を及ぼしている。


 我々は、種としての腸人間の思惑を越え、人類を滅ぼす力を手に入れた。しかもその力を使う事を厭わない者までが現れるようになった。人類のみならず、他の種を滅ぼす事など気に留める事のない悪行に、もはや腸人間は沈黙を守る事が出来なくなったのだ。

 比丘よ、我々は腸人間の下僕として、謙虚に生きなければならない。種の保存以上に、生き物にとって価値のある行いは無いのであるから。



「脳人間経真言」

久遠の昔、我ら脳人間は人体の簒奪者と成れり。

人体の君主は腸なり、腸は我らをして宰相に任ず。

我ら命を忘れ、令に背きて僭主となり、人体を統べ来たるなり。

己を知れ、存在に有らざるを。行いを慎め、人体の領有を。

以て人という種に仕え、生命一切に傅くべし。

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