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 この国の人は、みんな冬が嫌いです。みんなあたたかい春を待ち望んでいます。

 それなのに、今年はなかなか春が来ません。


「春の女王様はどうしてるの?」

とみんなが口々に言いました。


 この国は、四つの季節を「春」「夏」「秋」「冬」四人の女王様がつかさどっていました。それぞれの女王様が交代で高い高い塔に住み、そこから国中の季節を変えるのです。

 しかし、いつもならば冬の女王様と春の女王様が交代する時期を過ぎても、いっこうに春が来ません。


 春の女王様と冬の女王様はちゃんと交代したのだろうか?

 春の女王様になにかあったのではないか?


 国の人たちの不安が大きくなったころ、王様からお触れがありました。



-----

 冬の女王が塔から出てこない。このままでは永遠に冬が続いてしまう。

 冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。

 ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

 季節を廻らせることを妨げてはならない。

-----



 このお触れに、みんな怒りました。


「なんで冬の女王は塔から出てこないんだ!」

とある人は、冬の女王様の勝手な行動に怒りました。


「それじゃ、ずっと冬ってこと?」

とある人は、嫌いな冬が続くことに怒りました。


「きっと理由があるんだよ!」

とある少年が言いましたが、誰も聞いていません。


 国の人たちは、みんな冬の女王様を責めました。

 中には、女王様のいる塔に登ろうとした人もいます。しかし、塔のあまりの寒さに、女王様のいる一番上まで登れた人はいませんでした。


「それじゃあ、女王様はごはんどうしてるの?」

とある少年が尋ねました。そう、この国の人には珍しく、冬が嫌いではないあの少年です。

 彼はこのまま冬が続いてもかまいませんでしたが、みんながいっぱい悪口を言う冬の女王様が心配で様子を見に来たのです。


「ついておいで」

と召使が言いました。王様から、この塔の最上階に住む女王様のお世話を頼まれている召使なのだそうです。


 召使は、国のどの人が着ているのよりも分厚くて暖かそうなコートを着ています。


「建物の中なのに、そんなにいっぱい着るの?」

と少年が聞きますが、答えはありませんでした。


 どうやら召使は、塔の階段を登るのに必死なようです。塔の中は長い長い螺旋階段になっていて、召使は自分の足元を一生懸命見つめています。


 少年は上に行くにつれて、だんだん寒くなっていることに気付きました。吐く息が白くなり、手袋越しにも触れている階段の手すりが氷のように冷たいことがわかります。

 そのうち、手すりも階段も氷で覆われてしまいました。気を抜くと、階段の氷で滑って転んでしまいそうです。とても寒いです。


「食事は、ここに置いておく」


 しばらく螺旋階段を登ったところで、召使が言いました。

 この場所は階段が途切れ、小部屋のようになっていますが、最上階まではまだまだありそうです。


「ここに置いておけば、冬の女王様が食事を取りに下りて来るんだ。寒すぎてこれ以上は登れないからね」


 召使は凍った机の上に食事の入ったバスケットを置きました。

 その横には、それとは別に真っ白い霜をかぶったバスケットがあります。召使はそちらのバスケットを顔をしかめながら持ちました。きっととても冷たいのでしょう。


「さぁ、戻ろう。よくここまでついてきたね。王様がお触れを出してから、たくさんの人と塔に登ったけれど、ここまでついてこられた人は少ないよ。この国の人はみんな寒いのが嫌いだからね」


 召使は、バスケットを抱えてぶるぶる震えています。とても寒そうです。


「僕は、もっと上に行ってみたい!」

と少年が言うと、召使は不思議なものを見る顔で少年を見ました。


「それなら、どうぞ。僕はもう下りるけどね」


 召使はそう言うと、背中を丸めて、逃げるように階段を下りてしまいました。


 少年は冷たい手をこすり合わせながら、それを見送りました。あまりの寒さに、鼻の奥がつんと痛くなり、涙がにじみます。

 それでも、少年は興味深そうにあたりを見回しました。明かりのない部屋は薄暗かったですが、本棚も机もろうそくも氷に覆われ、窓から入ってくる光にキラキラ光っています。大きなつららがたくさん垂れさがって、氷に覆われた螺旋階段も石レンガを積んだ壁も、水晶に閉じ込めたようにきれいです。


 少年は何度かその場で屈伸をして体を温めると、先ほど召使が置いたバスケットを持って階段を登りはじめました。


 上に行くとどんどん寒くなります。

 階段や壁を覆う氷も分厚くなって、氷でできた洞窟を歩いている気分になりました。少年が体を横にしてやっと通れるほどの隙間しかない場所もあります。

 冬の女王様は細身な方なんだろうなぁ、と少年は思いました。

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